凱旋。
目が覚めたとき、言ってみたかった言葉がある。
「知らない天井だ。」
いや。ここは?外かな、青空だった。
知らない青空だ。と言うべきだったか。
魔王城が、吹き飛び荒れ地となっていて、青空が広がっていた。
こんな青空は、魔族領に来て初めてだった。
ということは、勝ったのか?
「ローザ。気がついた。大丈夫か?」
誰かに、いや、1番安心出来るヒトに、抱きかかえられている。
「あ、あの、魔王は?」
「あの光で、動きが止まって、エイタさんがトドメを刺した。」
「ということは?」
「うん。魔王は死んだ。」
「そう。良かった。あ、皆は?」
「大丈夫。みんな動けなくなっているけど。無事だ。」
「あ、じゃあ回復魔法を」
と思ったら、やさしく口に手を当ててきた。
「今は、ローザの休養が先だよ。」
「このままで?ピータは、大丈夫?」
そもそも、魔力が枯渇していて何もできない。
「俺は、大丈夫だよ。ローザが、守ってくれた。」
私の魔力が1番多く注がれたのが、きっとピータだったのかな?
「あ、私のお腹…。」
思い出したら激痛が…。
「エリス様が、魔法をかけてくれている。命は大丈夫だって。」
「そっか。良かった。でもまだ、動けないよ。もうちょっとこのままで良い?」
「ああ。いつまでも、、、良いよ。」
あの光、私自身を癒やしてはくれなかったみたい。聖女の本質は、自己犠牲だっけ…。
そもそも動けないけど、包まれている幸福感で痛みが和らぐ気がした。
お腹、大丈夫かな。もし傷付いて駄目になってたら…。
う、何考えているんだ。赤ちゃんが出来なくなったらどうしようなんて…。
聖玉が光っている気がした。
大丈夫。きっと大丈夫。愛の力は、奇跡だからね。
何を思っているんだろう。
また少し、気を失っていたようだ。
日も傾きかけていた。
ずっと抱えてくれていたのか?
ピータも目を瞑って寝てるのかな。
「大好きだよ。」
と言うと、目が開いた。う、聞かれたか。
「え?良く聞こえなかった。」
「なんでも無いよ。」
私の、瑛一郎の存在をかけた力を使った。もし、ローザちゃんが生きていたら、ここで戻っていたのかなと思う。だからもう、ローザちゃんに、この身体返す事ができないのかもしれないな。
なんか、なぜだか分からないけど、そんな確信があった。
アーシャさんと獣人達が、馬車でやってきた。
崩れた魔王城を前に、皆が立ち尽くしていた。
「旦那さま。無事ですか?」
アーシャさんが声を上げると、バラックが手を上げる。
「こっちだ。」
アーシャさんが甲斐甲斐しく、バラックの世話をする。
「旦那さま。良かった。よく生きていて下さいました。」
「ああ、アーシャどのも良く来てくれた。ありがとう。」
アーシャさんの行動は、魔族に対しての裏切り行為だ。バラックもわかっている。
アーシャさんは、もう魔族領には居られないだろう。
同じく助けてくれた獣人達は、高級魔族のアーシャさんが、無理やり彼らを協力させていたと言う体をとるみたいだ。
次に実権を握るであろうシャドの影夜見族は、獣人を協力させる事はあれ、迫害する事は無いだろう。
回復薬や水分、軽い食事をとると、みんな動けるようになった。
私は、まだ動けずにいたけど、
「ローザ。大丈夫か?」
エイタが、様子をうかがいに来た。
「うん。大丈夫とは言えないけど、無事みたい。」
「ローザ。良かった、生きてる。私の回復魔法だから、大丈夫かどうか不安だったんだ。」
エリス。私に回復魔法かけてそのまま倒れたらしい。
私の為に力を振り絞って。やっぱ、良い娘だ。エイタの嫁には惜しい。
じゃなくて、どうかエイタの嫁になってやってくれ。
エイタが立ち上がる。
「帰ろう!」
皆立ち上がった。私の事は、ピータが支えてくれていた。
馬車に乗って、魔族領を移動する。
アーシャさんがいたので、迷うこともなかったが、獣人たちも付いてきてくれていた。
皆と話たいことはいっぱいあったけど、言葉が出なかった。馬車の中は、ずっと無言だったけど、居心地は良かった。
実感が沸かなかった。魔王を斃して、全てが終わったのに。何か話すと、それが無くなってしまう気がして。
魔族領を出たあたりで獣人たちとは別れ、お互いに感謝を伝え、健闘を称え合った。
「私もこの辺で、」
アーシャさんが別れようとするが、バラックがアーシャさんを掴んで離さない。
「俺が、旦那さまじゃ無かったのか?何があっても一生一緒だ。」
アーシャさん泣いてる。良かったね。
王都に着くと
ギギギっと音を立て、王都の入り口の門が開いた。
門が開かれると王城までの大通りが見えた。大通りは、パレードする前の感じで開かれていた。
そして道の側には、人々が並んでいた。
みんな笑顔だった。
城壁の門の上には、楽器隊が並んでいる。
「パパパパーン」
ファンファーレが鳴り響く。
バラック、エリス、ピータ、そしてエイタ。
みんなが、顔を上げた。
「俺達、やったんだよな?」
エイタが言った。久しぶりに話す気がする。
「うん。やったんだよ。」
エリス。
「ああ。長かった。」
バラック。
「はい。やりましたよ!」
ピータ。
私は、ただ頷いた。
みんなで顔を合わせて頷いた。
そして笑った。大笑いって訳じゃなかったけど、心の底から、嬉しい気持ちが込み上げてきた。
みんな笑顔になり、王城への道を進んだ。
クラッカーの音、楽器隊のファンファーレ。紙吹雪の中、王都の人々の歓声を受けながら。
本日中にあと2話投稿して完結します。
もう少しお付き合いくだされば、私も嬉しく思います。




