お約束なテンプレ展開の裏で起こっていること
神世界リーディアル・神王の部屋
そこには神王リアと1人の女神がいた。
「女神ローア、最近あなたが管轄している世界から多くの転生者が死んでいる。理由は分かるか?」
神王リアは神妙な顔をしながら、女神ローアに尋ねた。
「申し訳ございません。私の力が及ばず転生者のサポートが疎かになってしまい、結果的に転生者が現地民や魔物に殺されるという状態が多発しております…」
ローアは俯きながら話す。
「そうか…、まぁそんなに落ち込むことはない。新米の神にはよくあることだ」
神王リアは落ち込んでいるローアを励ました。
「とはいえ、このまま転生者を殺しつづけるというのも良くはない。よって、当面お前にサポートをつけようと思っている」
神王リアが手を鳴らすと、部屋の扉が開き、女神が入ってきた。
その女神は銀髪で紅い瞳を持ち、漆黒の衣装を身に纏っている。
「リアたん、久しぶりだね。その子が例の女神なのかな?」
「…そうだ。それとミリス、たん呼びは辞めろと前からいっているだろ」
ミリスと呼ばれた女神は「はーい」と言いながら椅子に座った。
「はぁ…。まぁいい。ローア、今回サポートについてもらうミリスだ。これでも一応お前よりも階級が高い女神だ」
「ローアちゃんよろしくね〜」
ミリスは足を組みながら、ローアに手を振る。
「ミリス様よろしくお願いいたします。そして、不甲斐ない私なんかのサポートをさせてしまい申し訳ありません」
ローアは深々とお辞儀をする。
「いいんだよ、何か面白そうだし」
「…?」
「えー、とりあえず話を勧めていくぞ。さっきも言った通り、ローアの管轄世界の転生者が沢山死んでいる。そこでミリスのサポートを借りることになった。ミリスは基本的にローアの管轄世界に降り立ち、陰ながら転生者の手助けをしてもらう。そして、知っての通り昨今の転生者モノは基本的に主人公が強い」
「うんうん、主人公君チョー強いよね」
「ああ、しかしだ。そんな一見最強である主人公でも例外を除き、私達神が時々介入しないと案外あっさり死ぬ。そうなると主人公の物語は異変を起こし世界に公開されない」
要するにA世界で小説を書いた人がいたとして、それが小説としてA世界に出回る為には、神様達がその小説のストーリー通りになるように、新たに世界を創り、動かさなければならない。もっと簡単に言うと主人公をコントロールしなければならないのだ。
主人公をコントロール出来ず、殺してしまったり、本来のストーリーと明らかに乖離した状態にしてしまうとアウトになり、その小説は出回らないということになる。
「私達の仕事は人間が書いた妄想の塊である創作物を現実の物にすること」
それが神様の仕事である。
無論、転生モノに限った話ではなく、創作物全体に当てはまるのだが。
「それでさ、私はどこの世界に言ってサポートすればいいのかな?」
「ミリスにはジザスという世界に行ってもらうことになる。この世界の主人公はシュウという男だ。大雑把なストーリーとしては…」
ジザス世界-主人公シュウLv1
俺は異世界転生したらしい。
俺は今日起きた出来事を振り返る。
家に帰る途中トラックが俺の方に向かって突っ込んできて、気づいたときには、この国の王と重鎮に囲まれていた。そしてこの世界を魔王から救う勇者となった。
いや厳密に言うとなるはずだった。
転生直後、鑑定の儀というものを受けたのだが、それによると俺はレベルアップが出来ない呪いにかかっているらしい。
「はぁ俺これからどうなっちゃうんだろ…」
俺が部屋でそんなことを考えていると、ノックもなしに扉が勢いよく開いた。
「被告人シュウ、王が貴様を呼んでいる!」
甲冑を着た人間がゾロゾロと部屋の中に入ってきた。
「…は?被告人ってなんだよ!」
「口答えするな!さっさとこいつを連れて行け」
その言葉も共に、俺は抵抗するまもなくとり押さえられ王の元へと連れて行かれた。
「シュウよ、お主レベルが上がらないというゴミな上、儂の娘に手を出そうとしたようだな」
「な、何を言っているのですか!確かにレベルアップが出来ないのは事実です!しかし、王様の娘に手を出した覚えはありません!そもそも娘がいるのも今初めて知りましたし」
「黙れ、儂の娘が嘘をついたというのか?なぁライアよ」
