聖女の服
「ここが聖なる神殿か。」
魔族領の奥深く、白い建物が建っていた。
強力な魔獣が跋扈しているこの地域でも、傷一つ無く真っ白で立派な建物が、そこには存在していた。
魔族対人間の戦争の歴史は古い。
幾度となく繰り広げられた、勇者による魔王討伐の旅。
ここは、魔王城のその近く、勇者達の最後に休養する場として、初代の聖女によって建立された神殿らしい。
「聖属性魔力で溢れてる。」
思わず呟いたのは、私だった。
この話、憶えている。「ゆうパン」のエピソードだ。
ここで聖玉を得る為に、ローザは試練を乗り越えるんだ。
神殿を進んでいくと、祭壇があり立て札に
「ここからは、一人、清い心を持った者が進むが良い。」
と書いてあった。
清い心か、どうしよう。
ローザちゃんの心なら問題なかっただろうけど、ミリアちゃんなら、全然大丈夫だったけど。
私の心は、邪な妄想しかしない中年男だし、清い心なんて、ね。無いよね。
この姿になった今も息子を守る為とは言え、手段を選ばない方法を取ってきた。
聖女になるはずだったミリアちゃんから、聖女の座を奪い。
自分に好意がある事を良いことに、ピータを顎で使い。
挙げ句には、魔族と手を結んで、シャドの悪巧みに協力している。
とても清い心とは言えない。でも、これは私が、超えなければならない試練。
「では、聖女である私が、行きます。」
そう言えば、反対する者はいない。まぁ、皆の事、上手く騙せていたんだろうね。
嘘はついてない…。
本当のことを言っていないだけ…。
胸の奥が、ズキンと痛い。
心細いけど1人で、神殿の奥に進む。
進むと、女神像があり、この先から空気が変わる。
この先で、試練が始まるのだろう。
真心を持って、誘惑に負けなければ、乗り越えられる。
誘惑か、
ピータを好きという気持ち。コレだけは純粋で、嘘の無いもの。と信じたい。
大丈夫、きっと乗り越えられるよ。
「ローザ!じゃあ、ここで待ってろよ!」
ピータの声がすると、黒い影が私を追い抜かしていった。
「ちょ、待って。」
ピータは、振り返ると笑顔だった。胸がキュと締め付けられるような気がした。
「清い心って、ローザに…。俺、わかってるから、それでも、ローザの事、好きだから大丈夫だよ!」
そう言って、先に進んでしまった。
後を追っかけようとするが、像から向こうは一人しか入れない仕組みになっていた。どうしても先に進めなかった。
立ち尽くす私の耳には
好きだから。
好きだから。
好きだから。
五文字が永遠にリフレインしていた。
自分が作った設定ながら、もどかしい。
でも、ピータなら、真心がある。
純粋だし、優しいし、誠実に私と接してくれる。
大丈夫のはず。
でも、試練には絶世の美女の誘惑もある。
ローザが入ると、イケメン王子様からの甘い言葉だったが。
何時間経ったのだろうか?
頭が冷えてくると冷静になる。
好きだから。
って心地よい言葉。
じゃなくて、「俺、わかってるから」
って言ってた。
ピータの斥候としての能力は、もはや世界一と言って良い。
洞察力と情報収集力などから、私がやっている事を突き止めるのは、そんなに難しいことじゃなかったかもしれない。
大丈夫だよってのも、よく分からんよ。
うん。よくわからない。
わかっているのは…
「おまたせ。」
笑顔で、ピータが戻ってきた。
思わず抱きつきたくなるが、我慢。
「おつかれ。大丈夫?」
わかっているのは、今、ピータ無事戻ってきて、ホッとして、嬉しくて、なんだか幸せな気持ちになっている事。
手にはピンポン玉位の小さな玉。
「コレなんだけど…。」
これは聖玉と言われるが、これはただの玉。でもキレイ。
「きれい。でも試練、大変だったんじゃ?」
「いや。大した事無かったよ。」
かなりの精神攻撃される試練が続き、最後に誘惑に乗ったら終わりの試練。かなり疲れてると思う。
それに誘惑に打ち勝ってくれた事が、凄くうれしい。
聖玉を差し出してくるピータ。受け取ると、キラリと光った
「ありがとう。うれしいよ。」
「ごめん。失敗しちゃったかな。コレただの…。」
うん。コレ自体は、特に効果の無い飾り。ピータは、斥候と言うか、冒険者としても優秀だからわかるのだろう。
でも、私の為に、試練を乗り越えて取ってきてくれた。
それだけで十分。嬉しくて、なんだか温かくてホクホクした気分だよ。
まぁ、この聖属性魔力の溢れる神殿で過ごす事が、聖女にとっての能力にプラスになると思う。
実は、試練を乗り越える事で、魔力量が上がるって話だったかもしれないが、今の私では、100%無理な試練だったし…。
ありがとう。ピータ。
何かお礼しないとね。ご褒美って何が良い?
とりあえず、皆のところへ、戻ろう。
好きだからリフレインのせいで、時間を忘れていたのか、かなり時間が経っていたようだ。身体が、固まっていて急に動くと躓く。
「あっ。」
大きな何かに包まれた。
ピータが支えてくれたみたいだ。
背も伸びたんだね。出会った頃は、一緒くらいだったのにね。
顔を上げると、ピータの顔が…。
良いよね。こんなにもスキなんだもん。
見つめ合い、軽く頷いて、顔を上げ目を閉じる。
ローザにとって、初めての口吻でした。




