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私は最強の運を持つ乙女です。国を救った皇妃は元男爵令嬢

作者: ユミヨシ

アリスティア・ダンゼン貧乏男爵令嬢は、黒髪を短くし、胸もささやかで、大して目立った美人でもなく、平凡な顔立ちをしている令嬢である。

歳は18歳。王立学園卒業まで後、半年を迎えようとしていた3年生である。


貧乏男爵家でも、一応貴族で、無理をしてお金を工面してアリスティアをこの学園に入学させてくれた両親には感謝しかない。女性でも学を得る事は大事だという事で、色々と学ぶことが出来た。

しかし、辛い事も多かった。男爵家はこの学園では底辺。他の高位貴族からは馬鹿にされて、肩身の狭い思いをしていた。

そんな中で、唯一、お友達になってくれたリーナ・ハウール男爵令嬢も似たような境遇で、

慎ましいお弁当を、王立学園の中庭でこっそりと広げて、食事をしようとしていた。


「やぁ。隣に座っていいかな。」


いきなり、現れたイケメンに思わす、アリスティアも隣の友、リーナも目を開いて驚く。

この学園にて、有名な美しい皇太子殿下が、一人立っていたからだ。

艶やかな黒髪、美しい碧い瞳。女性ならば誰しも憧れるレオルリード皇太子殿下だ。


「こ、皇太子殿下。お邪魔なようなら、私達は別の場所に参りますっ。」


慌ててリーナと共に立ち上がれば、レオルリード皇太子は、手で制して。


「私は君に用事があって来たのだ。アリスティア・ダンゼン男爵令嬢。少し話をしてよろしいだろうか。」


「えええ?私ですかっ。」


アリスティアが驚いていると、友のリーナは。


「私は失礼しますっ。」


慌てて逃げて行ってしまった。


- 友よーーー。一人にしないでっーーーー。-


思わず追いすがり、叫びたくなるのをぐっと我慢して。


「何用でしょうか?何か不敬な事を致しましたか?」


って言ってみたところで、この皇太子とは、接点は今まで全くない。


クラスも特別クラスだし、たまに、遠くから見かける位、高位な方だ。


レオルリード皇太子は、アリスティアを見て微笑んで。


「私は君に興味がある。宜しければ、付き合って頂けないだろうか。」


「ど、どういう意味です???」


確かこの皇太子殿下って、イレーヌ・ステリア公爵令嬢と婚約していたはず…


「勿論、君が私のお眼鏡に叶えば、ステリア公爵令嬢との婚約破棄も考えていい。」


「いえっ。恐れ多い事で、お断り致しますっ。」


「皇室の命は絶対だ。」


「宜しければって言いませんでしたっけ?」


まずい、皇太子殿下が睨んでいるっ。


「わっかりましたっーーー。お付き合いしますっ。お付き合い。」


「解ればよい。これがお前の食べている昼食か?」


ぺしゃっと潰れた野菜サンドと、肉らしき塊が少々。


「す、すみません。」


「これから食堂へ行くぞ。お前の食事は奢ってやろう。毎日、私と昼食を共にするように。」


「私にも都合って奴が…」


「これは命令だ。」


「はいっ。」


何故???何故こうなったの??


