内側
タイトルなんかに意味はない。
サブタイなんかに(ry
「雑魚いなぁ、随分とオレらに大口叩いていたわりに」
景は地面に蹲り泣きじゃくる男を見ながらそう呟いた。
「……にしても、こうやって使うわけか。オレの才能は」
そう言って、自らの両手を見る。
今でも両手から感じる。偽物の才能の感覚が。
無精髭の男の才能は、過去の恐怖の記憶を思い出させ見せる能力であった。
人の精神を壊すには向いていると無精髭の男は言っていたが、それはあくまで自分の才能の使い道の中での話であって、彼の能力には攻撃性がなかった。
精神を壊すにしろ、ある程度の攻撃性があってもいいはずだ。視覚だけでなく、五感……特に痛覚を思い出させてもいいはずだ。
しかし攻撃性が少しでも存在しようものなら、灯澄に才能で遮られた上に仕返しまで食らってしまう。
そのため灯澄に対する暗殺者は、攻撃性が皆無であり精神を壊すのに向いている才能者である必要があった。それが無精髭の男である。
そして景はその才能を組み替えた。
(…………それにしても、あの頭痛……)
無精髭の男の才能に攻撃性はない。
しかし景は激しい頭痛に襲われた。
(……恐怖の記憶が無かったから検索エラーが起こったのか?選択系だから有り得なくはなさそうだが…………)
アレが治まったときには自分の中の何かが弾けた。
瞬間的に、才能の使用法が理解できた。閉じ込められていた本来がやっと解き放たれた感覚。
誰かに自分の何かを隠されている……?
「……おーい、黒笠。大丈夫か?」
景は自らのどことない不安をねじ伏せ、灯澄に向かって問いかける。
灯澄は男の才能によって相当危ういレベルまで追い詰められていた。突飛的な行動に出る可能も高い。そのため、景は灯澄の事が心配であった。
問い掛けに返してくる言葉は無い。
無精髭の男の才能は、確認は出来ていないが解除されたはずだ。
灯澄が今も恐怖の記憶を見ている可能性は皆無。しかし灯澄からの返答はない。
「黒笠?」
景は周囲を見渡す。しかし、灯澄の姿は無い。
「………黒笠ッ」
景は知らない。灯澄が無精髭の男にナイフを渡された事を。
しかし、どこか自分の内側で何かが訴えかけてくる。
【このままだと、黒笠灯澄は死ぬぞ】と。
灯澄がどこに行ったかなど景には見当がつかない。そもそも今いる廃墟の場所すら知らない。
ただ訴えかけてきた何かが、道案内をしてくれる。今はそれに従うだけ。
(……そういや、この声……………さっきも……)
景が《声》として感知した内側で訴えかけてくる何か。
先程もこれが聞こえた、景はそんな気がしていた。あまりにも激しい頭痛だった為に正確には憶えていないが。
ともかく、今は《声》に従うしかない。
景は自分についての思考を捨てて、全力で走る。
しかしそれはやはり、今までの景では考えられない行動だった。
景の内側で、何かが変化した。それだけは確かだった。
「黒笠!」
一分も経たぬうちに、景は灯澄の元へ辿り着いた。
「……景…………ごめんなさい」
景に背中を向けたまま、首だけを動かしそう呟く灯澄。
左手には、先ほど無精髭の男から渡されたナイフが握られてあった。
「あたしは景を全てから騙しています。そうでもしないと景が守れなかったから」
「…………何を言っている?」
「……あのコートで無精髭の男、どうしたんですか?」
「オレの才能で、捻じ伏せた」
「やっぱり」
灯澄はさも当然のごとく、即座にそう言った。
「……どういう事だ?」
「景の才能は、変わらないんですね」
「…………?」
「言葉の意味は分からない方が良いです。それにもう景は巻き込みませんから」
「ッ」
無意識のうちに景の体が動いていた。灯澄が何をしようとしているのか感じ取ったからだ。
「いつも優しいですね、景は」
独りでに灯澄は言葉を投げかける。
「でも、あたしはもう耐えられません。あそこまで見せられたら、もう……」
「知った事か! お前が何に耐えられようが耐えられまいが、オレには関係無い」
「………あいつの才能もダメダメですね。昔に戻ってる………それとも思い出したんでしょうかね?」
距離を詰めた景は、灯澄の左手首を強く握りしめ痛みでナイフを落とさせようとした。
瞬間、景は誰にも触れていない左手首に強い痛みを感じた。
当然だ。灯澄の才能はどんな攻撃でも対象をすり替える事が出来る。
自分に降りかかる不幸を他人に押し付ける事の出来る才能なのだから。
(………邪魔くさい、才能だ…………………………ッ)
景は痛みに奥歯を噛み締めながらも、握る手を離す事はしなかった。
無精髭の男は言っていた。灯澄の才能は攻撃以外のものには適応されないと。
つまり、痛みは自分に返ってくるが手首の自由を奪う事は出来るという事だ。
離すわけにはいかなかった。
「止めた方がいいですよ。傷付くのは景ですから」
「オレにまでデスマス調か? 気持ち悪い」
「………別に景が無理する必要は無いんですよ? あたしが死ねばいいだけですし」
まっすぐ景の瞳を見て言った灯澄の一言。
それがこの上なく景をムカつかせた。
「死ねると思ってんのか?」
「自殺って言葉くらい景は知ってますよね?」
「そういう事じゃねえ。オレが止めないとでも思ってるのかって聞いてんだ」
「……何が言いたいんですか?」
「そのまんまの意味だ」
そう言うと景は掴んでいた手首を離す。
「自殺したいなら、先にオレを刺せよ」
「お前が死ぬなら俺も一緒に死んでやるー、ってやつですか?」
「違うなぁ。お前じゃオレを殺せないって言ってやってんだ」
灯澄はしばらく景をまっすぐ見つめ、深呼吸をする。
対して景は、自分の内側で訴えかけてくる何かに従って才能を使用する準備をする。
「―――――言っておきますけど、あたしは今の景だと思って、容赦はしませんよ」
「―――――言っておくが、オレはお前が刺してきたら情け容赦なく即座にブチ殺すぞ」
最後に一回、灯澄が深呼吸をし、躊躇いなく一歩を踏み出す。
景は構えることなく、そのまま灯澄を迎え撃つ。
物凄く分かり難いと思います。
まあ、主人公の才能(能力)が特殊で説明してないので釈然としないんだと思います。
というか主人公自体がわりと特殊(?)なのかもしれません