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SCENE 01 〈最速〉のリミット

イジヤフ ミズト(いじょう みずと)・・・正義漢。好きな場所は高いところ。

キノヱ マトモ(きのえ まとも)・・・慎重居士。好きな場所はミズトの後ろ。


もしお前らが完璧なヒーローを目指すなら、最低三つは揃えなきゃな。

間違わない心、負けない強さ、そして空飛ぶマント。翼でも可。

だってそうだろ?飛ばないヒーローなんて見たことねえし。





Scene.01 最速のリミット


 吹きあがるケトルを手に取り、豆がセットされたドリッパーに注ぐ。フェアリーパン5個とチリドッグ8本は朝食にしちゃ食いすぎかとも思うが、間違っちゃいない。中学生男子としても正義の味方としても、大食らいは必須項目に入っている。


「悪役の事情とか知らねえよ。散り際に『覚えてやがれ』。それくらいでイイじゃねえか」


 そう言って俺、イジヤフミズト(いじょうみずと)はTVの向こうにいるヒーローの間違いを正した。

 最近の悪役は作法がなってない。やれ過去だの事情だのを持ち出して自分の正しさを証明しようとする。悪玉は悪玉。分かりやすくいろよ。

 善玉も善玉。敵さんのお気持ちを汲んで情けかけんな。悪を許すなんて間違ってる。言い訳ができなくなるまで叩きのめすのが正義の味方の役割だろ。

 もっと俺を見習えよ。


「嫌なら観なきゃいいのにさ」


 玄関で「たらたら」していたキノヱマトモ(きのえまとも)の用意がようやく整ったようだ。いや、違うな。正しくは「用意」じゃなくて「覚悟」だ。

 俺はすっかり慣れた「他人の家」のリモコンでTVに黙れと命じた。

 ここは俺の家から少し離れたマトモの家である。通学路の途中にあるこの家に来て、時間を潰す生活を始めたのはいつだったか。もう忘れてしまった。昔の話だ。

 

「おうマトモ。今日は早かったな。コーヒー飲む前に出られるじゃねえか」

「お待たせミズト。もうきっと多分大丈夫」


 マトモは息を吸い、今日も律儀に説明する。


「もし、ドア開けた瞬間車が突っ込んできたら木が倒れてきたら地割れが起きたら野犬がいたら怪鳥に連れ去られたら希少種の虫を踏んづけちゃったら偶然勃発した抗争の流れ弾が飛んできたら落とし穴があったらそれに嵌ったことで誰かの苦労を無駄にしてしまったら硬球が飛んできたらセメント締固め中だったら宇宙船の真下に入ってしまったら朝の無人の静寂を楽しんでいる人が近所にいたら家の前にいる迷子の役にたてなかったら家の前でドミノ挑戦してる人がいたら逃走中の犯人に人質にされたら空から女の子が降ってきたらトンネル効果が発動したら時空の境目だったらオレがドアを開けたことが遠因となって海氷が融けだして海面が上昇したら、最終的に地球が滅んだら…………って考えてたんだ」

「このバカ」


 これが「たらたら」。一周回ってバカ、はマトモのためにある。極端に優柔不断であるこいつは、俺がいなけりゃ家から出ることさえできないのだ。

 まあアレだ。ヒーローの傍らには地味なブレーンがいるもんだ。「たらたら」のせいで、毎朝遅刻ギリギリになったとしても、マトモは大事な俺の相棒。


「ねえミズト」

「あんだよマトモ。もう「たらたら」はナシだぜ」

「ケトルにかけてた火、消した?」

「あ」


 まあ、たまには「たらたら」も役に立つもんだ。

 全ての準備を終えた俺はブレザーの襟を指で引っ掛けてマトモを「持っていく」。負荷がかかった拍子に外れたボタンをマトモは瞬く間に留めなおしてしまった。うちの中学の校則はそんなにキツくない。何がそんなに怖いのか、と問えばまたまた「たらたら」が返ってくる。


