魔族公女アーシャ
何かが砂埃を巻き上げて、近づいてくる。
ーあぁ。間に合いませんでしたわ。貴女方ではまだ勝てませんわ。お逃げなさい!
シャドの声が響く。
「くっ!ひき、、あっ!」
退きましょう。と言いたかったけど、最後まで言えなかった。
現れたのは、魔族特有の薄暗いダークな肌色。
エリスも美人だけど、目鼻立ちが整っていると言う意味では、圧倒的な綺麗さを誇っていた。
シャドとは違い化粧っ気が無く、それでいて、いや、化粧の必要がない程に、美しい存在だった。
「誰だ?」
エイタが口を開いた。彼はエリス一途なので、美人さんにも気遣わないようだ。我が息子ながら男前だな。
「私は、前の魔王軍司令ガフクが娘アーシャと申します。」
魔王軍司令ガフク将軍の娘?
あ、いたよそんなキャラ。あ、でも、そのキャラって勇者の味方してくれてたよね。
「ゆうパン」では、勇者パーティの味方をしてくれる魔族として書いたはず。たしか…。でも今は、敵意強め。
「ガフク将軍か。凄いヤツだった。」
バラックが、言った。アーシャが、バラックを見て言う。
「貴方が戦士バラック?卑怯な手を使って、父を討ったと聞きました。覚悟なさい」
「いかにも俺がバラックだが…。卑怯とは?俺とガフク将軍は、正々堂々打ち合った。その結果…。」
「黙りなさい。父を動けなくして、背後から討った…。覚悟。」
剣を構え、アーシャがバラックに襲いかかる。
「くっ!」
バラックが呻きながらも、剣を構える。
私の聖魔法で症状は軽減しているとはいえ、バラックは、全力を出すと体中に激痛が走る。
キンッ。剣が交差する。
キンッ。
キンッ。
何合かの打ち合いのあと間合いができ睨み合いとなった。
バラックは大粒の汗を流している。完全にアーシャさんが押していた。受けきれず防具が、ボロボロになっている。次、撃ち合えば、致命傷をくらうかも。
「ちょっと待ってください!」
ここは、「ゆうパン」の知識を活かして説得したい。できるだけ大きな声で叫んだ。
「止めるな小娘っ!」
アーシャさんに睨まれると、メッチャ怖い。シャドより怖いけど頑張る。
「バラックさんは、後ろから人を切るような、卑怯な戦いはしません。」
「小娘…。聖女か?ならば嘘は無いのか?」
魔族の魔力と同じく嘘をつくと聖属性の魔力も上手く使えなくなる事を、彼女は知っているようだ。
「バラックさん。そうですよね。」
「あぁ。ガフク将軍とは、引き分けと言っていい。消耗しきってお互いに退いたんだよ。そのすぐ後、ガフク将軍が討たれたと聞いたが。」
これは、シャドの策だった。一騎討ちの最中に、ガフク将軍の動きをデバフをかけて制限して、バラックにガフクを討たせようと計ったが、上手くいかなかった。そして、バラックとガフクはお互いに死力を尽くした後、戦いを中断して再戦を誓い、別れた。
だが、消耗しきったバラックに、シャドが呪いを掛けて、ということは、ガフク将軍をシャドが殺ったのか?
「ゆうパン」だと、勇者召喚前の話なので物語は始まっておらず、詳細は語ってないものね。それはもはや作者が知らない歴史ってところだ。
バラックとガフクの一騎討ちでシャドが何か仕掛けて、バラックは呪いを受け、ガフクは討ち死に。この一文しか書いてないと思う。
ーシャド。貴方が殺ったの?
念話で聞いてみた。イヤリングから通信ができる。シャドも気になっているだろうから、通信は開いているはず。
ーアタシは、…殺してないわよ。
…。シャドは、殺してない。だがあえて「アタシは」というあたり、殺させた?と言うことか。
「でも、致命傷は後ろからのキズだった。お父様が敵に後ろを向けるなんて考えられない。…味方が、って事?まさか…。」
とある海賊の3刀流の少年も、言ってるものね。背中の傷は剣士の恥だって。
でも、アーシャさん、まだ若いのね、スキだらけになってますよ。
ピータが何かを仕掛けようとしているのを、
「これは、バラックさんとアーシャさんの戦いだから…。」
「でも、このままだと。皆が、」
「いいから。」
と、言って止めた。ピータにとって私の言う事は、絶対だけど、皆を守る為に動こうとした事は、好感度上がるところだね。
私達の会話で、ピータが何かをしようとしたこと、気がついたらしい。
「はっ?今、何故打ち込んでこなかったの?」
アーシャがバラックに聞く。戦いの中で、スキを作ってしまった事に気付いたのだろう。
「いや。これは、貴女との一騎討ちだ。貴女がガフク将軍並に強いのは、撃ち合ってみてわかった。正々堂々と貴女を倒す事で、俺が正しい事を証明する。」
なんだかんだ言ってるが、バラックが強い奴と戦いたいっていう、バトルジャンキーなだけだろ。でも、今のバラックでは勝てないよ。
アーシャが押し込んでいた事で、バラックの防具、服がボロボロになっていた。露出した肩など体に刻み込まれた呪いが浮かび上がる。
「そのキズは、呪いなの?…影夜見族の」
「ああ、まぁ、それも含めて今の俺の力って事だ。」
「その呪いは…。そんなものじゃないでしょう?動けない程の痛みに耐えて、私の剣を受けてたって言うの?」
アーシャが剣を落とした。
「ゆうパン」に出てくる魔族は、敵ながら純粋で素直な性格な事が多い。あのシャドだって、権謀術数を仕掛けまくっているが、純粋で素直なんだ。恋にも一途だし…。
とにかく、この後アーシャさんは、父のガフク将軍の死の真相を探る為にも、私達に協力するようになった。
これからアーシャさんは、どんどんバラックの豪快な性格と優しさに惹かれていく事になる。
アーシャさんとシャドっていう魔王軍の実力者二人が、協力してくれるなんてな。イージーモードに突入かなっ!
でも、アーシャさんの仇って、黒幕シャドだから…。
…ややこしいけど。
エイタ…。中ボス倒したんだけど影が薄いな。
原作改変の恐れが…。
そもそもローザちゃんとシャドが組んでるのは、原作には、たぶん…無いよね。
懸念事項いっぱいだなぁ…。




