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「すまない、俺がよそ見をしていたからだ」
「私の方こそ、お嬢様が来てなくて、心配で探してたせいで前を見てなくて」
「来ていない?」
「はい。私が屋敷を出る時にはまだ全然準備してなくて……我儘な方でしたし、間に合わなくて追い返されたのかもしれません」
サンドラ。貴女、入学式に出席してない事にされてるわよ。
あの女としては、絶対に間に合わないように仕組んだのでしょう。
なので出欠の確認もしなかったようね。
「私だけ入学式に出てしまって……きっと屋敷に帰ったらまた折檻されちゃいます」
「また?」
「はい。お嬢様は少しでも気に入らない事があると、すぐに暴力を……いえ、私が何も出来ないのがいけないんです」
こうやって健気な女を演じて、王太子に近付いたのですね。
サンドラの事を過去形で語っているあたり、侯爵家を追い出されるのは予想しているようね。
「私、帰ります。お嬢様もいないし、馬車もないでしょうから、歩いて帰らないといけないので……急がないと何をされるかわかりませんし。ぶつかってしまって、本当にごめんなさい」
チラチラと上目遣いで見ながら、可哀想な私!送って欲しい!と訴えているのですね。
わざとらしくスカートに付いた埃をパタパタと落として、色仕掛けですか?叩くのではなく、スカートを持ち上げて振るって、斬新な方法です。
「俺が送ってやろう」
まんまと策に嵌りましたね。
視線はチラチラと見えるフローラの太ももに釘付けです。
前回も似たような方法で出会ったのでしょう。
情けなさ過ぎて、涙が出そうです。
こんなくだらないきっかけで、私の人生が潰されたなんて!
私だけじゃありません。
これから侯爵家へ向かう馬車の中で、フローラは嘘八百を並べて、サンドラを貶めるのでしょう。
前回、フローラは侯爵家の侍女見習いではありませんでした。
王太子が侯爵家から救出してあげたのでしょう。
隣でワナワナと震えているサンドラの腕をそっと掴みます。
「行かせましょう、王太子の馬車で侯爵家まで」
ただし、私達の馬車が到着した後に着くように……ね。
英雄気取りでやって来る道化師と、間抜けな女狐を迎えてあげましょう。




