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日本帝国熊対策本部

作者: 稀Jr.

「このままでは、日本はじり貧になってしまう。撃って出ねばならんのです!!!」

と A 少将は叫んだ。

「なるほど・・・しかし、この時点で撃って出るにせよ、我が国の国力は限られている。どうすればよいのか? まずは熟考が必要ではないか?」

と T 大臣は答える。時は、昭和・・・ええと、200 年位。過去の大戦の前あたりである。おりしも、日本は ABCDEFGHIJK 包囲網・・・ええと、なんだっけ、兎にも角にも何かに囲まれてしまっていて、とても資源が足りなくなってしまったのであった。なので、撃って出なくてはいけなくなったわけだ。撃つためには、やっぱり大東亜帝国の復権だったか、八紘一宇だったか、そういうのが必要になって、後付けかもしれないが、まあ、そういうところで T 大臣は答えた。きっと、多分。

T 大臣は続けた。

「しかし、そこで、一気呵成に進んだとしても、我が国の軍が強大な敵に勝てるとは限らない。資源も乏しいのは確かだ。原油は輸入に頼っている。まずは、勝てるかどうかの試算が必要ではないか?」

「わかりました。まずは、シミュレーションをしてみましょう」

と、A 少将が言ったかどうかはわからないが、まあ、そういうことになったので、A は研究者を集めた。できるだけ若い人材を集め、頭が柔らかい学者や実業家で暇そうなひとを集めたのだった。頭が柔らかいといっても、出産直後、というか出産され直後の赤子のようなものではない。大泉門だいせんもんがあるわけはない。いや、第三の目のように額に穴をあける技術はあったかもしれないが、それだとホムンクルスを見てしまうことになるので、やめておいたほうがいい。いや、危険である。だから、頭が柔らかいといっても、つまりは思考が柔軟で老人のように頭が固いという訳ではないのだ。いや、老人の頭が固いというのも、なにも頭蓋骨が固いわけではなくて、むしろ、老人の骨は骨粗しょう症でスカスカになっているのだから、柔らかい・・・というか脆いのだ。だから、老人に無理な思考を重ねてしまうと、頭がパンクしてしまって、ぱかっと頭蓋骨が凹んでしまうかもしれないのでやめておいたほうがいい。そういう訳で、A は若手を集めたのだった。もちろん、当時は「シミュレーション」という用語は無かった、あるとすれば「ORオペレーションリサーチ」だ。そのあたりは、 A が知ってか知らないかわからないが、当時は昭和 200 年なので、記録に乏しく、戦時ムック本にも載ってないので筆者はよくわからない。


若手の学者や実業家や新聞記者などが集められた。

しかし、集められただけで、何をするか聞かされていないので、口々に想像だけで話し合っていた。


「いったい、我々は何をすればよいのだ?」

「朝ご飯の前に呼ばれたのだが、昼頃には帰ることができるのか?」

「そもそも昼食はでるのか?」

「納豆をかきまぜている途中に呼び出されたのだ。214 回かき混ぜればうまくなるのに、どこまでかきまぜたか分からなくなってしまったぞ」

「海苔は付けてくれるのか、温泉卵はどうなる?」

「お風呂は順番なのか? 何組から入るのだ?」

「寝るときはジャージでいいのか? パジャマは必要なのか? スカートが禁止なのはどういうことだ?」

「おやつにバナナは入りますか?」


まるで、修学旅行前なのか旅行中なのかの男子生徒のようである。

いろいろ考えたところで、皆で話しているだけでは解決にはならない。そもそも問題が分からないのだから、何を解決しようというわけでもない。

まずは、A 少将の話を聞こうではないか。ということで皆の意見は一致した。

A 少将は言った。


「皆さん、ご足労ありがとうございます。さて、我が国は現在、周辺諸国の熊に囲まれています。ときには市街地にスパイとして熊が出没します。あるいは、コンビニに押し入り、無銭飲食をしたりしています。もう、大変な騒ぎです。皆さん、ご存じの通り・・・」

「・・・・」


皆は、ぽかんとした顔で見ていた。

どうやら、ABCDEFGHIJK 包囲網の話ではなくて、熊の問題らしい。いや、何、なんだ、熊か。熊ならば撃てばよいのではないか。餌付けしたらどうか? 森に帰って貰ったらどうか? などの意見がちらほら出て来た。


「いや、熊というのはですね。生き物ですから人間とは異なるのです。保護の対象ですね。ですから、一概には撃つわけにはいかないのではないですか?」

「猟銃で撃つにしても民家や民間人に当たって困るでしょう。損害賠償の問題になります。そこは、いままで通り、警察の発砲許可を得て、目標を定めて、威嚇の意味をこめて足元に一発、そして眉間を一発ということで慎重にやらないといけません」