訳も解らないまま、食堂へと連れて行かれ、

食堂へ行けば、周りの高位貴族達が驚いたようにこちらを見ている。

レオルリード皇太子の婚約者のイレーヌ・ステリア公爵令嬢が取り巻き達とこちらを見て、何だか睨まれているような…。


「いつもの特別メニューを二つ。」


「かしこまりました。」


食堂の係の人に注文している特別メニューって。

そもそも、食堂自体、アリスティアに取って、めったに利用できない程、高級な場所なのに。


係の人が運んできてくれた食事は今まで見た事も無い位、高級だった。

何?このクロワッサンに挟まれた肉と野菜のサンドイッチはっ。

何?このスープ、色々と入っていて、いい香りがするっ。

何?このデザートは、知らない名前の果物?アイスクリーム、凄く美味しいんですけど。


そして、目の前で微笑む、レオルリード皇太子殿下。

凄く美しくて眩しすぎる。


アリスティアは、アイスクリームを掬ったスプーンを片手にしばし、レオルリード皇太子の顔に見とれた。


「私の顔に何かついているかね?」


「いえ、あまりにも尊くてお美しいので見とれておりました。」


「そうか。良く言われる。」


そこへ、イレーヌ・ステリア公爵令嬢が凄い形相で近づいて来た。


「皇太子殿下。どういうおつもりですの?わたくしとの昼食を断っておいて、この女と。」


「イレーヌ。私はこの令嬢と付き合う事にした。」


「何ですってーーーーーっ。」


ギロリとアリスティアは睨まれる。


ひえええええっーーーー。怖いよっーーー。


「わたくしという婚約者がありながら。」


「私はアリスティア・ダンゼン嬢に運命を感じた。」


「ゆ、許しませんわ。」


「安心したまえ。もし、運命が違っていたとしたならば、君との婚約を継続しよう。」


イレーヌはアリスティアを睨みつけながら。


「そこの女。男爵令嬢の分際でよくも、皇太子殿下をたらしこんだわね。ただでおきませんわ。覚悟なさい。」


「たらしこんだというか…。声をかけられたばかりっ…」


イレーヌ嬢は背を向けて、行ってしまった。


公爵令嬢を怒らせてしまった。どうなるのか、凄く不安…


何事もなかったかのように、食事を再開するレオルリード皇太子…。


そして、摩訶不思議な日々が始まった。



翌日、友のリーナと共に話をしながら道を歩き、王立学園へ向かう。


「昨日、両親に話したらびっくりされてしまって。」


「それはご両親もびっくりするわよ。」


「でも、何故にあの皇太子殿下が私の事を気に入ってくれたのか、解らないわ。

だって、貧乏男爵家の令嬢だし、冴えない容貌だし…。あの婚約者って言う公爵令嬢、凄く綺麗なお方じゃない?」


「イレーヌ嬢ね。皇妃様もお気に入りの淑女の鑑って言われているお方でしょう?」


「食堂で思いっきり睨まれてしまった。なんだか心配だわ。あ、そろそろ走らないと、遅れるわ。」


アリスティアが走り出すのに、釣られてリーナも走りしたその背後に、道路の方から何か近づいてきて凄い音でぶつかった。


二人が振り向くと、馬車をつけた馬が柵に突っ込んでいる。

さっきまで二人が歩いていた所だ。走り出さなかったら、巻き込まれていたかもしれない。


二人は真っ青になった。


「巻き込まれないで良かったわね。」


「本当に危機一髪だったわね。」


胸を撫でおろしながら、学園に向かう。


学園についたらついたで、アリスティアは更に危ない目にあいそうになった。


音楽の先生が呼んでいると休み時間に言われ、音楽室へ向かう事になった。


音楽室は別棟にあり、急階段を降りていかないといけない。


アリスティアがその階段の近くまで来た時に、ドンと音がして、ぶつかって走って抜かして行った人がいた。乱暴者で知られている騎士団長令息だ。

お陰で廊下で転んでしまった。


「もう、乱暴なんだから。」


階段の踊り場で、その背を見たと思ったら、騎士団長令息は、うわっーーーと悲鳴をあげて階段から転がり落ちていった。


「えっ???何っ??」


近くにいた生徒が数人、慌てて階段へ走って行く。


「大丈夫かっーーー。」


と声をかけていた生徒から悲鳴があがった。


アリスティアが慌てて傍に行って様子を見て見れば、

階段からさらに人が落ちている。

騎士団令息と2人の生徒が、階段の下で倒れていた。


アリスティアは他の生徒と共に先生を呼びにいった。


幸い、3人の命に別状は無かったが、大怪我を負って、騎士団長令息は入院。

2人もそれぞれ、入院し、階段を調べた所、降り口に油が塗ってあったことが判明した。


危なかった…もし、騎士団長令息がぶつかってこなかったら、間違いなく、階段から転がり落ちていたのは自分だった。


アリスティアは胸を撫でおろす。


今日ってやたら、危ない目にあっていない???