「何やってんだ進め!」

「でも、信号赤だよ。事故にあったら」

「どこに車が見えんだよ!通学途中のガキどもか散歩中のじーさんばーさんしかいねえ!行くぞッ!」

「ダメだよミズト。あの角を曲がってきた車が時速八〇キロ以上で走ってきたら横断歩道を渡りきる前にぶつかる可能性が。そんなオレたちを助けようとした人が代わりに轢かれたら、オレたちに続いて来た小学生が跳ねられたら、先生が通りかかって学校で注意されたら、信号機が故障してたら、交差点の真ん中で地割れが起きたら」

「信号関係なくね!?青になったよ!行くぞ!」

「……左右確認してミズト。あと上と下も見て」

「んな突然地割れは起こんねえし!宇宙人はそう簡単にキャトルミューティレーション見せてくんねえよ!もーイイからお前は目ェ瞑って俺について来い!セメントにハマっても俺が引きずり上げてや


 「る」を言う前に俺の顔の前を通り過ぎるトラック。前方不注意だぞ。こんなとき空飛ぶマントがあればどこまでも追いかけてって成敗してやんのに。


「……気を付けてミズト、轢かれたらどうするの」

「そのときは霊能力をゲットして蘇ってやるさ」

「明日は体育の実技テストだろ。怪我したらまずいよ」

「怪我をおして戦う姿はまさにヒーローだろ」

「よそ見して事故起こすのはただのドジ」


 うるさいヤツだ。ほかの一切には配慮を怠らねえくせに俺にだけは遠慮がねえ。

 何があっても何とかなる、が俺の生き方だ。言いてえことがあるなら言う。行きたいなら突っ走る。気に入らねえ悪がいれば殴る。

 ヒーローとしては当然だが、俺はイジメも見逃さねえ。カツアゲなんか見つけようもんなら反省を促す。拳で。殴るのは良くねえって?間違ってもらっちゃ困るな。俺は「善」じゃねえ。「正義」だ。

 俺たちの学校、市立景陽中学。この学校の生徒の八割は俺が殴ったやつか俺が助けたやつで占められている。校内でこれほどの知名度を誇るのはサッカー部のエースか俺かってなもんだ。

 それなのに。


「マトモくん、今イイ?」


 またか。これで今月何度目だ?この女子が今から話すことも、結果も、俺には一瞬で見通せる。でもこいつは、キノヱマトモというヤツは、ド長考に入るのだ。案の定マトモは女の告白に対し十五分の沈黙をキメた後、顔面に手形を付けられた。「こんなヤツやめて俺にしとけば」と言った俺もついでに殴られた。


「ずっとだんまりってのはさすがにダメだろ」

「…………だって、罰ゲームで無理やり告白させられてたら浮気性だったらすぐ飽きられたらファンクラブに逆恨みされたらストーカー化したら刺されたらデートにサイフ持って来ない子だったら喧嘩してあることないこと言い触らされたらひそかにファンクラブがあって妬まれたら、ドッキリだったら、別れた時に悪い噂流されたら、オレなんかと付き合ってイジメに遭ったら、すごい怖いお兄さんがいたら、彼女自身が強くてケンカするたびDVに遭ったりしたら」

