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5話 雨の中、ずぶ濡れになってる人と。


 雨の中。


 彼女は何をやっている。


(まぁ、いい。俺にはなんの関係もない)


 銀髪で天色の目をした美少女は一人、雨の中の公園で傘もささずにブランコをこいでいた。


 その制服は、鬼灯学園中等部の物だった。


(彼氏でも待っているのか……?)


 いや、帰ろうとはしていない。


 きっと本人がそうしたいんだろう


 彼女は一人、少し悲しそうな目をした。


 青い目がうるむ。


「…………っ」


 その姿にどこか声をかけたくなった。


 別に興味があるとかじゃない。


 良心が痛んだだけ。


 それだけだ。


「……何やってるんだ?」


 彼女は黙ったまま、少し上を向いたが、すぐそっぽを向いた。


 彼女の天色の瞳が久世を見つめる。


「……だんまりか」


 そして、自分の頭上を覆っていた傘を差し出した、正しくは押し付けた。


「あ………」


 彼女が声を出した。


 鈴を転がしたようなきれいで、小さい声だった。


「風邪引くぞ。あとそれ、返さなくていいから」


 そう言うと、久世はその場から立ち去った。


 どこの誰かも分からない。


(俺は、ただヒーローになりたかっただけなのかもな)


ーーーーー


「伊織、ちょっと鼻黙らせてくんない」


「お前も口黙らせてくんない」


 翌日、風邪をひいたのは久世の方だった。


「大丈夫?久世くん」


 保科にそう聞かれた。


「平気」


 そう言おうとすると、ずびっと鼻水が出てしまう。


「あーもう」


 久世がティッシュと友達になっている間に顔を歪めたのは久世の友達の成瀬勇だった。


「伊織昨日元気だったじゃん」


「雨に濡れた」


「それはそれは。ん?でも傘持ってたじゃん」


「……渡した」


 見ず知らずの人に押し付けた、なんて言えるわけもない。


「ずいぶんお人好しなこった」


「渡したもんはしょうがねぇだろ」


「誰に渡したんだよ」


「………猫?」


「猫って……お前少女漫画のイケメンかよ」


「ちげーし。それにイケメンでもねぇ」


「それにしても伊織、帰った後シャワーだけして適当に体ふいたろ」


「何で分かるんだよ」


「伊織、いつも人のことばっかだもん。一人暮らしだし。ちょっとは自分のこと大切にしろ」


 コツンと勇に頭を殴られる。


「今日は帰って休むわ……」


「おう!土日もあるし、さっさと治せよ!」


 帰り道。


 久世が住んでるマンションで。


(まずい……。鼻水だけで済んでたのに、頭痛の喉の痛みもでてきた……)


「でももうすぐ部屋………」


 そこにいたのは昨日の彼女だった。


 手には傘を持っている。


「……返さなくてもいいって」


「借りたものは返すのが当たり前で……熱、有りますよね」


 タッタとこちらに近づいてくる。


 そして、久世のおでこに彼女のしなやかな手が触れる。


 その仕草に少しドキッとしてしまった。


「やっぱり……私に傘を貸したせいで……」


(俺が勝手にやったことだ。彼女に責任を感じさせたくない)


「俺が勝手にやったことだ」


 一つそうつぶやいた。


 ポケットから鍵を取り出して部屋に入ったとき、視界がぐらんと歪んだ。


 瞬間、誰かに掴まれた感触がした。


 後ろを振り返ると彼女だった。


「これは私の勝手です。看病させてください」


 そう言って、久世の部屋に入った。

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