「森にどんぐりをばらまいて、森に帰って貰ったら如何でしょうか?」

「電話で抗議するのはどうでしょうか?」

「熊さん、こちら、手の鳴るほうへ、とおびき出しては如何でしょうか?」

「テディベアに相手をして貰ってはどうでしょうか?」

「くまモンを大使に仕立てて、熊の国に交渉に行ったらどうでしょうか?」


実にさまざまな意見が出てくる。

流石は、頭のやわらかい若手の集まりである。老人たちではこうはいかない。

一気に、管轄は環境庁だからとか、環境庁の予算は1億円で実は農林水産省が鳥獣被害防止総合対策交付金として各自治体に100億円程度の予算を出しているとか、そういう話にしかならない。

駆除するにしても、猟銃会員を集めるには限界があるとか、警察の予算も人員も限られているからこれ以上は無理だとか、じゃあ自衛隊に頼んだらどうだとか、自衛隊は防衛以外に災害対処をしているわけだから適切ではないかとか、いや、機動隊のほうが適切ではないか、とか、自衛隊を便利屋扱いしてはいけない、自衛隊の権限が大きくなると内政に関わるので特別編成を作ったほうがよい、治安維持隊とか人民への軍隊になりかねない、とか、現実的な議論しか出ない。つまらん。


そこは、どうだ、自衛隊の10式戦車を熊退治に使ったらどうか? とか、AH-64D アパッチロングボウを使ったらどうか? とか、F-35A ライトニング II 戦闘機を使ったらどうか? とか、そういう話にならないのはなぜだろうか?

絨毯爆撃はどうだ、住民に一時避難をさせておいて、熊の巣を一掃するのはどうだ? とか、B-2 スピリットを使ってステルス爆撃をしたらどうだ? とか。

いや、熊にステルスは無意味だろう。そもそも、熊は反撃してこないから、ステルスにするのは意味はないのではないか?

違うぞ、熊は反撃してくる。いや、先制攻撃で左フックを出してくるのだ。学者的には熊には右利き左利きは関係ないと言われているが、左フックが有効なのは間違いない(筆注:これ、ヒトからみて左が襲われるので、熊は右利きじゃないか?という話と、いや、ジャブなので利き手じゃないほうから出すのだという説と、単純に人間は右利きが多いので、左が防衛になりやすい(孫子の兵法もある)という話もあって、ちょっと判然としない)。このときに、顔を狙われることが多いから、亀のようにうずくまってしのぐのだ。このときに、亀仙人のような甲羅を持っていれば、熊対策になるぞ。


という発想はないのか? 

と A は思った。A は軍人なので、ちょっと兵器の類には詳しかったのだ。


その後、集まった若手は、熊対策のために、さまざまな手段を検討した。

資金を探り、熊相手にどこまで勝ち進めるのかをシミュレーション・・・じゃなくて研究したのだ。現在の日本の原油備蓄量、艦船の数、動員できる兵士の数、食料の備蓄、田畑への労働力、鉄鋼の備蓄、工場の稼働率などである。自国の利益を守るために、国民を疲弊させてはいけない。日本が資源に乏しい以上、頭を使って輸出を促進しなければならない。たとえ、ABCDEFGHIJK 包囲網 があったとしても、安易な熊対策に資金を投じてしまっては、長期化したときに資金難・資源難となるのは目に見えている。

ここは、外交努力として、熊との共存をはかるべきだ。いや、共存まではいかなくてもよい。本格的な戦闘をおこして拡大するまえに大使を派遣して、平和的な解決を求めるべきだろう。平和といっても、外交的にはつばぜり合いに違いない。時には侵攻をされるリスクも含むだろう。しかし、押し戻す防衛力を有しつつ、外交努力を惜しまないことが重要だ。頭脳の戦いであれば、人命を落とすことはない。いや、実は過労死するかもしれないけど。そこは、それ、ワークライフバランスを保って 36 協定ってところだ。いや、実は、公務員だから団体交渉権とかないんですけどね。いや、そこは、まあ、いいので、A は若手を集めて結論をもとめた。


「さて、宴もたけなわ・・・じゃなくて、議論も尽くしたところで、結論を出して貰おうか」

若手たちは、口を揃えていった。


「ここは外交努力を優先して、くまモンを平和大使として、熊の国に送りましょう」

「なるほど、そうだな、戦争は避けねばならん」


こうして、日本帝国熊対策本部は、くまモンを熊大使として熊の国に送り込むために、くまモンを訪問した。


「いやです、死ぬじゃないですか。熊相手だったら。私、人間ですし・・・」

「・・・・・」


のちに T 内閣が発足して、真珠湾熊攻撃が行われたのは、皆の知っているかもしれない事実である。


【完】


https://x.com/azukiglg/status/1982464649477112106 からのインスパイア短編です。


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