選んだ
陽介さんから再び連絡があったのは、ミヨの四十九日が近づいてきた頃の事だった。
海への散骨はフェリーに乗って行うらしく、私と友香梨も一緒にどうかと誘われたのだ。私たちは二つ返事で了承して、その日を迎えた。
朝早い時間の新幹線は空いていた。私は後ろに誰もいないのを良いことにリクライニングを倒して瞼を下ろす。
隣の座席に座っている友香梨は、駅で買ったらしいメロンパンを齧っている。
「冷戦は、どうなったの?」
目は閉じたままで聞くと友香梨は「寝たのかと思った」と言ってまたメロンパンを一口食べる。
「……私冷戦の才能なくてさ。結局ほとんど元通り。普通に接してるよ。でも、このままなら離婚するかも」
「そっか」
「一緒に悩んで同じ方向を向いて苦しんで欲しかったんだよね。こう言うと、嫌な女だけど」
「私はそうは思わないよ。……食べすぎじゃない?」
瞼を持ち上げて友香梨を見やると、メロンパンを食べ終えてドーナッツを袋から取り出していた。
「明日からまた頑張るためだよ」
甘い匂いを嗅ぎながら、私はやっぱり少し寝ることにした。
しっかり眠って友香梨に起こされた私はまだぼんやりしたまま新幹線を降りた。珍しいこともあるものだと友香梨は笑った。
電車に乗り換えてフェリーが出る港へ向かう。
車内は休日というのもあって賑わっていた。陽介さんとは駅で待ち合わせる予定だが、もう彼は引っ越しを済ませているのだろうか。ミヨの残していったものを段ボールに詰めるのは、辛かっただろうな。
陽介さんが散骨に選んだのは有名な観光地でもある美しい景色の海で、ミヨが度々足を運んでいた場所だった。休みの日に一日中景色を眺めていたこともあると、いつか話していた。
「ミヨ、どうして死んじゃったんだろう」
黒いワンピース姿の友香梨はほとんど独り言のように口にして、窓の外を見やった。
私はしばらく黙り込んだ後で、彼女と同じように窓の向こうを見つめた。
「ミヨが選んだ自由なんだと思う」
海が光を反射して、眩しい。
朝起きた時はどんよりとした曇り空だったのに、海が近づくにつれて晴れ間が広がってきたようだった。
ミヨの真実は、ミヨにしかわからない。それでも私が信じたいのは、彼女が選び取った、自由だということだった。
ゆっくりと瞬きをして言葉を続ける。
「ミヨの親、厳しかったじゃない? それで聞いたことがあったの。不自由じゃないかって。そうしたらミヨ、手足が縛られてる訳じゃないんだから自由だよ、って言ってた」
もしかしたら、あの頃からそのつもりだったのかもしれない。
電車が揺れるのに身をまかせて私はまた目を閉じた。
それでも、ただ生きて欲しかったな。




