01 司書か死か
俺、指宿イスキは、仄暗い空間で目を覚ました。
「あれ……俺、死んだはずじゃ」
そう、俺は死んだ。「小説家にならんや」という小説投稿サイトの大好きな作品を読んでいるうちに、俺もこうなりたいと思って道路に飛び出した。(良い子の読者さんは真似しちゃダメだぞ!)
……となれば、ここは所謂、次の転生先を決める女神やらがいる「異世界転生の間」なのか……!
俺はキョロキョロとあたりを見回すが、それらしい存在は見当たらない。
……と、油断した俺の前に、一筋の光が差した。
おお、これこれ! こうやって神々しい存在が、俺に優しく微笑みかけてくれ……る……。
「指宿イスキよ。貴様には2つの道がある」
おっさんが、光の中を降りてきた。
親方。空から親方が。
オリュンポスとか北欧とか、そういうのと知識は全くない俺だが、多分このおっさんはそっちの方の神様なんだろう。とてもいかつい。俺は日本の、異世界転生的なアレコレのかわゆい女神様を期待していたんだが。
「聞いているか、指宿イスキよ」
「聞いてます聞いてます」
慌ててそう答える。
おっさんとはいえ、なんか偉い人には変わらないだろう。この人が俺の転生先を決めてくれるはずだ。
願わくば、「お金持ちの家の坊ちゃんだけどそれを鼻にかけずハーレムを築く勇者」か、「最強の力を持って無双するけどハーレム築けた時点でお腹いっぱいで動く気ありませーんな魔王」か、「特にいいところはないけど可愛い女の子に囲まれてハーレムな冒険者」のどれかがいいなあ。
「司書か、死か」
「……」
ししょかしか。
頭の中で反芻して、その間抜けな響きに少し笑いそうになるが、いや指宿イスキ。このおっさんは、2つの道があると言っておきながら一方しか選べない選択肢を出してきやがった。
「死って、俺もうすでに死んでますよね?」
「死を選べば、もうその魂は生まれ変わりの輪から外れ、永遠に虚空を彷徨うことになるであろう」
ほらやっぱりね!
「司書? か死かって、もっと他にないんですか? 例えば、チートスキル持ちだけど最初は力を使いこなせずに追放されて、後々「ない」」
被せ気味にばっさりと否定してきやがった!
そもそも司書の意味がわからん。
「司書ってなんなの? 俺そういう資格とかとったこと」
「では指宿イスキ、健闘を祈る」
「ほらもう聞いてないよ」
無駄に神々しく光の中を登っていくおっさんを眺めて、俺は途方に暮れた。
途方に暮れている俺を、柔らかく温かい光が包んでいく。
そうして俺は、司書になるらしい。