昼食時、レオルリード皇太子にその話をすると、


「それは…よく無事だったな…」


「ええ。運がいいとしか思えません…。」


「さすが、最強の運を持つ乙女…」


「え?なんです?それは。」


「何でもない。アリスティア、君に今度、ドレスと首飾りをプレゼントしよう。

私と共に夜会へ出席して欲しい。」


「えええ?私、ダンスも踊れませんよっ。」


「ダンスは踊らなくても、共に出席するだけでよい。」


「それならば…」


それにしても、何だろう。最強の運を持つ乙女って…



屋敷に帰って、両親にその話をした。

父であるダンゼン男爵は、思い当たったように。


「そう言えば、私達の先祖に、最強の運を持つ男として名高い冒険者がいたな。額に黒い星の黒子があって、数々の魔物を倒し、何度も死にそうな目にあいそうになりながらも運よく生き残ったそうな。」


アリスティアは慌てて鏡の前にすっ飛んでいく。

いつも見ている額だが、マジマジと前髪を掻き分けて確認してみる。

そう…星形の黒い黒子…ずっと昔からある黒子なのだが。


男爵夫人である母がアリスティアの背後に立って。


「そう言えば、アリスティアは小さい頃から運がよかったわね。」


ダンゼン男爵も頷いて。


「昔、屋敷に強盗に入られた時も、何故か強盗が仲間割れして、私達は助かったな。」


「そう言えばアリスティアが赤ん坊だったころ、結婚前に付きまとっていた男がナイフを振りかざして、襲われたのよ。貴方を抱いていた時だったから、必死に庇おうとして地に伏せたら、躓いて、よろけたらしくて倒れ込んだ先に庭石があって頭を強打して亡くなったのには驚いたけど。私達は助かって本当に良かったわ。」


「いつ聞いても怖い体験談なんだけど…。」


そこへ、祖母が奥の部屋からやって来て、


「まったく、この馬鹿が。最強の運を持つ男として名高い冒険者と、同じ場所に黒子があるアリスティアの事を、皇宮の使用人仲間に話してしまったらしいのじゃ。」


祖母の後ろからしゅんとした、兄が現れた。彼は皇宮で使用人として働いているのだが、

どうも皇太子の世話をする使用人にうっかり、最強の者の話をしてしまったとの事。


「ごめん。アリスティア。面白くてさ。現に過去の危機もアリスティアの運のお陰で乗り越えられたかもしれないじゃないか。」


この馬鹿兄がっーーーーー。どうしてくれるのよーーー。


これ、間違いなく皇太子が、最強の運を手にいれようと自分に近づいているって事よね??

一連の不可解な事は皇太子が試している??

それとも、公爵令嬢が??


もし、最強の運の事が本当ならば、誰も自分に害を及ぼすことが出来ないのではないのだろうか?