「ねえよ」


 国語の授業で「たり」は二回以上使えと習ったが、こいつに限っては「たら」は一回という法律が出来てもイイと思う。


「優柔不断すぎんだよお前は!」

「ミズトは猪突猛進すぎ」


 それでイイ。プラマイゼロだ。俺がアクセルでお前がブレーキ。

 どれだけ慎重になろうが運命は向こうからやってくるし、どれだけ勢いがあっても考えなしじゃたどり着けねえ。世の中ってのは上手くできてるモンだぜ。


 学校が終われば一目散に帰りたがるのがマトモである。他人という不確定要素が大勢いる社会は、こいつにとっちゃ未開の秘境より危険なんだろう。


「なー、たまにはゲーセンとかいかねーか?」

「今日はスーパーで買いだめする日だから」

「その前に遊ぶくらいいーじゃねえか」

「辿りつくまでに何があるか分からないだろ。店長の気が変わってセール取りやめになったらオーナーの気が変わって閉店されたら地震が起こって店が物理的に潰れたら食糧難の速報が入って在庫全滅したら動物園から虎が逃げ出して精肉コーナー占拠されたらゾンビウィルスが蔓延して生き残りの拠点になったら特価のフェアリーパン買えないじゃない。だから平和なうちに一刻も早く」

「ねえって言ってんだろ!「スーパーに辿りつく」なんてセリフが既におかしいんだよ!」

「よそ見危ないよ。前後左右上下内外確認してミズト」

「左右だけでいいだろ!上下って何を………見れ、ば………」








           「イイわねアナタ!アナタにあげることにする!」








 天から見た俺の顔はさぞ間抜けだったと思う。

 雲に吊られているように、ひらひらした服が、いや女が逆さまになって宙に浮いている。それがゆっくり近づいてくる。何の冗談だ。


「あらあら、ワタシ、プラム=ディレ=ロデュウ。おめでとう。アナタは選ばれたのよ」


 豪胆でならしたミズト様もさすがにびっくりだ。三歩も後ずさってしまった。だが隣で腰を抜かしている奴がいたからまだ冷静でいられた。プラムジレロデュー?どこからが名前でどこからが名字だ。そんなことを考えているうちに女がもう一段降りてきた。顔が近い。


「ワタシが不思議なのね。浮いているのは気にしないで。プラムって呼んでいいわよ」

「いやするわ。どっから吊られてんだ?」


 女の身体を隈なく見ても、仕掛けが分からなかった。

 不審が疑問へ、疑問が期待へと転がっていく。


「ワタシね、異軸から来たの」

「異軸?」

「こことは違う世界。すなわち異軸。そんなことよりアナタ、世界一になりたくない?」

「声をかける相手を間違えたな。俺はもう世界一の正義の味方だ!」


 マトモが俺の裾を引っ張ってきた。お前は「頭のおかしい女が大掛かりな詐欺を仕掛けてきたら」とか考えているんだろうが、俺は「異世界から来た女が退屈な日常を壊してくれるとしたら」説を推すぜ。


