レベリング
ノースバルフ平原を奪還した王国軍は、砦を建設して拠点を確保した。
砦を建設している間、私たち勇者パーティは、平原で魔物や魔族狩りを行い、経験を積んだ。
ちゃんとアンデットもいたけど、聖女にとっては造作もなく浄化できた。
私も貧弱だったのは、もう過去のもの。
確かに勇者パーティの中では、まだ1番体力無いけれど。
がむしゃらに頑張っている内に、何とかついていけるようになった。
身体強化の魔法使えば、と思うんだけど、それは勇者固有魔法で、普通の魔法使いや治癒師なんかは使えないそうだ。
バラックのような戦士は、闘気を纏い戦闘を行う。
魔族は、特有の魔力を纏い戦う。魔族にとって強さに筋力はほぼ関係なく、アーシャさんのような華奢な女性が強かったりする。
聖属性の魔力しか無い私ですが、常に治癒魔法を自分にかけ続ける事で、常に100%の本来の身体能力を発揮できることがわかった。
世紀末の暗殺拳の極意である。
常人では、潜在力の30%しか使えないが、100%の力を発揮することに、聖女流格闘術の極意があるのだ。
ふははははっ⋯。まぁ、良いでしょ。
要は、常に全力疾走できるってこと。
魔法を使い続けるので、魔力量の心配が少しあるけど…。
砦が完成したので、一旦皆で王都に向かうことになった。
ピータには調べてほしいことがあったので、別行動になった。
調べ物とは別に、どこかにある忍者の里で修行をするようにも言ってある。
なんだかんだ優秀なんで、こんな感じの大雑把な指示でも、ちゃんと答えをだしてくれる。
ここまでで経験を積んで、レベルが上ったピータなら転職出来るはずである。
王都へ向かったのは、エリスが作った王都を守る結界を、王都にいる宮廷魔術師たちだけで、維持出来るように引継ぐためだった。そうすると、エリスが結界維持に魔力を消費しないので、全力をだせるようになる。
王都は、田舎町の孤児院育ちで、あとは小さな町の修道院しか知らないローザにとって、本来なら感動する程の規模と活気を誇っていた。
ノースバルフを取り戻したと言うニュースは、王都にも伝わっており、防戦一方だった王国に、活気戻っていたのだ。
…。そうなんだよね。ローザにとって、こんなに人がいるの見るの初めて、建物がいっぱーい。って感じなんだけど。
でも私、日本の都市にいたもので…。まぁ、そんなものかって感じ。
ファンタジーっぽい造りは、良いなって思ったけどね。
王城へお招きされて、王様に謁見した。
若いというか、同い年くらいだった。王子様って感じだ。
先代の王様は、ノースバルフ平原が魔族に奪われた時に、逃げちゃったらしい。
少年だった王太子が跡を次ぎ、勇者召喚、聖女育成、王国軍再建など、次々と手をうち、とうとうノースバルフ平原奪還と言う成果を、手に入れた。
仕事が出来る王様である。
聖女候補だった私の元に、王国軍のバラックが迎えに来たのも、王命だった。
聖女育成は、王国一大プロジェクトだったのね。修道院での修行では、傭兵を雇う費用が出るのとか、ご飯が美味しい事とか、大分お金が掛かってた。そういう事だったんだな。
その日は歓待を受けたのだが、異世界人である勇者や孤児だった平民の聖女を、お城に泊める訳にはいかないよね。
王様は、王城で休むように言ってくれたが、まぁ逆に休まらんし、宿も高級宿とってくれているからね。
と言ってもバラックさんは、王国軍の仕事で城に残り、エリスも結界の再構築に忙しい。
私と勇者の二人が、先に城下町におりて宿で休むことになった。
流石は高級宿のスイートルーム。部屋が一杯ある。
当然違う部屋に、入って休む事になる。
お茶でも飲むか。
備え付けの魔道具でお湯を沸かし、高級そうな茶葉でお茶を入れようとしたら、エイタが部屋から出てくる音がした。
「あ、ごめん。なんか匂いしたから。」
「あ、はい。今お茶入れるところです。飲んでく?」
今覚えば、二人きりになるの初めてかもな。
以前は、親子二人で暮らしてたんだが、息子は面影残すものの、別人のように成長し、私は文字通り別人。
しかも聖女。
お茶を二人分入れて、飲む。
ーなんか気まずいな。
ローザちゃんからしたら、年上のお兄さんだから、言葉使いも何が正解なのか解らん。一応敬語使ってるけど。
「あんまっ!」
口につけたエイタが言った。思わずでた一言だったのだろう。
「あ、ごめんなさい。砂糖多かったですか?」
マズったな。以前の子どもだったエイタには、砂糖多めだったからな。
「あ、いや。なんだか懐かしい甘さだなって。だから大丈夫だよ。」
ん?懐かしいとは?
「まだポットにあるから入れなおしても…。」
「良いんだ。これ、父さんが、淹れてくれた時の加減にそっくりで…。ズズッ。…うん。甘いな。」
…。紅茶の甘さで、俺のこと思い出すなんてな。
あれっ?今なら俺が、ローザちゃんになっているって、言っても良いのかな。
信じてもらえんかな?
あのロボットアニメの話とか、あ、プロレス技かけたら一発だな。ヨシ、この体でデカいエイタにかけるなら…。
「ちょっと、うでかしt」
やっぱ関節キメるんが確実かなって思ったんだけど、エイタが話を被せてきた。
「元の世界だと、母親いなくてさ、父さんに育てられたんだ。」
うんうん。父は頑張ったんだよ。




