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加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜  作者: 如月 玲
第1章 幸運か不運か、それは神のみぞ知る

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(15)対抗策

「ちょっと待って、シーラ。私も他の皆も、そんな事一言も言っていないわよ!」

「言ったなんて言ってないわよ。空気を醸し出していると言っただけ。それで明日の、対グダグダ殿下の攻略法を思いついたんだけど」

「え⁉︎ そんなのがあるのか?」

「どんな事を思いついたのかな?」

「あなた、本当に他人の話を聞かないわね⁉︎」

 驚愕して食いついてきたカイルに、面白そうに問いかけてくるアスラン。相方のマイペースぶりに憤然とするメリアに向かって、シーラはドヤ顔で断言した。


「要するにランドルフ殿下の加護っていうのは、相手の動きが見えなければ発揮できない代物なのよ。だから接近して、顔面目がけて大量の砂をぶちまけて目潰しにして、動けなくなったところを叩きのめす。どう? 完璧じゃない」

「…………」

 無表情で押し黙ったカイルとアスランの前で、シーラは胸を張った。しかしメリアが、テーブルを乱暴に叩きながら叱りつける。


「あっ、あのねえっ! 王族や隣国の大使とか居並ぶ公式の試合で、そんな反則行為が許されるわけないでしょう⁉︎ 即刻反則負け確実な事をカイル様にさせるつもり!?」

「どこが反則なのよ。賄賂も加護も使わずに、正々堂々と勝負をしているのに」

「試合場に、申請した武器以外は持ち込んだら駄目なの! 長剣で立ち会うと申請しているなら、懐に隠し持った短剣とかで攻撃するのも駄目なのよ! それなのに目潰しだなんて、許される筈がないじゃない! 少しは常識を考えなさい!!」

「でも砂って武器や凶器とは言えないわよ? それなら大目に見てもらえるんじゃない?」

「この期に及んで、まだ言うかぁあああっ!!」

 とうとうキレたメリアが、声を荒らげながらシーラに掴みかかった。しかし彼女の怒声以上に響き渡るアスランの爆笑で、その場の険悪な空気が霧散する。


「あ、あはははははっ‼︎ 君、凄く楽しいな。それに第三者、かつ剣術にうといが故の自由な発想、いや本当に恐れ入った。さすがはカイルの側近だ」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

「アスラン様! 調子に乗るので、やめて下さい!」

 すまし顔で礼を述べたシーラを見て、メリアはアスランに訴えた。すると彼は、苦笑しながら予想外のことを口にする。


「メリア、あまり叱らないでやってくれ。さすがに砂を持ち込んでの目潰しは駄目だが、今の話でランドルフとの対戦時の対抗策が浮かんだ」

「本当ですか?」

「ああ。簡単に言えば、ランドルフの視界を塞ぐか狭める。またはランドルフに自分の動きを予想させないか、予想できない動きをする。そうすれば良い」

「え?」

「あの……」

 期待を込めて耳を傾けたものの、言われた内容が具体性に乏しかったことで、メリアとシーラは困惑した。意味を捉えかねたのはカイルも同様であり、控えめに尋ねる。


「兄上、つまりどういう事でしょうか?」

「以前手合わせした時に思っていた事だが、カイルの動きは基本に忠実なんだ。剣術の指導役が教えた型通りに、剣を振るっている。それは悪い事ではない。動きに無駄がなく、効率的に力を使えている証拠だ。しかし逆に言うと、次の動きが予想しやすい。というか、十中八九予想できる」

「予測しやすい動き……」

 思わず考え込んだカイルに視線を合わせたまま、アスランは解説を続ける。


「そうなると、動きをゆっくりと捉えられるランドルフにしてみれば、カイルの攻撃を回避するのが容易になる」

「なんとなく分かってきました。つまり剣術の指南役に習った定石通りの動きではなく、変則的な動きと攻撃をすれば良いのですね?」

「そういう事だ。具体的には、こんな風に右上から斜め下に剣を振り下ろすとする。そうするとお前はどう受ける?」

 そこでアスランが右手に持っていたナイフをカイルに向け、軽く右上から左下に振り下ろす真似をする。対するカイルも上半身を軽く捻りながら向き直り、右手のナイフで応戦した。


「それはまあ、こうでしょうね」

「それが通常の対応だな。因みに、その時の脚の位置はこうだろう? ここで、一歩右足を踏み込んだらどうなると思う? または、こんな風に左足をこの方向に滑らせたら?」

 更にアスランは左手からフォークを離し、テーブルに付いた人差し指と中指で両脚を表現しつつ問いを重ねてきた。それに呆気に取られながらも、カイルは律儀に答える。


「え? でもそんな事をしたら、体勢が崩れませんか?」

「多少は崩れるが、すぐに立て直せる。それよりも上半身の姿勢を保つのが前提になっている、お上品な戦い方しかしていない相手には、予測できない動きになるぞ?」

 アスランはそそのかすように笑いかけ、カイルはその笑みに釣られたように表情を和らげた。


「そうかもしれませんね……。実際にやってみたことがないので、ここで話だけ聞いても実践できるとは限りませんが、もう少し具体的に聞かせて貰っても良いですか?」

「ああ、勿論だ。まず、踏み込む場合だが……」

 もう酒と料理そっちのけで戦術談義を始めてしまった異母兄弟を眺めながら、メリアとシーラはしみじみとした口調で囁き合った。


「本当に、仲の良いご兄弟よね。何人もおられる他の兄弟姉妹とは、殆ど交流がないのに」

「お互い、立場が特殊で微妙すぎるものね。でもカイル様が楽しそうで良かったわ。明日の事を考えて、この何日か随分気が重かったみたいだし」

「ありがとう、シーラ。私、あんな事考えたこともなかったわ」

「付け焼き刃の対策でどうにかなるとも思えないけど、カイル様には全力で戦って貰いたいものね」

 真顔で意見を交わしている兄弟を微笑ましく見やりながら、彼女達は彼らの分まで遠慮なく料理を食べ進めていった。


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