10 金森ミモリは発想がヤバい。
ミモリが交渉してゲットした、当面の間の職場兼宿は、そこそこの規模の酒屋だった。
店内は冒険者で賑わっている。どうやら、受注できるクエストの一覧なども壁に貼ってあるようだ。
「じゃあ早速、接客を頼もうかな」
体格のいいマスターが、俺たちにそれぞれ制服を渡して、忙しそうにカウンターの中へ戻っていく。とりあえず、貸してもらえた部屋まで行って、着替えてから戻ることにした。
「う〜ん……俺これ、絶対似合うやつじゃん」
所謂メイド服。勿論、記事はそこまでたいそうなものではないし、フリルも俺が思っているものよりは少ないが、急募のウェイトレスにしては上等なデザインだ。
貸してもらえた部屋は一つ。二段ベットがふたつあり、その間に小さな机。
全く相談なしに、なかのとコトがそれぞれベットの二階部分を陣取った。
「ていうか、イスキも一緒の部屋なの? この際文句は言えないけど」
がっつり文句を言いながら、なかのが器用に布団の中でもぞもぞと着替え始めた。お前の着替えなんか別に見たくもねえよ。
「お前らの不安はわかるが、襲ったりする心配はないから安心しろ」
「ほんとですか?」
コトが幼児体型を隠しもせず、ベッドの上で着替え始める。
「イスキさんからしたら、きっとコトがこの中で一番タイプのはず。きっと血迷って、夜中に襲う気だな。信じられません」
「ならちょっとは恥じらいを持って着替えなさいね」
断っておくが、幼女の体になんぞ興味はない。あと、この中で一番タイプなのは俺自信だ。……あーくそ、このごつい体さえ、そしてこの低い声さえ……!
そこで、ミモリが部屋の入り口から一歩も動いてないことに気づく。
「? ミモリさん、どうかしましたか?」
すでに着替え終えたコトが、ベットから乗り出してミモリを声をかけた。
驚いたことに、顔面蒼白。支給された制服を抱えて、細かく震えている。
「……いいんです、イスキさん。私、私、あなたを部屋から追い出そうなんて、そんな酷いこと思えない……! でも、でも、お願いが……一つだけお願いが……!」
男に近寄ると気分が悪くなり、触れると吐くという男アレルギーのミモリ。そのことを全く考慮できていなかった。
「あ、ああ! ごめんな、ミモリ。俺にできることなら、なんでもする!」
なんて心根の優しい子なんだろう。こんなに男が嫌なのに、俺を追い出してやろうという考えなんてないのだろう。その優しさに、俺は心打たれる。涙さえ流れそうだ。
ミモリは、涙を溜めた瞳で、俺を見る。
−−−待て、そのぶっとい刃物はどこから持ってきたんだ?
「イスキさんのお顔は、とても綺麗な、本当にただの女の子です。本来男の人とは話もできない私が、イスキさんとだけはお話しするコトができるのも、そのかわいらしいお顔のおかげ。なら、体のいらない部分を切り取ってもらえませんか? そうすれば、私きっとイスキさんともっと仲良くなれると思うんです……」
「……ちょっと待って、体のいらない部分って、どこ? どこのこと?」
「胸の小さい女性も、骨張った体つきの女性もいます。私が許せないのは、あなたのその男性の象徴です。それさえ、それさえ、なくなればきっと−−−」
ハイライトオフで刃物を両手で握りしめるミモリを見て、俺はしっかりと言い放った。
「俺、外で寝ます」