レオルリード皇太子を明日に昼に問い詰めてみようとアリスティアは思った。


翌日の昼休み。

高級な特別定食をレオルリード皇太子の前で食べながら、アリスティアは聞いてみる。


「皇太子殿下が、私に近づいたのは私の最強の運が目的ですか?私の命を狙ったのも皇太子殿下の差し金ですか?」


レオルリード皇太子はこちらを見て来た。

ああ…相変わらず美しい顔立ちだわ。


「ああ。勿論。そうだ。ただ、命を狙ったのは私の差し金ではない。見て見ぬふりはしたが。恐らくイレーヌの仕業だろう。」


「これ以上のお付き合いはお断りします。私の命を狙う輩を見過ごすような方とは結婚したくありません。

私の最強の運は私の事を愛してくれる最高の伴侶に捧げたいと思います。」


そう断言するとアリスティアは立ち上がった。


「私を断罪なさいますか?」


「いや、やめておこう。断罪出来るとは思えない。お前の最強の運によってお前は助かるだろう。だが私はお前の事を諦めない。」


「御馳走様でした。明日から私はお友達と一緒にお昼を食べますわ。失礼致します。」


アリスティアはその場を後にした。これでこの皇太子とは縁が切れた。

そう思った。


しかし、レオルリード皇太子は諦めなかったみたいで。


「君が中庭で友と食べると言うのなら、私も共に食べよう。」


いつの間にか、中庭にテーブルと椅子がセットされており、

リーナと共に粗末な弁当を食べるアリスティアの前にはレオルリード皇太子が座っていた。


高級な特別メニューの昼食が3人分置かれていて。


「宜しければ、リーナ嬢も。特別メニューなんてめったに食べれぬぞ。」


「あ…有難うございますっ。」


食べ物には罪はない。

せっかくの特別メニュー。アリスティアも美味しく頂くことにした。


「まだ、私の事を諦めないんですか?」


「ああ。諦められない。アリスティア。この国は隣国と緊張状態にある事は知っているか?」


「ええ。皆、騒いでおりますもの。良く知っています。」


「だったら…尚更、君を私の妻にしたいのだ。君の運を持ってすれば、万が一、この国が隣国に攻められても、負ける事はない。」


「えええええ?私、そんなに強い運、持っていないですよ。多分。」


「君の祖先の英雄は、自分を害する者に対する強運を発揮したそうだ。もし、君が私の妃になれば、その強運の力は国全体に及ぶと私は信じている。国を害する者。それに対して、君の強運を発揮すれば、この国は守られるのだ。どうか、私と結婚して欲しい。アリスティア。私はこの国を愛しているのだ。」


アリスティアは考える。


「でも、私の事は愛していないんですよね?」


リーナがボソッと。


「役に立たないと解ったら、途端に離縁されるかもよ…」


「離縁はしない。愛するように努力する。」


努力するって言ったって、アリスティアは男爵令嬢。美人でも何でもない顔立ちで、

胸だってささやかだ。


「解りました。とりあえず、考えてみましょう。もし、無理強いするなら、隣国へ逃げてしまいますよ。」


「それは困る。」


「でしたら、無理強いはしないで下さいね。」


「解った。とりあえずは、夜会…ともに出てくれるな。」


「ええ。いいでしょう。」



こうして不本意ながら、アリスティアはレオルリード皇太子と結婚を前提に付き合う事になった。


しかし、不可解な出来事は収まる気配がない。


道を歩いていれば、いきなり、暴漢がナイフを振りかざして襲って来た。

何故か空振りして、川に突っ込んでいった。


街へ出て見れば、目の前に植木鉢が落ちて来た。もう少し歩くのが早ければ直撃していただろう。


久しぶりにカフェに行き、安い珈琲を飲もうとしたら、運んできたウエイトレスがテーブルに置くときによろけて、珈琲カップを落としてしまった。

こぼれた珈琲がジュウウウウウウっと煙を上げているのは何だろう?


そして、何故かレオルリード皇太子が一緒の時は不可解な出来事は起きなかった。


約束の夜会の日。送られた美しい桃色のドレスと首飾りを着けて、迎えに来た皇宮の馬車に乗り込んだ。

皇宮に着けばレオルリード皇太子が迎えに出て来て、エスコートしてくれた。


「最近、不可解な出来事が多いですけど、どうして見過ごしているんです?やはり、貴方が犯人っ???」


「最強の運の乙女は、見過ごしていても安心だろう。犯人は解っている。今夜この場で断罪するつもりだ。」


「ああ、それならば安心です。よろしくお願いします。」


そして、断罪は行われた。


「イリーヌ・ステリア公爵令嬢。其方が我がアリスティア・ダンゼン男爵令嬢を害しようとした証拠は挙がっている。ここにイリーヌと婚約破棄を宣言する。そして、新たにアリスティアとの婚約を発表する。」


会場に集まっていた貴族達がざわめいた。


いや…婚約発表するなんて聞いてなかったし…。

それに外国では可愛らしい令嬢が皇太子殿下の腕にしなだれかかり、大きな胸を押し付けるというのが流行っているらしいけれども、この詰め物満載のささやかな胸じゃ押し付けるのも申し訳なくて。


