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リベルリライターズ〜二次元図書館司書の憂鬱  作者: じむじむじむじ
「超使えない能力のお陰でクソみたいなパーティから追放された俺は実は勇者の生まれ変わりでハーレムしながらチートスキルで無双していく予定」
14/14

14.紙魚と呼ばれる存在

「私たちの仕事は、『誤植』を修正すること……具体的に言えば、魔力に当てられて『原作の物語外の意思を持ち行動するキャラクターを修正すること』よ」


 酒屋への道のりで、なかのが話してくれた内容を思い出す。

 キャラクターたちは物語をなぞるために存在する。『ちかよるな』の世界で言うのであれば、主人公のランスは追放されたのちハーレムを築きつつチートスキルで無双するために行動するし、勇者のカインはそのランスを追放するために行動する。しかし、物語を構築しない部分に関してはそれぞれの意思で、大筋に影響しないような行動をとると言う。

 ランスは主人公の追放さえすれば、その後銀髪の頭を助けようがゴブリンの傘下に入ろうが自由なのだそうだ。

 物語とは不可侵の領域。この世界では運命は決まっている。未来は決まっている。

 だからこそ、なかのは俺がランスに接触したことを咎めたのである。(とはいえその後に物語開始前だからいいとかいってはいたが)


「ちなみに、目標となる『物語外の行動をするキャラクター』を紙魚と呼ぶこともあるわ。彼らを修正することが私たちのゴールってわけ」

「シミ? 紙食う虫か。なんか意味が違うような気がするが」

「そうかしら? そのうちわかるようになるかもね」


 本を……物語を食う。


 武具屋の前に到着すると、流石にランスはそこから店の中に入って行っていたようだった。俺は先ほどまで持っていた店の看板を樽に立てかけると、音を立てないように店の中の様子を伺う。

 なかのは【誘惑】を使えとか言っていたが、これから物語を紡ぐ主人公たちを籠絡したらそれこそ話が違ってしまうだろう。


 薄暗い店内で、店主と思しき人影と数人が話しているのが見えた。

 ランスは少し離れたところでまじまじと剣を眺めている。

 ランスのパーティは、勇者のカイン、あとは男僧侶と男タンクの4人。原作でおっぱいを大きくされたのはタンクだ。随分むさ苦しいと思われるかもしれないが、だからこそランスはより一層ゴミスキル扱いされるわけだ。

 しかし、店主と話していた中から1人、ランスに近づく影があった。

 誰だ、あれ? 髪が長い……ポニーテールだ。

 あんなやつ、このパーティにはいなかったはずだが。


 入り口にへばりついていると、後ろから突然突き飛ばされた。


「うぉ!」


 潰れたカエルみたいな声を出して、俺は武具屋の中へ入り込んでしまった。いや、滑り込んだと言うべきか。流石に美しい顔に傷をつけるわけにはいかないから、ギリギリ床に手をついて耐える。当然、辺鄙な武具屋の視線は独り占めだ。

 ランスの、「またあいつか」みたいな顔が異様にムカつく。


「売り子さん、大丈夫かい?」


 店主と話していたうちの1人が、俺に手を差し伸べてきた。


「というか……やあ、昼ぶりだね。怪我はなかったみたいでよかった」


 爽やかに微笑む男。勇者カイン。

 俺が触手にどぅるどぅるに溶かされていたところを助けてくれた男だが……それを思い出したようだ。

 俺はカインの手は取らず、自分で起き上がる。余計なフラグは立てたくない。ただでさえ俺は立ってるだけでも恋愛フラグが立つほどの美貌なのに。


「……あの時はどうも」


 男の声であることがバレないよう、小さくボソボソと呟く。裏声はどうも気持ち悪いと思われがちだからだ。

 それに加えて、俺はこいつがどんなやつかを知っている……原作で知っている。

 好青年の皮を被っちゃいるが、ランスを追放した後ランスが新しくパーティを組めないよう、ギルドを含めた周りによからぬ噂を吹聴するようなやつだ。曰く、破廉恥スキルだの、乙女の聖域を汚すスキルだの……7割くらい当たってはいるが、ともかく。

 俺はそっけなくカインから視線を外しーー他のメンバーを見やる。

 男僧侶と男タンクはにやにやしながらこちらを見ている。「やっぱかわいいよな」「他のことちょっと違うところがいい」などひそひそ言い合っているが、完全に同意なので何も思うところはない。この店の店主はこちらを眺めてはいるが、特になんとも思っていない顔だ。そんなんだからこの店は繁盛してないんじゃないか?

 ランスは、先ほどの俺(と突然やってきた残虐女)を知っているのだから当然だが、半歩引いて警戒するような視線を投げてくる。

 その隣の女、長い髪をポニーテールで結った女。このパーティにはいないはずの女だ。全く防御力のなさそうな肌色の多い格好をしている。その女に俺は覚えがあった。というか、原作のキャラクターなのだが……

 すると、隣からひょこっとなかのが顔を出した。


「もう、何してるの? お仕事の途中でしょう? おほほ、失礼しましたわ〜」


 脳面のような笑顔で棒読みのなかのが、お決まりのように俺の髪を引っ張って武具屋から連れ出す。


「いてえって! いてえんだって!なんでさっきから髪を引っ張るんだよ! 俺の毛根に恨みでもあるのか?」


「い、いえ……ごめんなさい」


 ん?

 別のキャラみたいな大人しさになったな。それに、さっきの様子もおかしい。ランスと俺の間に割って入った時とは演技力も暴虐さも半減している。


「それにお前、俺に話聞いてこいって言ったよな。なんで出てきちゃうんだよ。絶好のチャンスだったろ」


 これはそうでもない気がするが、大人しいうちに行っておこうと捲し立てる。


「わ、悪かったわね……

 


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