「荒事好みなら気が合いそうね。正義の味方ならワタシの願いを叶えてくれないかしら」

「いいぜ!お前の望みを叶えてやる!何でも言ってみな!」


 頭上に浮かぶ女に負けないよう胸を張り、俺はプラムとかいう女の話を聞くことにしてやった。


「ワタシは平和がキライなの。だから称号を賭けた修羅場を見たくて。ね、アナタは今の自分に満足してる?変われるとしたらどんな自分になりたい?」

「俺は」


 そんなの決まってる。正義と力を備えた俺に足りないものはただ一つ。


「俺はどこにでも存在するヒーローになりてえ」


 どこであろうと現れて、すべての間違いを潰したい。そのために必要なものは一つだ。


「そう。じゃあアナタにはどこにでも行ける称号を授与するわ」


 そう言って女は小さな箱を俺に渡した。それはまるで玩具屋でで手に入るような安っぽい代物。


「おいおい何だこの箱は。ガキじゃねえんだぞ」

「遠からず、ね。それは『十八番(オハコ)』。中に入っているのはアナタの願い。それがアナタを世界一にする」

「…………待ってミズト」


 女の声に反応するように箱が光り出す。これは本物だと俺の直感が騒ぎ出す。


「それを持つ者を『称号保持者(タイトルホルダー)』と呼ぶわ。そしてそれを奪い合うことを『称号剥奪戦(タイトルマッチ)』とも」

「へえ、面白そうじゃねえか。ノったぜ」

「待ってミズト」


 訳の分からない単語が並び、物騒な雰囲気が伝わってくる。修羅場は大好物だ。ヒーローは危険地帯にいるものだろう。


「称号保持者は無敵のヒーロー。ただし、称号を剥奪されたらただの人間に戻る」

「へえ、どう無敵なんだ?」

「人知を超えた能力が備わるわ。それに多少の損傷なら称号の力ですぐに治せる。でも称号を破壊されてしまうと取り返しがつかないから気を付けて」

「つまり、他のヤツらの称号を奪い続けて、最後に残ったやつが勝者だと」

「そういうこと。血で血を洗うド修羅場になるわ」

「イイね!」

「待ってミズト‼」

 

 何だよマトモ。「知らない人にものを貰ってはいけません」か? お得意の「たらたら」で考えてもみろよ。「明日世界が終わったら」。そう考えると「安全」や「平穏」に何の意味がある?退屈に百年生きるより、面白い一瞬を味わいたいんだ。知らない世界出身の女から得体の知れない物を受け取るのなんか、全然アリだろ。

 それに女の話が本当だったら、とんでもない能力が悪に渡ってしまうかもしれねえ。

 確かに常識で考えれば怪しいことだらけだ。だがずっと止まっていたところで世界が回るわけもない。


「やらなきゃいけねえことってのは、必ず追っかけてくるんだぜ」


 ゆっくりと開くそれに焦れた俺は、手っ取り早く握りつぶした。赤く爆ぜたそれは、俺の大腿に絡みつき、レッグバンドの形になった。女を信じるには十分すぎる演出だ。


「〈最長〉の称号保持者(タイトルホルダー)、イジヤフミズト。イイわね!とっても格好イイわ!」


 指の先で拍手をした女はそのスポットライトのような目をマトモに向けた。


「さあ二枚目、アナタで最後よ。ちょうど最後」

「何だ、マトモにもやるのか?」

 

 この女、「修羅場が見たい」って言ってなかったか?それならこんな臆病な奴にやっても無駄だろうに。


「そうよ。さあ聞かせて頂戴。キノヱマトモ、アナタはこの世界で、何の頂点に輝きたいのかしら?」

「…………」

「ダメだ。『たらたら』し始めた」


 こいつはこんな人生の転機にさえ決断を遅らせるのか。無心で追いたくなるような夢が、こいつにはないのか?俺にはある。それだけで人間違うモンだな。


「お前ってこの世の終わりが来ても悩んで過ごしそうだよな」

「……ミズトはどうするの?最後の日が来たら」

「俺は正義の味方だぜ?」


 手に入れたばかりの称号を叩き、見得を切る。マンガだったら大ゴマでベタフラッシュが焚かれている瞬間だ。


「終わらせねえよ」


 我ながらカッコいいと思ったのに、マトモは空回りして終わりそう、と呟いた。本当に俺だけには容赦がねえ奴だ。


「ちょっと試してみるか。行くぞ」

「え?」


 マトモの返事を待たずに俺は奴を引っ掴んで跳んだ。飛ぶ瞬間、俺の足で称号が激しく光り、足に熱がこもった。ロケット発射、て感じだ。俺が受け取った称号の力は確かに〈最長〉であったようで、ひとっ跳びで空のド真ん中にいた。何てイイ気分だ。景陽市のランドマーク、「K-YOタワー」より高いところに俺たちはいる。


「待って!っちゃくち!着地はどうするの!?」

「大丈夫だ!多分!」


 これで死ぬことなんてないはずだ!……よな?さっきプラムも言ってた気がする!多少の損傷なら称号の力ですぐに治せるってな!多少ってどれくらいだ?マトモは平気なのか?そんなことを考えていたらもう建物の屋根が迫ってきていた。ヤベえ!


