第5話 ②午前中は座学
翌朝、大砲の座学が始まった。私テレサは、いままで投石機で海岸に近づく海賊船を撃退する任務に就いていたけど、やっと、大砲が設置される運びになったのだ。投石機は石を投げるだけなので、船は小さすぎてほとんど当たらないけど、抑止力にはなる。
〇×△
講師いわく、
「そうとう昔から大砲は作られたけど、鉄を溶かす技術がなかったので、青銅の鋳物が使われた。でも、強度不足で何度も連続して打てなかった」
そうだ。近年鉄製の武器が普及してきた。ほとんどは鋳物の大剣で、切るというより殴り倒すような使い方。
鉄鉱石を製錬し、薄めの鉄板を作れるようになった。石炭を焼いて作ったコークスをつくることで温度を上げられるようになったのが良質の鉄が作れる大きな理由だそうだ。
錬金術師の長年の研究で、鉄は、鉄以外に炭素が含まれていて、炭素の含有量で強度や延び方がずいぶん異なることが分かったそうだ。
講師は続ける。
「直径10cmくらいの鉄の長い棒に、薄い鉄板を少しずつずらしながら巻いていって5cmほどの厚みにし、これを高温の炉に入れて、全体をなじませると、強度があって軽量の大砲が作れる」
そうなんだ、鋳造ではないのだね。
「質問は?」
「どのくらいの期間で製造できるのですか」
「最近、製法が確立されたので、3か月ぐらいだね。内側は磨かないといけないからね」
〇×△
午後は、大砲を試射している場所の見学だ。耳栓をしないと鼓膜が破れそう。
わりと、砲弾は早く装填できる。でも、土塁を盛った斜面にある標的には全く当たらない。
「当たらないものですね」
というと、にらまれてしまった。
「ほとんどが届かないのですね」
というと、また、にらまれてしまった。
〇×△
「仰角を1度上げたらどうですか」
睨んできたいる砲術師に、
「仰角とは何だ。わかるようにいえ」
と。確かに、大砲の台座には目盛りも何もふられていない。
大砲の尻の部分に鉄の板を重ねて角度を調整するようだ。
「今、32度くらいですね、33度にすると、発射速度から計算すると4mほど遠くに届くかと、概算ですけど」
ぐっとにらまれる。
軍曹がどういう意味かと聞いてきたので説明をした。