王は隣に座っている娘の方を見た。
「はい。私は確かにあの人に告白され、その上キスまで迫られました」
ライアは俺を恐ろしい者を見るような目で見る。
「嘘だ。そんなことは断じてしていない!」
「黙れっているだろ!ライアは生まれてから今まで嘘などついていない!よって、貴様が嘘をついている。アーバよ、この者を処刑せよ!」
目の前に立っていた騎士が剣を抜き、俺の首めがけ剣を振り下ろす。
「は?ま、待って――」
『時間よ止まれ』
その言葉がジザス世界に囁かれた。
瞬間この世界の全てを停止させた。
「さて、この世界に転移した途端主人公君が超絶ピンチだったから、とりあえず時間止めたけど、どういう状況かな?」
ミリスはこの世界のストーリーが書かれている書類を取り出した。
「ふむふむ、本来主人公君はこの場では殺されず、この世界基準で最高位の魔物がいる森に追放され、そこで死にかけるけど才能が開花し、この人たちに復讐するって感じか。んで、その後はヒロイン作って適当に色んな町や国行って過ごす感じね」
ミリスはざっーと書類を読んでから、何故現状このような状況になっているのかを探るために、辺りを見渡した。
「あー、元凶はこの娘か。禍々しいオーラが出ているねぇ」
ミリスは王の隣に座っているライアに近づき、ライアの額に手を当てた。
『過去を見せて』
ミリスの頭の中にライアの過去が映し出される。ミリスはライアの過去を遡っていく。
「あー、これか。何かが料理に入れられてるね。これは真実の薬。この世界にないはずなんだけどなぁ」
真実の薬-嘘をついたとき信じてもらいやすくなる。(アスズ世界の薬)
「んー、まぁ犯人探しは一旦置いとくとして、元のストーリーに修正しておきますか『時間よ戻れ』」
ミリスは過去に転移し、ライアが真実の薬を飲むのを阻止した。
ついでに誰が薬を入れたのかも見たが料理長だった。しかし、料理長もまた誰かに動かされているようだった。
『時間よ動け』
こうして、ミリスの修正もあり主人公は無事追放された。
追放されたシュウは森の中を歩いていた。
シュウを連れてきた騎士の話では、ここはリエの森と呼ばれているらしい。
シュウは一刻も早くこの森から出たかった。さっきから、何故か震えが止まらないからだ。この森に居続けると明らかに良くないことが起こると直感で分かった。
シュウからそこそこ離れた距離にミリスはいた。ミリスはそこでシュウの才能開花に邪魔な魔物を狩っていた。
「それにしても、いくら最高位の魔物とはいえ、ちょっとばかし様子が可笑しいかな」
主人公が才能開花した直後だと、どうやっても勝てない魔物がさっきから結構いる。
「まぁおおよそ犯人の目星はついてるけど、現行犯で捕まえたいしもう少し待っておこうかな。幸い主人公君を見張っていたら、そのうち相手から出てくるだろうし」
ミリスは時が来るまで適当に魔物をしばきまわりつつ、主人公の様子を確認していた。
ほどなくして、主人公はストーリー上で才能が開花する時に対峙した魔物に遭遇していた。
「お、主人公君腰が抜けた。あ、今度は泣いた。そして今までの自分の人生を振り返って吐きそうになっている。あ、魔物に左腕食われた。お、主人公君が痛みから開花した」
ミリスは上空から主人公と魔物を見下ろしていた。
そして下では主人公が開花した才能を駆使して、魔物相手に無双している。
しばらくし魔物の体力が底をつきかけた瞬間、主人公と魔物の頭上の空間に歪みが生じた。それを見逃すほどミリスは甘くない。歪みから出てくる者の背後に回った。
「ねぇ、何してるの?」
ミリスが声をかけると、ギョッとしてこっちを振り向きつつ、直ぐ様ミリスに向かって殴りかかってきた。
ミリスは片手で難なく受け止める。
「へー、驚きながらも攻撃してくるんだ凄いね。まぁそれはそうと、君って転生者だよね?この世界のではないけど」
「ちがう」
「違わない。アスズ世界の主人公君。真実の薬もきみが入れたんだよね?そして、今あの魔物に狂化の薬を投与しようとした」
ミリスの発言に目の前の男は一瞬の動揺を見せた。
「違う」
男は自身の体に炎を纏い、双剣を二本作り出し襲いかかってくる。
「残念だよ。君たち転生者主人公と神様である私では埋められないほどの差があるんだよね」
