記憶にない初夜
俺の懐はホクホクしていた。
なにしろ多額の報酬が掛けられていたグレートサイクロプスを倒したんだからな。
でも良からぬ噂も広まってしまった。
「アルクの奴、グレートサイクロプスをチカンして倒したんだってよ」
「サイクロプスにチカンしたってことは、とんでもないゲテモノ趣味なのか?」
「あんな巨人を襲うなんてアルクの野郎、どんだけ女に飢えてるんだよ?」
ちげーから!
「俺が使ったのはチカンスキルで痴漢スキルじゃねーから!」
「チカンは痴漢だろ?」
「ちげーよ!」
俺がどんなに言い訳しても誰も聞いちゃくれねぇ。
でもいい、今の俺には金がある。
それにアイラからも金が貰えるはずだ。
宿での食事中、アイラが言っていた。
「しばらく、お前たちに厄介になるぞ」
「しばらく?」
「しばらくってどれぐらいだ?」
「この町から手紙を出しておいたから、迎えの者が2~3日で来るだろう。それまで厄介になる」
2~3日ならまあいいか。
それにアイラが言うのにはアイラを助けた報酬は金貨100枚超えの、かなりの枚数の報酬が支払われるらしい。
今日は酒場で前祝いだ!
ソニアを連れて酒場へと向かう。
ちなみに、未成年と思われるアイラはお留守番で宿屋でおねんね中。
懐ホクホクで財布の中身を気にせずに飲める酒は美味い。
ソニアと相当な量を飲んで、飲み過ぎたせいかその後の記憶があいまいだ。
*
翌朝、宿屋のベッドで目が覚めた。
どうやら酒場の軒先で野宿せずに無事に宿屋に戻って来れたようだ。
でも、なにやら様子がおかしい。
俺は全裸で、その右隣には俺と同じく全裸のソニアがいた。
「これは……事後?」
ソニアとは致してしまっても俺の所有物なので文句をいう奴は誰もいない。
あえて言うならば「嫌がる女とはしない」という俺の信念通りソニアと同意のうえで致したのかだが、嫌がるソニアを無理やりねじ伏せて男女の関係持ち込むほどの力は俺には無いので無理やりってことは無いと思う。
たぶん……。
問題なのは俺の左隣に下着姿のアイラが寝息を立てていたことだ。
モテなさすぎるのと酔った勢いの相乗効果でソニアだけではなくお貴族様の娘のアイラにまで手を出してしまったのだろうか?
平民がお貴族様に手を出したら、死刑だぞ!
こそっと起きて部屋を抜け出て証拠隠滅しよう……、なんて考えて部屋を抜け出そうとするとアイラの目が覚めた。
あちゃー、手遅れだ。
アイラは昨晩のこと思い出したかのように語る。
「昨日は楽しませてもらったぞ」
酔っぱらったせいで昨日のことは全然覚えてねぇけど、そう言われたらやることはやってしまったんだろう。
恐る恐るアイラとどんなプレイをしたのか確認してみた。
「アイラ様、それってどんなことをしたんでしょうか?」
「あんなことや、こんなこと……。初めてのことばかりで楽しかったぞ」
あー。
これは完全にアウトなやつだ。
俺って処刑確定じゃん。
これは一刻も早く町を逃げ出さないとダメだ。
その前に服を着ないと!
全裸じゃ町を出る前に衛兵に捕まるので、一刻も早く着替えたいんだけど部屋の中を探してもどこにも見つからない。
俺が逃げるのに手間取っていると、勢いよくドアが開け放たれた。
部屋の前で立ってたのは見たことも無い中年の男。
お腹でっぷりでヒラヒラの襟のピエロみたいな服を着てて、どう見てもお貴族様だ。
「愛しのマイハニーのアイラ、迎えに来たよ~!」
でも、部屋にいたのはフルチンの男と下着姿の愛しのマイハニーだ。
全裸が事後なのを物語っていた。
おっさんの顔は青ざめ、持っていた金貨袋を落とし中身を床にぶち撒けた。
「こ、こ、これはどういうことだね、マイハニー!」
男の膝はガクガクで今にも気を失いそうだ。
「事故に遭ったというので大急ぎで迎えに来たのに……。僕という婚約者が居ながらこんな貧相な男と情事を楽しんでいたのかい? 僕が貰うべき初めての夜を捨てたふしだらな女は僕には釣り合わない! 婚約は破棄だ!」
そう言うと、ガックリと肩を落として執事に肩を支えられて帰って行った。
俺はアイラに聞く。
「今のは誰だったんだ?」
「私の婚約者」
「婚約者だったのか?」
「嫁入り先に向かう最中だった」
嫁ぎ先に向かう花嫁道中だったのかよ。
それにしてもアイラも運が悪い。
もうちょい遅ければ俺は服を着ていたし、もっと遅ければ宿屋を後にした後だ。
アイラは最悪のタイミングで婚約者にこんなところを見られてしまった。
全裸の男と一緒に居るところを婚約者に見られたのならば、破談を突き付けられても仕方ない。
俺はアイラを慰めた。
「婚約が破談となったからって気を落とすんじゃないぞ」
「大丈夫。アルクに責任を取ってもらう」
「責任てなんだよ?」
「結婚?」
「なんでいきなりそうなる?」
俺と結婚する流れが全くわからん。
「子どもの頃から男女が同じベッドで寝たら結婚するものと教えられていたからな」
なんじゃ、そりゃ。
いつの間にか目が覚めていたソニアも満面の笑みだ。
「じゃあ、わたしもアルク様と結婚ですね」
俺は全裸じゃ格好つかないので着替えを探し続けているが、着替えどころか下着さえもどこにも見つからない。
有るのは床にぶち撒けられた金貨だけ。
500枚ぐらいは余裕で有りそうだ。
「この金はどうすればいいんだ?」
「それは私をサイクロプスから助けたもらった報酬を持って来てもらったものだから、受け取っていいと思う」
「じゃあ、ありがたく貰っておくか」
金貨を拾い集めていると、今度はおかみさんがやって来た。
「騒がしいと思ったら目が覚めてたんだね。昨日は大変なことになったけど風邪は引いてないかい?」
おかみさんは俺が全裸でいる事情を知っているらしい。
「昨日はなにがあったんですか?」
おかみさんは昨日起こったことを笑いながら教えてくれた。
「あんたら酔っぱらい過ぎて馬に喧嘩売ったんだけど、馬に蹴られて肥え溜めに落ちてね。サイクロプスを倒してくれた町の救世主様をそのままにしとくわけにもいかないから、井戸で洗ってここまで運んだんだよ。着替えはまだ乾いてないから、風邪を引いたら困るからこれでも着ときなよ」
簡単にまとめると、どうやら肥溜めに落ちて全裸になったということだ。
ということはアイラとソニアとはなんにもなかったってこと?
「意識を失う寸前まで酔っぱらってたからね、その後のことはそこのお嬢ちゃんに聞いてみな」
そう言ってアイラを指さす。
そういえばアイラがあんなことやこんなことって言ってたけど、あれはいったいなんだったんだ。
「宿屋に連れて来てもらったり、食事をしたことだ」
そんな事が楽しかったのかよ。
取り敢えず、俺はお貴族様の娘に手を出してなかったのでギリギリセーフだったらしい。
「今日からよろしくな、アルク」
そう言う笑顔のアイラだけど、お貴族様の娘を親の許可も取らずにパーティーに入れていいものなんだろうか?
後から文句を言われて捕まるのだけはごめんだ。




