#1「スローライフを満喫できない」
─── 私はいつの間にか見知らぬ草原に横たわっていた。そうだ。死んでから、異世界に転生してきたんだ。
さてさて、これからどうしようか。運よく、目の前には砂利道が続いている。ひとまずこの砂利道を辿って歩いてみようか。きっとこの道の先には町がある・・・はず!
「お、町が見えてきた。」
三十分ほど砂利道に沿って歩いていると、遠くの方に町が見えた。
町の前まで行くと、そこには二人の門衛がいた。
「あのー、この町に入りたいんだけど・・・。」
「じゃあ銀貨1枚お願いします。」
どうやら、この世界のお金は銅貨や銀貨などといったものらしい。まさに”異世界”って感じだな。
なぜか私はポケットの中に何枚か銀貨や銅貨を持っていた。きっとあの神様がくれたのだろう。なので、それを門衛に渡し、町の中に入った。
町の中は馬車が行き交い、みんなRPGゲームに出てくるような服装で出歩いている。
お金は持っているけど、今後のことを考えると収入源が必要だ。
とりあえず、冒険者ギルドに行ってみよう。
***
冒険者ギルドを見つけ、入る。中にはたくさんの強そうな男の人がいた。正直この場所に入るのは勇気がいる。だけど、これも収入のため。勇気を振り絞って入り、目の前にいた受付嬢に話しかける。
「こんにちは、クエスト依頼ですか?それともクエスト受注ですか?」
「えっと・・・、冒険者登録したいんだけど・・・。」
「っあぁ!失礼しました!・・・えっと、冒険者登録ですね。」
・・・なんだろう、この受付嬢。なんだか忙しなく感じる。
「まずあなたの名前を教えてください。」
「きり・・・、いや、アオ。」
「アオさんですね。了解しました。」
本名を名乗ってもよかったが、ここは異世界。せっかくだから異世界っぽい名前を名乗っておこう。
「じゃあこの石板に手を置いてください。」
受付嬢は、カウンターの上に手の形のくぼみがついた石の板を置いた。
そのくぼみにそって私の手を置くと、石板が光った。その瞬間、ステータス表みたいなものが目の前に浮かび上がった。
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種族:人間
HP:662,314/662,314
MP:846,116/846,116
スキル:敵対探知 Lv.135・剣士 Lv.754・筋肉増強 Lv.976・体力増強 Lv.445・聴力増強 Lv.332・嗅覚増強 Lv.522・速度上昇 Lv.223・視覚増強 Lv.135・使い魔召喚・毒耐性 Lv.111・炎耐性 Lv.221・寒冷耐性 Lv.121
特殊効果:神の加護
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「・・・えええええええええええええ!?!?!?」
「・・・いやいや、きっと石板の故障ですよ。」
再び石板に手を置く。石板が光り、ステータスが表示される。が、先ほどと同じ表示内容だ。いやいや、まさか私がこんなに強いわけが・・・。
「・・・あなた何者なんですか?」
「え?・・・えーっと、ただの人間ですよ。」
「いやいやいやいやいや、ただの人間がこんなレベルのスキルもってるはずが・・・、いや、まあ石板が表示してるんだから事実なんでしょう。」
「・・・ちなみに、私のこのスキルのレベルの値ってどれだけ強いんですか?」
「簡単に一つの国を滅ぼせるぐらいには強いですね。あなた世界最強の力持ってますよ。」
もしかして、これって神様に願ったものが叶ったってこと・・・?いやいや、私、神様に「世界最強の力が欲しい」みたいなお願いはしてないんだけど・・・。
あ、もしかして、これが「誰にもスローライフを邪魔できなくする力」?
─── ということがあったものの、無事に冒険者登録は完了。一時はどうなっちゃうんだろうとは思ったけど、何とかなってよかった。
もうそろそろ日が沈む。その前に宿をとって、今日はそこに泊まろう。
***
「ふぁ〜。よく寝た~。」
窓から気持ちの良い朝日が差し込んでいる。高校なんてものはないから、起きる時間も自由だ。もう・・・最高!
と思っていたら、部屋の扉からコンコンと誰かがノックしている音が聞こえた。
「こんな朝からいったい誰?」
面倒くさいが、開けるしかないなと思い、扉を開ける。
そこには、強面のがたいの良い男の人が立っていた。
「・・・えっと、何か用ですか?」
「お前さんと勝負しに来た。」
「・・・どういうことですか?」
「お前さん、昨日冒険者登録しただろう。その登録の時、お前さんのステータス表をちらっと見たんだ。そうしたら・・・全部のスキルのレベルが異常なまでに高くてびっくりしたんだ。だからお前さんの腕を試しに来た。」
はあ。すっごく面倒だ。私はゆっくりとした生活を送りたいのに。
「ちなみに腕試ししてもらうまで俺は帰らないぞ。」
・・・これは、面倒だけどもやったほうがよさそうだ。
「いいよ。何をやって腕試しするの?」
「『腕相撲』だ。簡単だろう?」
部屋の中で冒険者の男の人と私が手をつなぎ机に肘をつく。
「じゃあ、行くよ。よーいスタート。」
私の合図とともに、腕に精一杯力を入れる。
冒険者の男の腕が一気に倒れ、バーン!という音とともに机が壊れた。・・・あれ、この男の人、思ってたよりも弱い。
「わあああああああああ」
冒険者の男の人は腕を抑えて叫ぶ。・・・って、もしかしてこれが私の力?
─── こうして、私の異世界生活が始まった。スローライフを満喫したいのに、このままじゃ世界最強の力のせいで満喫できない・・・?いや、満喫してやる!異世界スローライフを!
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