ミリスが手のひらを突き出すと、男の動きは止まり気絶した。
ミリスは落ちていく男をキャッチする。
「ここの主人公君はもう大丈夫なようだし、神世界に戻るかな」
ミリスは男を抱えたまま転移した。
神世界リーディアル-神王の部屋
「リアた…っと、リアとローアちゃんただいまー」
「おかえりなさいミリス。その男は?」
リアはミリスの抱えている男を見た。
「アスズ世界の主人公君だよ」
「アスズ世界…、アスズ世界ってローアあなたの世界ですよね」
リアはローアの方を向いた。
「……」
「ローアちゃん黙ってたら分かんないよ」
「……」
「んー、ローアちゃん正直な話やってるよね」
「……」
「ローアちゃん今内心焦ってるでしょ。早く来てくれーって。でもね来ることないと思うよ?」
ローアはミリスの言葉に少しだけ心を揺るがせた。
「んー、もう埒が明かないからさ」
ミリスは指をパチンッと鳴らす。
ドサドサという音と共に、異空間から男と女が数人ずつ落ちてきた。
「ローアちゃんこれなんだと思う?」
「……!!」
今度は誰が見ても明らかに動揺したと分かる。
「この子達、みーんなローアちゃんの管轄世界の主人公たちよね?」
「…なんで」
ローアは信じられないものを見ているような顔をしている。
「ローアちゃんさ、多分邪神化しようとしてたよね?」
邪神化-神様がストーリーが崩壊した世界の主人公(生死を問わない)を大量に取り込むことで負のエネルギーを増加させ邪神になること。
一般的には邪神になると能力が大幅に増加する。
「見た感じ後数人新しく確保していたら、邪神化に必要な分だったかな。でも、ごめんね。私の分身達がまだ崩壊していない物語の主人公達を守って、結果的に既にローアちゃんの手の中にいた主人公達をこうやってとっ捕まえてさ」
そこまで言われたローアはミリスを睨み、皮膚に爪が突き刺さるほど拳を握っていた。
「もう少しだったのに…。もう少しでこの神世界で最強の力を手に入れられてたのに…。はぁ…もういい、不完全な状態でも!!!」
ローアはミリスの横に転がっている男女を自分の手元に転移させ、自身の中に取り込んだ。
ローアの姿はみるみる変化していき、半邪神化状態になった。
「おお、中途半端だが今までにない程の力が漲ってくるっ!これなら…!!」
「ローアちゃんそれ以上は止めといた方が良いと思うよ?」
「黙れ!私はもう誰にも止められない!」
ローアは迸るほどの禍々しいオーラを放っている。
「リア。いいよね?」
ミリスは神王リアに確認をとる。
「…ええ。ミリス、ローアを倒しなさい」
ミリスは異空間から銀色の鎌を取り出した。
「ねぇ、ローア?転生した主人公と神様の間に超えられない壁があるのと同じように、邪神にすらなれていない貴方と、前神王である私にも超えられない壁が存在してるんだよね」
ミリスがその場から一歩踏み出すと、既にローアの首には鎌が掛かっていた。
「じゃあね」
ミリスはそのまま鎌で首を跳ね飛ばした。
実にあっけなく、首を跳ね飛ばされたローアは倒れながら消滅した。
「さて、リア。これで依頼達成でいいよね?」
ミリスは鎌を異空間に戻しながら話しかける。
「ねぇミリス。どうしてローアは邪神になんかなろうとしたのかな?」
「そうねぇ、リアこれ何か分かる?」
ミリスは机に置いてある本を手に持ち、リアに見せた。
「ローアが持っていた本、つまりローアの管轄世界の物語ね」
「そう、内容は邪神になった主人公が敵をなぎ倒して行くというもの」
「…なるほどね」
「私達神々が人間の妄想の塊である創作物を現実の物にするように、神々側も妄想の塊を創り出し、それを現実の物にしようとしたと、そんな感じじゃないかな」
「ミリス、こういった本は今回のローアのように、いずれ多くの神々に悪影響を及ぼすのだろうか」
「私はそうは思わないかな、現神王であるリアがちゃんと教育していけばの話だけどね」
「はは、教育か。私が一番苦手な分野だ。ミリスは手伝ってく――」
「ごめんね無理、またねぇ」
ミリスも教育とか絶対無理なタイプである。そしてこれ以上の面倒事を避けるため、すぐさま帰った。
「やっぱ私がやるしかないのかぁぁ」
ミリスが帰り、リア1人になった部屋に現神王とは思えないような情けない声が響いた。