第一話 死のうとしたら異世界に連れてかれた ~チャプター1~
大きく深呼吸し、そっと抜剣する。
対峙しているのは自分の腰ぐらいまでの背丈、全身グリーンの肌、焦点の定まらない眼つき。片手にはこん棒のようなものを備えている。
そう、ゴブリンだ。
「…大丈夫、やれる。」
両手で柄を握り剣を上段に構え、ゴブリンに斬りかかる。
「ぅおおおぉぉぉぉぉぉ!」
―――そもそもなんで俺はゴブリンなんかと戦うことになったのか。
***
時は少し遡り、現代の日本。
(もう、死ぬしかないな。)
俺は照井勇矢。
怒号が飛び交うブラックな職場を3か月で辞め、再就職先を探しながら日雇いバイトに明け暮れる日々。
最近は新型ウィルスが流行したり、北の大国が戦争を始めたりですっかり景気が悪化し、職も決まらずバイトもなかなか入れてもらえなくなってきた。
貯金もだんだん底を突いていき、この先の生活もままならない。
こんな世の中で生きてたって、もう意味がない。
タオルを何枚か集め輪を結び、それで首を括ろうとしたまさにその時―――
「ダメ~~~~~!!」
「ウボアーーーー!!」
突然現れた何者かに横から突き飛ばされ、壁に思いっきり頭をぶつける。
「じさつなんてダメだよ!いまはつらくっても、いきていればきっといいことあるって!だからしんじゃダメぇ!」
なんか色々と説いているようだが、頭をぶつけ気を失っている俺にはほとんど聞こえていない。
それどころかぶつけた箇所からドクドクと出血し、床を赤く染め始めている。
「わぁ~~~!!ゴメンナサイゴメンナサイ!どうしようどうしようちょっとつよくしすぎちゃった!ゴメンナサイおねがいしなないで~~~!」
***
「…で?」
顔面を包帯でぐるぐる巻きにされた俺が問いかける。どうやらギャグ補正か何かで助かったようだ。次の場面には包帯も消えてるだろう。
「おたく何者?なにしに来たの?」
目の前でちょこんと正座する、見た目小5小6くらいの女の子。ボブカットの頭に白いフリフリのワンピース。そして―――
「わたし、天使だよ。お兄さんを助けに来たんだ。」
そう告げた少女には、確かに頭上に輪っかが光り、背中には小さい羽がぴょこぴょこ動いている。
「天使?そうか、いよいよお迎えが」
「だから違うって!お兄さんが死んじゃわないように来たんだよ!」
「さっき死にかけましたが?」
「う…。ごめんなさい…。」
「もう嫌なんだよ。これから先頑張って生きたって報われるなんて思えない。もういっそいま死んでしまった方が…」
「だ~か~ら~!うぅ…」
言い返す言葉がなくなってしまったのか、黙りこくってしまう天使。
しばらく考え込む様子を見せた後―――
「…お兄さんはこの世界がイヤだから、しにたいって思ったの?」
「…そうだけど?」
「だったら、異世界に行こう!異世界!」
「…イセカイ?」
「そう!異世界!剣と魔法のファンタジー世界!お兄さんは冒険者になって、悪~いモンスターをズバズバやっつけるの!どう?楽しそうでしょ?」
腕を上下させながら楽し気に語る天使だったが、
「え?ヤダ。」
「ナンデ!?」
「だって戦うんでしょ?無理だよそんなの。疲れるし、痛いの嫌だ」
「ええ…?」
どっちが子供だかわかんなくなるくらい駄々をこね始める俺。
「大丈夫だよ!お兄さんの事うんと強くしてあげるし、最強の武器とか魔法とか…」
「そんなんチートじゃん。俺ゲームでチートとか使う奴嫌いなんだよ。」
「んもー!」
ゴネ倒す俺に天使は耐え切れなくなったのか―――
「とにかく!お兄さんを嫌な気持ちにさせるこんな世界とはオサラバして、異世界行こ?ね?」
天使はそう言い放つと、俺の両手をつかむ。
「え!?ちょっ!?」
すると体がふわっと浮き、謎のキラキラ空間へと転移する。
「それじゃあ、行っくよ~!」
掴んだ両腕の輪を中心に二人はグルグル回り、ジャイアントスイングの要領で俺は投げ飛ばされる。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
「それじゃあ、頑張ってねー!あ、お兄さんそのちーと?っていうの嫌だっていうからやめとくけど、すぐ死んじゃわないようにちょっとだけ強くしておくね!あと、武器もちょっといいの渡しとくねー!」
そう言っていた天使もあっという間に見えなくなっていった―――