変化
タイトルなんかに意味はない
サブタイなんかに意味は(ry
灯澄に連れられる様にして、景はどこぞと知らぬ廃墟に来ていた。
後ろを確認するが、そこには無精髭の男どころか人影一つ見えない。
「おい、黒笠」
景が話し掛けるが、未だに灯澄は駄々をこねるように同じ言葉を繰り返しているだけだった。
「チッ…………」
舌打ちをすると景は強引に灯澄の手を振り解く。
灯澄は全ての動作を止め、ゆっくりと景を見る。
会話が出来る状態かどうかは怪しい所ではあったが、景は一応話し掛けてみることにした。
「いきなりどうした、黒笠」
「ぁぅ………あ、ぁ…………」
「黒笠、お前は何を見せられたんだ?」
「い………ゃぁ……」
その後、無言。沈黙。
灯澄は泣きじゃくった顔で景を見つめ、景はいつもと変わらぬ表情で灯澄を見ていた。
そして景はゆっくりと灯澄に手を伸ばし、デコピンをした。
「痛ッ………」
反射的に言ったのは景の方だった。
当たり前である。灯澄には、自分を対象にした攻撃の対象をすり替える才能がある。
デコピンであれ、銃撃であれ、自分に向けられた攻撃を相手に返すため灯澄が暴力に悲鳴を漏らす事などありえない。
(……才能は機能している、か…………なら本当にあの男の言う通り、何かを見せられた、って事になるが………人の精神をここまで揺るがす何か……一体、灯澄は何を見せられたんだ………?)
「おいおい、ここで鬼ごっこは終わりなのか?」
声のした方向を見ると、そこには無精髭の男。
「黒笠、逃げるぞ」
「おせぇーよ」
景が灯澄の手を取ろうとした時、激しい頭痛が不意に到来した。
「がっ……ぁッ!?」
頭蓋骨が内側からの圧迫により破裂しそうな痛みに、景は思わず片膝をつく。
両手で頭を抱えるようにどうにか破裂を抑えつけようとする景。
「お前、一般人っぽいけどまあ取り敢えずココで壊れといてよ」
「この……ッ…………なに、しやがったぁ?」
「何って、見せてるだけだよ」
「なにッ………をぉ?」
痛みをどうにか堪えながら、無精髭の男を睨み付ける。
「トラウマだよトラウマ。過去でもっとも印象に残っている恐怖の記憶を思い出させる、選択系才能。まあ凡庸性はクソってくらい無いし攻撃性も無いが―――」
「ぐぁ……ガァぁああアアああッ!!」
「―――確実に相手を内側から壊せる。今のお前らみたいにな」
あまりの痛みに景は屈みこみ、自然と漏れる絶叫を止められなかった。
(………んだよ、これ! 恐怖の記憶を見せる才能じゃないのか!?)
破裂しそうな痛みの中、景は思う。
(……黒笠がいきなりおかしくなったのは恐怖の記憶を見せられたから。それは理解できる…………だけど今の俺の状態は何だ!?)
限界に近かった。自らの脳味噌が膨れ上がり、頭蓋骨を圧迫し、あとは爆ぜるのみだった。
どうにかその感覚を両手で押さえつけようと景は手に腕に力を込める。
思考も回らなくなってきた。考えようとしても何もかもが飽和してしまう。
(…………何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは何だこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれはなんだこれは――――)
正体不明の現象。未知の激痛。
景は確かに恐怖に屈みこんでいた。
「んじゃ、さっさと自滅して貰おうか」
そう言うと、無精髭の男は灯澄の足元にナイフを放り投げた。
灯澄に誰かが攻撃する事は不可能だ。才能によって攻撃対象をすり替えられてしまう。
しかし、灯澄自身が自分に攻撃すれば通じる。
金属音を立て足元に落ちたナイフを灯澄はしばらく凝視し、静かに拾う。
「さっさとソレを首に―――」
「ッてーなぁ……おっさん」
男の声を遮るように、景が静かに立ち上がる。
「……あぁー、そういや最近じゃ学生でも才能があるんだっけか?」
「関係無い。オレはランクXだからな」
景は静かに男を睨み付けながら言う。
男は気付かないが、確実に今の景は変化していた。
普段ならば、景は一人称を使わない。俺、僕、私。自分を言い示す言葉など使わない。
「そもそも、オレにとって記憶なんてもんは意味無いんだけどなぁ」
「ありゃー参った。一般人なら、思い出したくもない記憶の一つはあると思ったんだけど」
「残念だったなぁ、だけどオレには関係無い話だ」
そう言いながら、景は不気味に笑っていた。
さすがに男も景の変化に気が付いた。
「あちゃー、一般人じゃなかったか」
「いや、一般人だ。ただ少し変人なだけで」
笑い続ける景に対して、無精髭の男はコートの懐から拳銃を取り出す。
「あのお嬢ちゃんにこんな物は通じないけど、保険はかけとくもんだなぁー」
「安心しろよ、通じないことに変わりはない」
景の発言に眉をひそめながらも、無精髭の男は容赦なく引き金を引く。
放たれた弾丸は、景の胸部を貫き、肉体を爆散させる。
「は?」
声を上げたのは男の方だった。
当然だ。拳銃程度の破壊力では人体を爆散など出来るわけがない。
あり得ないことなのだ。
「お前には徹底さが足りねーなぁ」
声がした。景の声だ。爆散した肉片の一つ一つから聞こえてくる。
聞こえるわけがない。あり得ない。
「恐怖ってもん見せんなぁら、在り得ないってレベルまでやらねーと」
声と共に、男の片足がもげた。大量の血液が噴出している。痛みはない。
その代りに、両腕から激痛が迸る。傷一つ無くもげてもいない両腕が。
在り得ない。意味がわからない。理解できない。
怖い。
「痛みで泣ぁくとは思わなかった。他の拷問地獄も用意しておいたのに」
「う……ぁが……ひ………っ!」
言葉にもならない呻き声をあげる男はそのまま徹底的に壊れていった。
無精髭と不精髭、どちらが正解なんでしょう?
誤字だったすいません。