「……しぬかとおもった」

「良かったな!生きてて!」


 考えてから動くということがどうにも苦手な俺だが、大抵のことは結果オーライでやってきた。今回も例にもれず助かって良かった。

 着地の瞬間にも〈最長〉の称号が光ったから、どうやらコイツが衝撃を吸収してくれたらしい。 屋根を突き破っちまったが、俺もマトモもケガらしいケガは見当たらなかった。


「ここ、どこ?」

「家の辺りまで跳んだつもりだったんだけどな。練習する必要があるか。これじゃまるでぶっ飛ばされた悪役だ」


 見上げると天井に俺たち型の穴。派手にやっちまった。持ち主探して詫びいれねえと。まさか正義の味方が罪から逃げるわけにはいかねえし。


「……だから言ったのに」

「まー空き家で良かったじゃねえか!」

「空き家じゃない。倉庫だ」


 誰かがいた。声のした方を振り返る。

 マトモは一番の安全地帯、俺の背中へと隠れた。


「ツイてるな。持ち主探そうと思ってたとこだ」

「何もしなくてイイから帰れ」


 寝起きみてえな掠れた声の主は妙にフンイキのある男だった。束ねられた髪は背中まで届くほどの長さだが、声は低い。いや、()()()()()()。大きめのジャケットを着てはいるが、肝心の本体は細っこい。雑多に積まれた布袋の上から見下ろしてはいるが、多分身長はマトモより少し高いくらいだ。ただ、眼光は野良猫みてえにギラギラしてる。


「俺はこの町の正義、イジヤフミズトだ。パトロールしてたらミスっちまってよ。お前、中学生?何年だ?」

「聞こえなかったか?失せろ」

「オイオイこの辺に住んでるからヨロシクってだけだろ。いくつだよ?見たところ俺らよりガキっぽいけど」

「最後通牒だ。「消えろ」」


 俺は女に話しかけられることも珍しいが、男に喧嘩を売られるのはもっとレアだ。今日はイイ日だ。なるべく相手の視界に入らないようにしながら俺の服を引っ張るマトモに下がれと伝えた。


「お前、誰に喧嘩売ってるか分かってるか?俺はこの街の正義ーーー」

「称号を手に入れたばかりで浮かれているガキだろう。違うのか?」


 称号、という言葉を聞いて少し動揺してまった。称号を知っている、いや、持っている人間だ。天井を突き破ってきた時点で気づいていたのか。


「ガキ?ハズレだ。俺は正義の味方。景陽市の平和を守るヒーローだ!」

「おれは正義の味方が嫌いだ。奴らはいつも正しくて強い」


 長髪は名前よりも先にお立場を教えてくれやがった。

 正義の味方が嫌い。つまり悪。つまり俺の敵。


「お前もあの女に称号貰ったのか?何を?」

「さあな」


 コイツも「世界で一番」の能力を持っている。それとなく全身を観察したがそれらしいものは見当たらない。どんな能力か見当もつかないが負ける気はしない。


「本当に俺とやる気か?俺のこと知ってる?」

「同じ言葉を返そう。称号を剥奪される覚悟はあるのか?ガキ」

「ガキ?俺のがでけーぞ」

「自分と相手の力の差を測れない奴は、みんなガキだ」 


 度胸は認めてやろう。ハッタリでも俺の目をまっすぐ見られる奴は久しぶりだ。弱い者いじめは趣味じゃねえが、


「俺は景陽中二年、イジヤフミズト」


 体中の血が滾るのを感じた。これだよコレこれ!こうやってサシで向かい合って名乗り合う瞬間が一番昂ぶる。これから悪を成敗するヒーローそのものじゃねえか!

