俺の物語
その大男は、屈んで目線を合わせて、ゆっくりとした口調で語りかけてきた。
「出発は、明日だ。それまで準備してゆっくりしていると良い。」
ゴツいが優しい男なのだ。バラックは。
「よろしくお願いします。バラック様。」
「おう。ローザ様もよく休んでおいてくれ。」
孤児院という場所柄、自室という場所は無いが、1人になれる場所はある。思い出す為にも、1人になり少し考えてみた。
魔王がいて、魔物がいて、日本から召喚された勇者が、仲間たちと魔王を討つ物語。
それが、俺が考えた物語。
「異世界へ召喚された勇者は、賢者におパンツ見せてもらいたい。」だ。
ん。なにか?
題名が変?いやこれであっているはずだ。
あらすじを、もう少し詳しくしないと、だな。
異世界召喚されたが、やる気が出ない勇者が賢者のおパンツ見せてもらう、と言うご褒美の為に頑張る物語。
結果、魔王を倒して、賢者とハッピーエンドのお話。
通称「ゆうパン」
勇者がおパンツ見せてもらえたのか、その中身まで見せてもらえたのかは、誰にもわからない。
…。
何か?
何か問題でも?
ま、昔の話。黒歴史と言うやつだ。俺もすっかり忘れていた。
とにかくこれが「ゆうパン」の世界ならば、勇者が魔王を倒して、ハッピーエンドの物語のはずだ。
そして、勇者は賢者とは、それなりに楽しくも充実した日々を送る話だったと記憶している。
息子の瑛太は、勇者として召喚されたとアイリスさんから聞いた。
じゃあローザになってしまった俺、いや私はどうすれば良い?瑛太の為というなら、物語を改変しないように行動した方が良いかもしれない。
物語通りなら、瑛太は無事、ハッピーエンドにたどり着ける。
10代の女の子としての振る舞いなどできないかもしれないが、瑛太の為だ。やってみようと思う。また、シナリオ通りなら、この世界は平和になる。
シナリオを外してしまった時の影響は…。
わからないが、リスクは少ないに越した事は無い。
息子に貴重な経験を積ませるチャンスとも言える。
息子の為、この世界の為に、頑張ってみようと思う。
「ゆうパン」の中では、私と勇者が出会うのは、2年後の修道院でだ。
勇者は、この後2年間みっちりと訓練される。厳しい訓練だが、美少女賢者エリスの励ましと少しのお色気で何とかこなして、戦士バラックと賢者エリスと勇者の3人で魔王討伐の旅にでる。
初心者の試練などをクリアして、回復役が必要と感じた末、聖女の話を聞き、修道院にやってくる。
ここで、私と盗賊のピータを仲間にして5人のパーティで、旅をして魔王を討つ。
こんなストーリーだったはずだ。
何しろ20年以上前、私がまだ学生だった頃に考えた話だ。ところどころと言うか、細かい話はほとんど憶えてない。
バラックに会った時に思い出したように、少しずつ思い出していける気がするんだけどね。
なんにしても、このローザちゃんを、勇者パーティの一員として、旅や戦闘をやっていけるようにしなければならないかな。
猶予は2年間。
体を鍛えて、聖魔法を使えるようにする。まずは、コレだな。
次の日。出発の時。
ちょっとした別れがあった。
「ローザおねえちゃん。げんきでね。」
12才といえば年長者になる。あと2,3年もすれば、仕事を見つけて孤児院を出ていかなければならない。
孤児院では、読み書き礼儀作法なんかも教えていて、割と就職先には困っていないと聞いた事がある。お金を入れてくれる卒院生もいるほどだ。
だから別れは必然だった。少し早かったけど急な別れだった。
里親が見つかる場合もあるし、孤児院での旅立ちはありふれた光景なのだけど、ローザちゃんは、年長者して小さい子供達から慕われていたんだな。
泣いている子もいる。
ローザとしては、胸の奥に何やらくるものがあるが笑顔でいようと思う。「ゆうパン」のローザはそういうコだったはずだ。