イリーヌが叫ぶ。


「嘘よーーー。何か証拠があるというんですの?」


レオルリード皇太子が、背後に控える騎士団長から書類を受け取って。


「皇室の影に調べさせた証拠だ。よくもまぁ次から次へと、アリスティアに刺客を放ったな。エステル外交官。」


「え?ワシ???」


「勿論、イリーヌ・ステリアヌス公爵令嬢も共犯という証拠が挙がっている。連れて行け。」


「いやっーーーー。離して。」


「ワシーーー。知らないからっーーー。何故っーーーーー???」



二人は連れて行かれた。


レオルリード皇太子は微笑んで。


「さぁ、こうして犯人は捕まった。私と婚約してくれるね?」


「仕方ないですね。解りました。」


アリスティアは頷いた。






それから半年後、盛大にレオルリード皇太子と、アリスティアは結婚式を挙げた。

その頃、隣国との緊張状態がついに破れて、隣国との戦が勃発した。


レオルリード皇太子はアリスティアを連れて、戦場の最前線へ出かけた。


「怖くはないか?私も共に行く。お前の最強の運を信じている。」


そう、広がる領土の先には、今、騎士達が血塗られた剣で、この国へ攻め込む隣国の騎士達を追い払おうと戦っている。


国を守る為に。


「怖くないです。私の運で、国が救えるのなら。馬で連れていってくれますか?」


「ああ。それでは行こうか。」


レオルリード皇太子の前にアリスティアが乗り、馬を駆って戦場の最前線へと向かう。

馬に乗りながら、アリスティアはレオルリード皇太子に問いかける。


「私、思ったんです。半年前、イレーヌ様とエステル外交官、あれ、罪を着せたんじゃないかって。刺客を放っていたのは、やはり貴方でしょう?」


「どうして…そう思った。」


「勘としか…いいようが。私がレオルリード様なら、そうしたかなって…。私の最強の運を試さないと、貧乏男爵令嬢と結婚したくはなかったでしょうし…。」


「すまない…。ただ、彼らは他にも罪を犯している。だから、断罪したのだ。すべては国の為。私はこの国を愛しているから。」


「私の事は…一生愛して貰えそうもないなぁ…。隣国へ逃亡しちゃおうかな。」


「アスティリア…。」


「大丈夫。家族を置いていけないし…。最強の運を見ていて下さいね。」


最前線へ乗り入れる。


敵国の騎士が殺到してきた。


怖い…

本当に生き残れるだろうか…

でも、私だって、この国が好きだ。だから…必ず。

神様、私の最強の運、発揮してっーーー。



俄かに空が曇り、いきなり轟音が鳴り響く。


落雷が起きたのだ。敵国の騎士達が吹っ飛んだ。

しかし、レオルリード皇太子とアリスティアの馬は、不思議と棹立ちになって、レオルリード皇太子が手綱を引いた位で、被害は全く受けなかった。


アリスティアは敵兵に向かって叫んだ。


「私は最強の運を持つ乙女、皇太子妃アリスティア。さぁ、私に害をなす者は覚悟しなさい。

命が惜しければ、かかってくるがいい。」


敵国の騎士達は落雷にあって、50人ほどが倒れている。

戦意を失った騎士達は、退いて行った。


自国の騎士達が雄たけびを上げる。


「アリスティア様。レオルリード皇太子様。万歳っーーーー。」


「万歳っーーーー。」


レオルリード皇太子はアリスティアを後ろから抱き締めてくれた。


「ああ、アリスティア。有難う。」


「また、攻めて来ても私の強運があれば、大丈夫ですね。きっと。」


「本当に。感謝する。」



その後も、何度も攻めようと隣国はしたが、病が流行り、騎士達がバタバタ倒れたりして、

戦どころではなくなり、撤退していった。



敵兵を除けてから、一月程過ぎて、最大の功労者でもあるアリスティア皇太子妃は、帝国民にとって英雄でもあった。


しかし、彼女は今、憂鬱であった。


結婚して二月程経つが、皇宮での生活に慣れないのだ。

レオルリード皇太子とは寝室は別だが、夫婦の責務は一週間に一回、果たしてくれている。

大切にしてもらっているのは感じるのだが、モヤモヤが晴れなかった。


それにアリスティア自身、いかに英雄と言えども、出自は男爵家である。

高位貴族達の悪口が絶えないのは、胃が痛くなるくらい辛かった。


「出自が卑しいと、仕草も品がないのですわね。」

「いかに英雄と言われようとも、やはり未来の皇妃は、公爵家位の出自でないといけませんわ。」


