12 振り回され系主人公
ランスは、中肉中背黒髪の童顔の少年。安価そうな防具をつけ、腰には申し訳程度の剣がさしてある。
俺に掴まれた腕を見て、驚愕と少しの恐怖を含んだ表情をする。最後尾にいた彼のことを、仲間は全く気にせずに、武具屋の中へ入っていった。
「……」
「……」
お互い、顔を見合わせたまま固まる。ランスは眉を困らせて、そろそろと俺のことを目で窺う。
「……なに?」
「……え、えっとぉ……」
咄嗟に、小さな裏声で女の子を装うが、ランスは俺の気持ち悪い声にぎょっとする。装えなかった。
「え、あの……すみません、俺連れがいるから」
ぐぐぐ、と俺に掴まれた腕に徐々に力を込めながら身を引く。逃げたいらしい。俺も逆の立場だったら逃げたいよ。
「いや、ちょっと待ってくれ、ません、か? ええっと……ランスさん、ですよね?」
腕を離しつつ、まるで野生動物にするかのようにその動向を窺う。俺が名前を知っていることに、さらに彼は警戒を強めてしまった。
「……あんた誰? なんで俺のこと知ってるんだ?」
「いや、それは……」
そういえば、この世界ではモブだけど、俺はなんとか図書館の司書としてここに来ている。それって、言っていいんだっけ? なかのたちは一言も触れてなかったけど。
いいや、言っちまえ。
「俺は、図書館ししょ−−−」
「おぉーい! イスキぃー!」
俺のセリフに被せるように、でっかい声が俺を呼ぶ。
大通りの向かいの店から、肩を怒らせたなかのがズンズンと近づいてきて、俺の髪を引っ張る。
「いたたたたた! やめろ暴力女!」
「あんたねえ、何考えてんの!」
背伸びしながら、俺の耳元で囁くなかの。どうやらやらかしたらしい。やらかすたびにこんなことをされていたら、俺の毛根はきっとすぐに死ぬ。
「何がだよ!」
「なんで主人公と出会っちゃってんのよ!」
「はあ?」
「今回は、まだ物語が始まってないからいいけど……」
なかのがランスにちら、と目線をやる。
目の前のランスは、俺たちのことをヤバい人を見る目で見ていた。それでもそこから動かないのは、また腕でも掴まれたら困るとでも思っているのだろう。
なかのが俺の髪を離すと、ギロッと鋭い眼光で俺を睨んだ。
「今後は気をつけて。まあいいわ、今回に関してはお手柄ね」
「え、褒められてるの?」
「ええ」
興味なさそうにそう言うと、なかのはにっこりと微笑んでランスに歩み寄る。
「ごめんなさい、この人ちょっと可哀想な人なの。いつも手鏡見てキメ顔してるようなやつなの。自分の顔がどの角度から見たら一番輝くか守ってるようなやつなのよ。許してやってね」
「何言ってんだお前! プライバシー! プライバシィー!」
「否定しないんだな……」
ランスが完全に引いた顔でそう呟く。
なかのは俺の襟首を引っ掴んで引きずり、酒屋−−−を通り過ぎて、その横の暗がりへと連れ込んだ。