 さっきので要領は掴んだ。「この場所」から「敵」までの狙いを定めて、と。


「得た称号は〈最長〉!どッからでも間合いを詰められるッ!」


 〈最長〉発動。光る。光る。右脚のレッグバンドがマンガのベタフラッシュみたいに光る。


 ひとっ跳びで長髪の目の前まで距離を詰め、鼻先に拳を掠める。俺の挨拶は完了だ。逃げる気はなくなっただろ。


「正義の味方が喧嘩を仕掛けるのか?」

「称号持ってる奴同士のサバイバル。それが俺たちに力をくれた女神様の望みだろ?叶えてやんなきゃバチがあたるぜ」


 OKOK。見えてきた。これは聖戦だ。俺は神に与えられし力でありったけの称号を集めて無敵のヒーローになる。そういうストーリーなんだ。やっと理解した。どこまでも届くこの脚と、何物をも砕くこの拳で俺は世界の頂点に立つ。この中ボスみたいな奴との戦いが、イジヤフミズト伝説第一話だ。


「おれは正義の味方が嫌いだ。奴らはいつも正しくて強い」


 中ボスが何か言ってる。


「何だって?」

「いや、イイ称号だ。自分で選んだんだろう?「どこからでも間合いを詰められる」。とても便利だ」


 長髪はその場で足を振り上げ、「蹴り上げる」動作をした。一瞬だが左足首に称号らしきものが見えた。


 そして本体が消えた。


「おれは」


 背後から声がした。


「一瞬で間合いに入れる」


 直後に衝撃。視界がブレて次に目を開けたときには瓦礫に埋もれていた。


「ミズト!」


 マトモの声が遠い。あいつ俺の後ろにいたよな?ってことは長髪の攻撃を受けて吹っ飛ばされたのか。


「遅い」


 声のした方を見る。誰もいない。慌てて前後左右を見渡すが、奴がどこにもいない。いや、「見えない」。

 俺は〈最長〉で闇雲に跳んでその場を逃れようとした。しかし着地点にはすでにそいつがいて、俺は自分の勢いを殺せないまま攻撃を食らった。


「……〈最速〉!そいつ速く動く称号持ってるよ!ミズト!」

「お友達の言うとおりだ。お前が何を思ってバッタのような能力を望んだのかは知らないが、強さとは」


 顔を上げると長髪が目の前に立っていた。掴もうとするとまた消えた。



                              「速さだ」



 後ろから声がした。しかし振り返ったところで視認はできない。俺がバッタならこいつはハエだ。

 なるほど〈最速〉。何て相性の悪い称号だ。いや、そもそも〈最長〉ってバトルには不向きなんじゃねえか?俺はいつだって駆け出すのが早すぎて気づくのが遅すぎる。

 痛みは一瞬だ。後を引くことはない。これがプラムの言っていた無敵状態か。称号を持っている限り外傷は負わない。称号を奪われたときが、最期だ。


「称号置いて帰るなら許してやる。音速で殴った死体は片付けるのが面倒なんだ」

「なーに言ってんだ。ようやく目が慣れてきたトコだっての


 言い終わる前に敵が〈最速〉で接近していた。焦点を合わせるよりも先に顎に衝撃。顔の骨が折れた。息ができない。称号で治るにしても痛えもんは痛え。


「ガキが。全速力で殺してやる」

「、ってぇ……な!」


 目が慣れたなんて嘘だ。慣れるわけがない。暗闇の中で蚊を叩く方がまだ簡単だぞちくしょう。がむしゃらに拳を振り回してみるが、まったく当たらない。

 認めよう。ピンチだ。

 

「ねえ、そろそろ決まった?あなたはこの世界で、何の頂点に輝きたいのかしら?」


 聞き覚えのある女の声。

 この状況でも全く調子を変えない女は、マトモのすぐ上に浮かんでいた。


「プラム!ねえ!あれ!やめさせて!」

「ッきゃ――――――!!!流血!」

「そうなんだ!ミズトがケガを」

「イイ感じの流血じゃない!何よもう!始まってるなら早く言ってほしいわ!」


 いや違うな。何か興奮してる。マトモはプラムにぶら下がるようにして喚いているが聞いちゃいない。バトルの気配が察知できるのか、たまたま出くわしたのかは分からないが、上下しているのは「跳びあがって喜んでいる」からなんだろう、多分。