皇宮主催のパーティになると、堂々と高位貴族達から、悪口を言われる。

皇太子殿下とていつも傍に居る訳ではないのだ。

萎縮してしまって言い返せない自分が歯がゆい。

マナーもダンスも習っている最中で、なかなか上達しなかった。


一人になるといつも思う。


ここは私のいるべき場所ではないんだわ。

ああ、両親に会いたい。おばあ様や、お兄様にも会いたい。


それに…皇太子殿下に対してモヤモヤが晴れないのは、きっといまだに許せていないのだ。

知り合った頃、何度も殺されそうな危険な目にあった。

それは最強の運の乙女か試したかった皇太子殿下の仕業だと、本人の口から確認したのだ。

もし、最強の運が働かなかったら?間違いなくアリスティアは死んでいただろう。


国を愛しているから、最強の乙女を妻に迎えたからって、試すために私を殺してもよかった訳???それを私は許していないんだ。

この皇宮から出よう。逃げ出そう。


幸い、平凡な顔立ちに貧乳と、高位貴族から馬鹿にされている容姿である。

メイドに化ければ、まさか皇太子妃だと解らないだろう。


いつも、面倒を見てくれているメイドに眠り薬を仕込んで寝かせ、

その服を借りて着替える。

手持ちの金貨をポケットに隠して、廊下に出れば、ばったりとレオルリード皇太子に出会ってしまった。


「こんな格好してどこへ行くんだ?」


「どうして???どうして?」


「君を見張っていないと思っていないようだな。影の者が君を見張っているのだよ。」


「お願いですっ。私をここから出して下さいっ。家に帰りたい。出来れば離縁して頂きたいのです。」


涙がこぼれる。


「ここは私の居場所じゃない。私は平凡な人生を送りたい。

本当に愛してくれる人と一緒になって…ああ。でももう無理ね。皇太子妃の過去を持った女なんて誰も娶ってくれない。あああ…それならばこの牢獄のような皇宮から出て、家に帰りたい。お父様お母様に会いたい…」


レオルリード皇太子は、アリスティアを抱き締めようとした。


アリスティアは一歩下がる。


「貴方は私を殺そうとした。私がそれを許していると思っていたの???」


レオルリード皇太子は頭を下げる。


「すまなかった…。そんなに君が苦しんでいたなんて。でも、言い訳になるかもしれないが、

私はその時、願っていた。君が見事強運を発揮して、死なないで欲しいと…。国の為に、刺客を君に送りながら、私は…君の無事を祈り続けていたんだ。そして、今、君が私から離れていってしまったら、とても辛い。私は君と本当に愛し愛される夫婦になりたい。

アリスティア…愛している。本当に申し訳なかった。」


ぎゅっとアリスティアは抱きしめられる。


「皇太子殿下…私は…貴方にふさわしくありません。綺麗じゃないし、貧乳だし…それに他の貴族達に馬鹿にされていますし…」


「それでも、私には大切な妃だ。君が寂しいと言うのなら、領地から君に会いに来るように、ご両親に頼もう。君が貴族から馬鹿にされていると言うのなら、私から注意する。その…君の顔はとても可愛らしいと私は思っているし、慎み深い胸も私の…好みだ。」


「最後の慎み深い胸の辺りはいらないですけどね。」


何だかとても嬉しくて…。ああ、私は愛されていたんだ。そう思えたら、今までの憂鬱が嘘のように晴れた。



その後、レオルリード皇太子は約束通り、貴族達にアリスティアの出自に対して、失礼な態度を取る者は不敬により、投獄するとお触れを出した。アリスティアを馬鹿にする貴族はいなくなった。

アリスティア自身も、マナーやダンスの勉強を頑張り、優雅な貴族らしい仕草を身につける事が出来るようになった。


夫婦仲も良くなり寝室も共にするようになって、レオルリード皇太子との間に、二男一女を設けた。


最強の乙女の運を遺憾なき発揮し、他国に攻め込まれる事は無くなり、国は平和なり、国内は栄えた。


レオルリードが皇帝になった時に、他国を侵略すべきだと、家臣が勧めたが、首を頑として縦に振らず、皇妃アリスティアと共に更なる国内の繁栄の為に尽くしたと言う。




気に食わない所があったので、ラスト追記しました☆ 拝見して下さった方有難うございます。

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