聖女の恋
さみしい気持ちが反動となり、浮ついた感覚を憶え、嬉しくなってくる。
なんだか自然と、顔がニヤついてしまうのを自覚して、ちょっと恥ずかしい。なんだろうな、自我はおじさんのままなのに。
込み上げてくる気持ちが、止まらない。
思えば、修道院にいた頃から、毎朝感じてたかもしれない。
今日は、いるかな?って。
いたら、フワッて心が軽くなるような気がしてた。
ピータには、バラックの呪いを解くアイテム「真実の瞳」がある場所の調査と、忍者に転職しておく事の2件を頼んである。
「いやー。忍者の修行中に、真実の瞳の情報が入ってさ。急いで砦に行ったのに、ローザいなかったから、ちょっと悲しかったよ。」
笑いながらピータが言う。か、軽いな…。
「ビックリしたよ。こんなに早く情報が手に入るなんて思わなくて…。」
って答えるのが精一杯。
「ヘヘっ。久しぶりだね。まぁ、ローザの顔見たかったってのもあってね。」
私の顔がみたいだって?バカなこと言う。
でも、気の利いたことが、言えるようになってるなぁ。うれしいっ。
みんな成長してんだね。と思うけど、なんか顔が熱くなるのがわかる。
「バカなこと言ってないで、教えてくれる?」
なんか気持ちの昂ぶりと裏腹に、素っ気ない態度をとってしまうな。
聖女は、嘘つけないはずだよね。
でも今なら、ツンデレキャラの気持ちもわかる。
照れ隠しでツンツンしちゃうんだね。
でも、嘘がつけないから…。いつか素直になるかもしれないな。
バカって思ったことも、嘘じゃ無いから大丈夫!
だよね。
真実の瞳のある場所と、忍者修行の進捗を聞いた。
うん。順調だね。
「じゃあ、行くな。また…。」
用は終わったけど、もう行っちゃうの?
「あ、」
言葉にならなかったけど、無意識にピータの袖を掴んでしまった。
「えっ、どうした?」
「いえ。なんでもないんだけど。ご飯とか食べたの?」
「いや、まだだけど…。一緒に食う?」
「…。うん。」
元の世界じゃ、アラフォーだけど…。
息子がいるし、結婚してたし。
まぁ、今はローザちゃんなのだし、関係ないか。
じゃなくて、ピータにもちょっと休憩と美味しいご飯、必要だよね。
「それならさ。ちょっと外れたところにある飯屋が、美味いらしいよ。」
う、何のリサーチ済なん?
ピータも私とご飯食べたかったんかな?
「じゃあ、そこへ行こ。」
「ああ、着いてきて」
ピータは、優しい男の子だ。歩幅なんかも合わせて歩いてくれる。
忍者になる位の敏捷性あるのに…。
とはいえ、ここは王都でも賑やかな場所。
「あ、」
人混みのため、前を行くピータを見失ってしまう。
ツンツンしたって、鈍臭いのは私だったんだ。少し泣きそうになる。
「ローザ、大丈夫か?」
不意に、優しく腕を掴まれる。ピータだった。
自然、手を繋いだ格好になる。
大丈夫って言いたいけど、それは嘘になる。
そのまま歩き出した。
「はぐれちゃったかと思ったよ。」
手は繋いだまま、でもイヤじゃない。なんか嬉しくて安心する。
「うん。ごめん。」
「まぁ、ローザの事はどこにいても必ず見つけるから
な、大丈夫だよ。」
そうだね。この広い王都で見つけたんだもん。偶然じゃないよね。
斥候としての捜索スキルなんだだろうけど、私だけ特別だったら嬉しいんだけど。
街の中心から外れて人混みも無くなり、手を繋ぐ必要も無くなった。
でも、目的地に着くまで、自分から手を離す事はしなかった。
ピータも離そうとしなかったので、同じ気持ちだったら良いのにね。
二人で食堂に入り、ご飯を食べる。
味は正直わからなかったけど、美味しいと感じて幸せな気分だった。
色々と話せた。
忍者の里は、かなり変な所で普通にはたどり着けないけど、頑張って探した事とか。
ー無茶ぶりしてゴメン。
基本的に排他的な集落だけど、何とか仲間に入れてもらって修行できている事。
ー無理難題言ってゴメン。
真実の瞳の情報だって、手がかり無くて苦労した事
ーほんとゴメン。
でも、ちゃんと答え出してくれるから、頼りになる。
で、あぁ、やっぱ好きなんだなって。
「みんないるから、寄ってく?」
ご飯も終わり、宿まで送ってくれた。
「うーん。まぁ、いいや。みんなと会うのは忍者になってからだな。ここで。」
仲間は、勇者、賢者、聖女、最強戦士。自分だけ一般人と思ってる。って言ってたな。
そんなこと無い。凄く役に立ってる。って言ったけど。
自分も忍者になって頑張らないと。とかも言ってた。
「でも、もう夜だよ。」
「忍者修行の一貫でね。夜に全速力移動するんだ。」
嘘?かな。
「わかった。じゃあここで。」
少し高くなったピータの頬に、、
背伸びして
「チュッ」
…。
「えっ?」
「えっ!」
自分でやっておいて戸惑いが止まらないよ。
「あ、ありがと。これで頑張れるよ。」
はにかんだ笑顔。
「バカっ。じゃあね。気をつけて」
頑張っているヤツに、頑張れとはいえない。
修行って大変なんだ。無理するなとも言えない。
でも、何かを言ってあげたかった。
で、ほっぺにキスしちゃた。
イヤじゃなかったよね?
最高の笑顔見せてくれたし、思った以上に喜んでくれたみたいで良かった。