「何言ってんの!?止めてよ!ミズトが殺される!」

「ワタシは言ったわよ。燃えるバトルを見るために称号を配ってるって」


 トドメまでがバトルじゃなあい?そう言い放ったプラムはまるで俺のことなんか見ちゃいなかった。俺が血を流しているのを観賞して喜んでいる。自分のセッティングした戦いが繰り広げられているのを観て興奮している。闘牛を観る客、はたまた格闘ゲームを眺めるプレイヤー。そういう目でプラムは俺たちを観ていた。


「プラム!お願いだから……!」

「アナタが助けてあげれば?聞かせて頂戴。アナタはこの世界で――――――



「〈      〉‼」



 マトモが即答した。

 いや、それより何て言ったこいつ?それは一体何の力だ?普通この状況なら〈最強〉とかじゃねえの?敵の長髪も、コトの行方をただ見ている。プラムも状況を飲み込めずにじっとマトモを「見て」いた。何だよ、何でアイツが中心みたいになってんだよ。


「後悔はないわね?」

「うん。〈最速〉に勝つにはそれしかないんだ」

「へえ?」


 長髪が反応した。挑発に乗ったというよりは面白い冗談を褒めたという感じだが。


「おれに勝つ方法を思いついたって?」

「今思いついたんじゃない。ずっと考えてたんだ」

「ずっと?」

「暇さえあればね。プラム、授与は今すぐしてくれるの?」

「ええ勿論。聞かせて頂戴。あなたはこの世界で、どんな景色を見たいのかしら」


 プラムは俺に称号を授けた時のように箱をマトモに手渡した。マトモはそれを躊躇なく開ける――――――かと思いきや、開ける動作に入る直前で固まってしまった。


「この期に及んで「たらたら」かよ!」

「だ、だって……!」


 このバカ、そう言おうとした瞬間に俺は床にキスしていた。頭を踏まれている。額から血が流れているのが感触で分かる。


「やる気になったか?ガキ」

「お前!やめろ!」


 人の頭の上で会話すんじゃねえよ。何だコレ。こんなんじゃまるで、俺は、ヒーローの助けを待つモブ助じゃねえか。


「オレは」


 倉庫中にマトモの声が響く。光が充満する。目を開けていられない。



「オレはミズトを助ける!!後悔なんて後ですればイイ!!」

 

 

 マトモは自分に言い聞かせるように叫んだ。


「解き放ちなさい。アナタだけの称号よ」


 プラムの言葉に従いマトモは箱を開け放った。まばゆく輝く光が王冠の形になってマトモの頭上に落ち着く。街の時報が鳴った。録音された鐘の音が四度響く。再生の福音か。


「……話を戻すが、「〈最速〉に勝つ方法をずっと考えてた」ってのはどういうことだ?」


 頭上の王冠が一瞬光った。称号発動の合図だ。


「オレはいつもシミュレーションしてた。空から女の子が降ってきたら?何かの能力で世界一になれるとしたら?何でも一つ願いが叶うとしたら?突然めちゃくちゃ速い敵に襲われたら?」


 シミュレーションってあの「たらたら」のことか。


「いくつもの枝分かれする未来を想像しては迷って、惑って、ミズトに迷惑ばかりかけてきた」


 確かにこいつは人生の大半を「考えること」に費やしてきた。あらゆる可能性を思い浮かべては、恐る恐る選択してきた。


「あらゆるシミュレーションは済んでいる。だからオレに必要なのは何でもスパッと決断できる力」


 正解を一瞬ではじき出す力、それを手に入れたっていうのか。こいつが「たらたら」しなくなったら、ブレーキでなくなったら、どうなるんだ。


「決断が遅くなってごめんミズト。でも迷惑をかけるのはこれが最後だ」


 マトモは敵を見据えたまま俺に言葉を投げた。長髪も俺に背中を向けてマトモに向き直った。何だよ。何なんだよこれは。

 〈最速〉が光ったかと思うと長髪の姿がまた消えた。高速移動だ。マトモは目で追おうとはせず、指を二本立てて突き出した。何だ?勝利宣言か?

