02 ようこそ、二次元図書館へ
「え、なにここ、異世界!?」
光に包まれた俺が目を開けると、現代日本とは似ても似つかない光景が広がっていた。
天空の城。表現するならそれがぴったりだ。
そこから白く長い階段がかけられ、これはその真ん中に立っていた。振り返ると、そこそこ大きな街並みが広がっている。
「すげえ……! まじで異世界じゃん!」
階段を上り下りするまばらな人影の中には、耳が尖っていたり、尻尾が生えていたりする人もちらほら。夢にまで見たエルフだ! 獣っ子! 可愛すぎる!
彼らからしたら挙動不審な俺も注目の的のようで、階段のど真ん中で物凄く視線を感じる。急に恥ずかしくなり、なんか案内人っぽい王様がいそうな城に向かって早足で階段を上がっていった。
……少し頭が重いのと、足元のスースー感に、もっと早く気づくべきだった。
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「な、なんだこれ……」
大仰な扉は、案外軽く開いた。しかし、その先に広がっていたものは想像を超えていた。
見渡す限りの、そして本、本、本。
魔法か何か知らないが、自由自在に飛ぶ足場に、似たような制服姿の人たちが乗って、本棚の本を点検しているようだった。
俺が仰ぎ見ても、その天井は視認することはできない。
俺があっけにとられてアホ面を晒していると、後ろから小突かれる。よく考えたら入り口すぐで突っ立っていたままだった。謝ってそこをどこうとする。
「あ、すみませんぐふっ!?」
後ろから襟首を掴まれ、下に引っ張られた。
苦しい。圧倒的暴力。文句の一つもつけたいものだが、呼吸すらままならない。
そんな俺の耳元に、涼やかな声が届いた。
「指宿イスキね。ちょっと、きてもらうわよ」
視界の端に、桜色の髪が映る。
その先を見る前に、俺の体が宙に浮いた。
「え!? え!? なに!? なにぃ!?」
経験したことのない浮遊感に、俺はみっともなくジタバタと暴れる。しかし、その手足は地面の感触を掴まない。
「図書館ではお静かに」
先ほどの涼やかな声が、真下から聞こえた。
俺よりもいくつか年下と思われる、少女。その顔は角度的にはっきりとは見えないが、桜色の髪から覗くまつ毛は長く、その美しさを物語っていた。
少女は俺の片足を掴むと、まるで風船のようにぷかぷか浮かぶ俺を引っ張っていく。
……もっといい運び方はなかったのだろうか?
とりあえず、黙ってされるがままになっていると、「関係者以外立ち入り禁止」のプラカードの部屋の前へと連れてこられた。
不思議に思う俺の足を掴んだまま、少女はその部屋へと入っていく−−−。
ガン!
「あ」
忘れてた、というように少々焦った声を出す少女。
それよりも悲惨なのは俺だ。
太ももから上を、壁に強打した。まだ股間クリーンヒットでないだけマシだが。
「〜〜〜〜〜!!!!」
「ごめんなさい、大丈夫?」
悶絶する俺を、ふんわりと床に下ろすと、少女が顔を覗き込んでくる。大丈夫なわけあるか。
そこでふと、なんとそこで初めて、俺は違和感に気づく。
黒を基調とした、どこか軍隊を思わせるような衣装に身を包んでいることに。そう、それは目の前の、桜色の髪をした少女とお揃いの。
どこまでお揃いかというと、その膝丈のスカートまで。
「……え?」
俺は思わず、股間と胸を抑えた。
あるはずのものがある。ないはずのものがない。それは間違ってない。
「……え?」
「……ん」
俺の動揺を見て、少女が手鏡を差し出してくれた。
銀髪の長い髪。高く小さい鼻に、赤く色づく薄い唇。長いまつ毛が彩る、大きな瞳は、驚愕に見開かれていた。
絶世の美女が、そこにはいた。この美女を見て、目を奪われないものはいない。老若男女関係なく魅了するであろう不思議なフェロモンがこの世にあるとすれば、それはこの美女をからこそ採られるだろう。
問題は、そこではない。
それが、イスキと同じ表情をするということだ。鏡の中で。
「……マジで?」