第五話
「お姉様の仰っていたとおり、ダミアン殿下は素晴らしい方でしたわ」
「あら、そうですか。ローザの義兄となる方ですから、そう言ってもらえると何よりです」
「義兄? ……ええ、そうですわね。もっと殿下に気に入って貰えるように頑張ります」
あんな性格が最低の男が素晴らしい方のはずがありませんのに、私の婚約者というフィルターを通すとどうやら無条件で輝いて見えるというのは本当みたいですね。
そして、私は敢えて「義兄」という言葉を使いました。
ええ、ええそうですとも。私は妹を煽ったのです。
私が素晴らしい王子と幸せな結婚をして、あなたはその王子の義妹に過ぎないと……。
思ったとおり、ローザの目の色が変わってくれました。
ちょっと前まではその目の色が嫌いで仕方がありませんでしたが、今は愛してしまいそうです。
手のひらで妹が踊ってくれている――それが楽しい。
ああ、心の中からドス黒いモノが溢れてきます。
どうやら、私も心のどこかが壊れてしまっているようですね……。
「ローザも良い子にしていれば、きっといつか良い人が見つかりますよ。間違っても、ダミアン様に前みたいにモーションをかけてはいけませんよ。彼は私の婚約者なのですから」
トドメと言わんばかりに私はローザにダメ押しをします。
上から目線で、彼女の顔を舐めるように見つめて……決してダミアン殿下には手を出さないように、と。
「……はい。お姉様の婚約者ということは分かっていますわ」
「そう。それならいいですが」
「でも、私もダミアン殿下のこと、好きになってしまうかもしれません……」
分かっていると大きな声で、好きになるかもと小さな声で呟くローザ。
私の婚約者だから好きになるという理屈は未だに理解出来ませんが、あの男に好意を抱くことに疑問を持っていなさそうな所を見ると、彼女にとって私のモノを奪うという行為は大きな意味があるのでしょう。
それから何度か私は仮病を使ってローザを代わりにダミアンの元に向わせました。
その度にローザはダミアン殿下が素敵だとか、彼のことばかり考えるようになっただとか、段々と彼に依存しているみたいなことを言うようになります。
どうやら、ダミアン殿下にはかなりキツイことを言われているみたいで、贅沢な装飾品を付けるなと言われれば、アクセサリーを一切身に着けることを止め、化粧で誤魔化すなと言われれば、化粧をすることを止めたりしていました。
中々、殊勝な態度を取るじゃないですか。男から見たら可愛げがありそうですね……。
「お前の頭空っぽの妹……あれはいいな。実に躾け甲斐がある。ファウスト侯爵もよくもまぁ、あんなになるまで放置してたものだ。あれだけ曲がった根性だと、一生叩き続けて矯正出来るかどうか分からん」
そして、ローザと会わせれば会わせた回数分、ダミアン殿下は機嫌が良くなりました。
どうやら、彼は殴りやすいサンドバッグが欲しかったらしいです。
「しかし、お前は相変わらず生意気なままだ。洒落たモノを付けるな、と言ったはずだぞ」
「すみません。このネックレスは気に入っていますので」
「そんなことは聞いとらん。ちっ、弱そうな見た目のクセに生意気な……」
どうやら、ダミアン殿下は私がガーランドとの婚約解消のショックとか両親に虐げられて鬱っぽくなっていた時の表情を気に入っていたらしいです。
残念ですが、今の私は元気ですよ。だって、妹がもう少しで地獄に落ちそうなのですから――。




