最悪の天職
俺は天職の神殿から逃げ帰り、三日三晩布団の中で泣きぬれた。
もう騎士や賢者の夢は捨てて、村人Aとして生きよう。
そう思ったんだけど、世間は世知辛い。
世界初のチカン師誕生とあっては噂が爆速で町を駆け巡る。
今まで挨拶したことも無い子連れの主婦にまで白い目で見られた。
「マリちゃん、あのお兄ちゃんを見ちゃいけません。眼が腐りますよ」
「うん、わかった」
ちくしょー!
なんで俺はこんな目に遭わないといけないんだよ!
俺はしかたなしに夢を諦め就職しようとするがどこも雇ってくれねぇ。
「うちは女の人のお客さんもいるので、問題起こしそうな人はちょっと……」
「前科者は雇ってねーよ!」
まだなんにも起こしてないから!
起こす気もねーから!
どこも雇ってくれないので俺は誰でもなれると定評のある個人事業主の冒険者になった。
でも、ここでも問題が……。
「チカン師? そんなわけわからん奴とパーティーを組むわけがねーだろ!」
「要らん要らん。俺たち迄、白い目で見られちまう」
ちくしょう、誰もパーティーを組んでくれねぇ!
悪評は千里を轟く。
これはサビア屋で仲間を買って一人パーティーを組むしかねぇな。
ちなみに『サビア』とは犯罪を犯したり、借金を抱えたり、戦争で負けたりして人権を失った人間の事。
無料で使えるお手伝いさんみたいな人たちのことらしい。
俺はサビアを買うべく、パーティーを組まないでも出来そうなドブさらいとか、薬草採りとかの依頼を黙々とこなしまくる。
そして、苦節1年。
やっとサビアを買う金の金貨500枚を貯めた。
サビア屋に行くと受付の女がニタニタと笑っている。
「どうしたんですか? チカン師さん」
天職の儀で俺がカス職を引いた途端に振った幼馴染のミントがいた。
ミントは意地わるそうな顔で続ける。
「モテなさ過ぎて夜のご相手でもご所望ですか?」
「ちげーよ!」
俺は他の客がいるのも気にせず憤慨した。
「パーティーの戦力になるサビアが欲しいんだよ」
「またまた見栄を張って……ぷーくすくす」
「本当だからっ! チカン師なんて名前の天職だから誰も俺とパーティーを組んでくれないんだよ!」
「あらら」
思いっきり同情した目で見られた。
「でも、その予算だとパーティーメンバーに出来る様な戦闘系サビアは買えないわよ。最低でも金貨50000枚は無いとね」
「マジか?」
この一年、半額弁当を3日間掛けて食べるみたいな爪に火を灯す勢いで倹約して貯めた金貨500枚なんだが、これでもサビアを買うには足りないのかよ?
俺はがっくりと肩を落として店を後にしようとすると、ミントが声を掛けてきた。
「どうしてもその予算でサビアが欲しいというのならば、買えるのはこの角の折れたオーガの娘ぐらいよ」
オーガと言えば赤色の肌の戦闘種族の中の戦闘種族。
女であっても屈強な男の冒険者よりも強いはずだ。
それに身体も結構大きい。
これは強いに違いない。
角が折れてるけど、帽子でも被せておけば他の奴らからジロジロみられることも無いはずだ。
俺は即決でオーガ娘を買うことにした。
「よし! そのオーガ娘、買った!」
「念を押すけどこのオーガは角が折れてるけど、本当にいいの?」
「構わない」
「やっぱりそういう目的なのね……。手垢を付けたら返品は受け付けないよ」
手垢って……。
「しねーから、そんなこと」
俺はそういう目的でサビアを買うんじゃねーから。
仲間が欲しいだけなんだよ。
俺は念願のパーティーメンバーを手に入れて、ほくほくしながら宿屋に戻ったんだけど……。
「さあ、ご主人様も服を脱いでください」
オーガっ娘は部屋に入るなりいきなり服を脱いだ。
大きな胸の膨らみが弾けるかと思えるほど揺れるのが見えたけど、見なかったことにしてオーガっ娘を止めた。
「俺はそういう目的でお前を買ったんじゃない。俺と一緒にパーティーを組んで戦って欲しいんだ」
「え?」
オーガっ娘はキョトン顔をする。
そしてとんでもない事を言い出した。
「わたしは戦闘なんて出来ませんよ」
「なんだと?」
「本当です。元々は戦士だったんですが、角が折れているから今は全く力が出せないんです」
それで安かったのかよ……。
オーガの角が折れてると力を出せないなんて初耳だ。
ミントに騙された……ってミントも角が折れたことを言って念を押して来たよな。
俺の勇み足かよ……。
俺の一年の汗と涙と努力の結晶の金貨500枚は戦闘で全く使えない角の折れたオーガ娘という負債に変えられた。




