05 近寄るな
「おお……!」
俺からしたら、大好きな物語の中にするっと入ったものなのだから、感嘆の声も出ようと言うものだ。
『超使えない能力のお陰でクソみたいなパーティから追放された俺は実は勇者の生まれ変わりでハーレムしながらチートスキルで無双していく予定』、略して『ちかよるな』。
主人公のランスは、勇者の一行の一員としてダンジョンに向かうも、その能力が戦闘にまったく役立たないものだったために、ダンジョンの中で追放されてしまう。しかし、そこで同じように追放された美女、リティアと出会い、段々と勇者だった前世を思い出していき、ついにはチート級スキルを手に入れて無双し、元々いたパーティを圧倒してしまうまでに成長する−−−
「そういうハートフルストーリーなんだけどさあ」
俺たちが立っているのは、森の中。
どうも、初めにランスが追放される洞窟のダンジョンの外らしい。俺たちは、この世界に馴染むためか、モブのような格好をしていた。
−−−いや、俺の服はもうない。
「なるほど。追放系というわけですね。それで、その使えない能力というのは?」
コトが思ったよりも食いつく。
「……ふ、イスキあんた、凄く似合ってる。なんていうか、そういうエッチな本、あるわよね」
笑いを堪えて、なかのが肩を震わせる。
「イスキさんすみません、助けたい気持ちはあるんですけど……あの、それ以上肌色面積を広げられると、私、私……うっ」
気分が悪そうに、ミモリが口元を抑える。
それを俺は、少し高い視点から見下ろす。
−−−わけのわからん触手植物に捕まり、服を溶かされながら。
「いいから助けろお前らはぁ!!!」
「いや、無理無理。あたしたちはただのモブなのよ? ……ふふ。」
「なかの、お前は笑うのをやめろ。そんなに面白いのか? 俺が裸になっていく様がよお」
「全然良くないです。私、リバライト様に毎夜お祈りしていますが、今ばかりは信仰心も憎しみに変わるというものです……どうして、イスキさんを完全に女性にしてくださらなかったのでしょう」
「ミモリ、それは俺が一番よく思ってるよ」
「それでそれで、イスキさん。ランスさんの能力は?」
「コトスケ、お前はもう少し他のことが言えんのかこの状況で」
コトは俺の言葉に少し考え込むと、自身ありげな顔で言う。
「次回、イスキ局部露出、猥褻物陳列罪で逮捕!? どうなっちゃうの〜!?」
「お前降りたらぶん殴る!!!」
そんなことを言っている間にも、じゅるじゅると気持ちの悪い音をさせて、触手がどんどん俺の服を溶かしていく。まずい、ものすごくまずい。逆さ吊りの時点で男物の下着が露出しているから、もうそろそろ局部を大々的に公開することになってしまう。
流石の俺も、女子たちの前でそんな非道なことはしたくない。
何より、この美しい俺のこんな姿をいつまでも晒していたくはない。
しかし、俺は無力だ。どれだけもがこうとも、触手の拘束を逃れられない。
もはやこれまで。俺は屈辱に目をぎゅっと瞑って覚悟を決めた。
その時−−−。
ザシュ、と心地よい音がして、俺は呪縛から解放される。近づく地面に思わず目を瞑ると、ふわり、と誰かが抱き止めてくれる感覚。
「大丈夫?」
逞しく、優しい声色。
目を開けると、金色の髪のイケメンが、俺をお姫様抱っこしてくれていた。助け出してくれたらしい。
俺のところに駆け寄ってくる三人と共に、彼に頭を下げると、イケメンは手をあげて去っていく。
「危ないところでしたね、イスキさん。ごめんなさい、私助けたかったんですけど、イスキさんに触れないし……」
「いや……」
俺から視線を外したまま謝るミモリに、なんだかんだ根はいいやつだと感心しながら−−−俺は、イケメンが歩いていった方向から目が離せなかった。
それに気づいたなかのが、俺の視線の先を見る。
「……ランスが、追放されてない」
イケメン−−−パーティのリーダー格が戻ると、彼らは街へ向かって歩き出す。
追放するはずのランスを加えたまま。