5人目。
馬車が、通れない細い道を戻る。
一本道で迷うこともない。近づいてくる魔物の気配もわかるくらいだ。
ピータが優秀だからって、何百メートルも遠くの魔物の気配を感じる、なんてマネはまだできないだろう。
せいぜい走って、数十秒のところにいるはず。
ピータ。
彼は、どこにでもいる少年だ。
家が貧しく、病気の母親の為に働いている少年。
異世界小説あるあるだけど、元々「ゆうパン」は私が書いたネット小説…。仕方ない。
今、ピータの事を考えると、何か胸の奥がむず痒い。
この体力の無かった身体で、毎朝の運動は正直辛かった。息子の為にと頑張ってはいるけど、心が折れそうだった。でも、この身体を、魔王討伐の旅に耐えられるだけの体力にしなければ…。
最初は、頑張っている男の子がいるな、って思ったくらいのことだった。
気になるなって意識しだすと、いなければ今日はどこにいるだろって、探したりするようになった。
毎朝、ピータの姿を見るのを楽しみにして、頑張ってた。
数日前から軽く挨拶するようになって、一昨日だっけかな。
「今日は、いないんだと思った。探しちゃったよ。」
なんてピータから言われて、探してたのは私だけじゃなかったんだって、ちょっと嬉しかったり。
おじさんの思考じゃないな、とは思ったけど、そう思うんだからしょうがないじゃん。ローザちゃんの身体に、思考も引っ張られてるのかな?
でも、年頃の異性を意識しちゃってて、会えたら嬉しいなんて…。
これって、おじさんが、少年に抱いちゃダメな感情だろうから、上手く折り合いつけんとだな。気の所為くらいに思っておこう。うん。
そして、ピータへの想いを自覚した今、思い出したんだ。
ピータをここで死なせちゃいけない理由を。
「ゆうパン」における魔王討伐パーティのメンバー全員に名前を。
勇者エーター
戦士バラック
賢者エリス
聖女ローザ
そして、情報収集から斥候役だけじゃく戦闘でも活躍する盗賊役の男の子。
忍者ピーター。
魔王討伐の勇者パーティは、この5人だった。
今、はっきりと思い出した
だから、ここで彼を失うわけにはいかない。
ピータが体を張っている場所まで、数十秒だと思ったが長い。
息があがる。全力疾走は、まだこの身体にはキツい。
間もなく、時間にすると数十秒しか走っていないと思うが、前方で戦闘をしている所まで来た。
まだ幼さの残る少年が、狼型の魔獣数匹と戦っていた。細い道を利用して、上手く立ち回っている。
後方には、魔物の群れ。だけどここは一本道になっており、ここで戦闘していることで、通れないでいる。
走っている時、一匹の魔物とも会わなかった。
ピータが、ここで止めていてくれていたんだ。
ピータは、持ち前のスピードを活かして躱す、また躱す。皮一枚傷付いてはいるが、致命傷ではなく、ピータの動きを、止めるものでもない。
一撃でも喰らったら、終わりな威力の攻撃を、本当にうまく躱していた。
ただ限界近づいているようだ。息あがってきたみたいだ。
「はぁ、はぁ、ローザ、、逃げれたかな。」
ピータ独り言。
不意にローザの名前がでて、熱いものを感じる。
魔物の勢いに押し戻されたピータが私の前に下がってきた。集中してるのか、すぐ後ろにいる私に気付かないようだけど…。
彼の背中にそっと触れ、聖属性魔力を込める。回復魔法をかけた。
体力回復と傷が治るはず。
「っ。ローザ。何故?」
「いいから。前に集中だよ。」
聖女の魔法は、やはり凄い。ピータが完全回復してる。私の半年の修行の成果もある。
「うん。まだイケる。」
「冒険者さんが、ミリアちゃんを逃がした後、来てくれるはず。それまでがんばろ。」
彼らが
「おぅ。任せろ。」
ピータに笑顔が戻る。大丈夫そうだ。
………。
何時間戦ったのだろう。と思った。
でも本当は、数分だったのかもしれない。
ピータが魔物の注意を引き、足止めをする。
戦いの経験が上がっているのか、数体斃してもいる。
凄い!ちょっとカッコいい。
私が、ピータを回復させる。聖女の全回復魔法で。
いつまでも戦っていけそう。
とか思ってたんだけど、回復魔法を10回位かけたあたりで、疲労感を感じだした。
ー魔力切れか?ヤバいかも…。
もう、ミリアちゃんも遠くに行っているだろうし、何とか逃げることを、考えたほうが良いかも。
ピータを見る。動きは落ちていない。
戦闘経験を積んで、今まさに成長してる。
なんかイキイキとしている彼を、もう少し見ていたくもあった。
ふと、後続の魔物たちが、ほとんどいなくなっている事に気づいた。
「ピータ。」
「ああ、わかってる。凄い重圧が…。」
重圧?
私には気付かない何かに、彼は気づいている?
魔物の様子も、何だかおかしい。
「もう、おどきなさい!」
「キャウン!」
魔物を蹴り上げる影。図太くも甲高い声。
現れたのは、お化粧の濃い、新宿なら2丁目界隈に多く生息する。大人のお店にいるようなオネエさま。
というこの世界では、有り得ない変わった外見をした、只者ではない雰囲気を纏った魔族だった。
「全然進まないから、来ちゃったじゃないの。」
そう言うオネエさまは、私たちを見て
「あら、勇者でもいるんじゃないかと来てみたら、ずいぶんとカワイイコ達じゃなーいぃ!」
うっ。どうしよう。あ、私よりピータが危ないのか?
ピータ逃げて!!