 マトモの不可解な行動の意味は一瞬後に理解できた。マトモの指はちょうど長髪の目の先に置かれていた。あと数センチ近ければそのまま潰していただろう。


「「「まさか」」」


 俺と長髪とプラム、三人が同時に同じ言葉を発した。マトモだけが全て想定内だというような顔をしている。

 また長髪が消えた。マトモはまた二本の指を立て、今度は後ろに向ける。その直後に〈最速〉が姿を現す。

 先回りしてやがる。

 相手の動きを予測し、その動線に指を置くだけで脅威のカウンター攻撃になっている。

 少しでも読みが外れればそのまま攻撃を食らって終わりだ。俺には分の悪い賭けに見えたがマトモにとっては熟慮の末の正解なのだろう。〈最速〉の方も踏み込みが鈍っているように見えた。目が潰されるかもしれないと思えば迷いも生まれるのが人間だ。


「!!」


 マトモはあろうことか王冠を敵に向かって放り投げた。手を伸ばせば届く距離に称号があることで生まれた長髪の隙を、マトモは見逃さなかった。


 ばちん。


 軽いが、確かな打撃の音。

 殴った。あのマトモが。

 殴られた。あの〈最速〉が。 

 そうか。あの目潰し(チョキ)は布石か。あれだけ正確に動きを読まれて回り込まれりゃ〈最速〉は下手に移動できない。フットワークを鈍らせたところで〈最短〉で攻撃を当てにいく。実際に見てみりゃこれしかねえっつーほどの策。「スパッと決断できる力」は言いかえれば頭の回転を速くする能力。余計な選択肢を即座に切り捨て、迷わず答えに辿りつく。

〈最短〉距離(ダイクストラ)」を導き出す力だ。

 それがマトモの望んだ力。最速よりも速い能力。逃げ道を断つあいつの覚悟。


「きみ、高速移動中何も見えてないんだろ。不用意に突っ込んできたら事故が起きるよ」


 ピースサインを裏返して敵に見せたマトモは、別人のようだった。


「窮地に陥って閃いたか。まるで害虫だな」


 たとえ上手の長髪がそう言うとマトモの称号がまた光る。


「確かにゴキブリはピンチになるとIQが跳ね上がるっていうけど、〈最短〉が上げてるのは取捨選択の速度。それとは全くの別物だよ」


 口喧嘩にも使えるのかその称号。便利だな。ていうか敵の挑発に真顔で返すなよ。向こうさんきょとんとしてるだろうが。そんなヒーロー聞いたことねえよ。

 おもむろに長髪が消え、マトモに攻撃を仕掛ける。マトモはそれを少し体をずらすだけで避けてみせた。そしてついでのように最短距離のパンチを繰り出す。重くはない拳だが、精神的には効くだろう。「人は殴っちゃダメだ」が口癖の、ビビリを絵に描いたような奴に一方的に殴られりゃな。


「人は殴っちゃダメだけど、外道は殴った方が世のタメだ」


 称号なしじゃ一生出せずに終わっただろう答えをマトモは口にした。それが正しいかどうかなんて関係ない。重要なのは正誤じゃねえんだ。自分の中の正義が決まれば、人はどこまでも強くなれる。


「「最短距離パンチ(ダイクストライク)」って名前にしよう」


 そのネーミングは間違いなく間違いだがお前が気に入ったならまあいい。名付けたてのその必殺技でマトモは〈最速〉を吹っ飛ばしやがった。「迷いのなさ」は、ここまで力を引き出すのか。


「逆に言えば「ためらい」がどれだけ力を弱めていたのかって事だよね」


 マトモは最短距離で真理にたどり着く。見ているのは自分の拳。〈最速〉なんか見もしない。


「このガキ……!」

「きみ、弟だろ」

「は?」


 本質を突く、熟慮の末の一言なのだろうが、〈最短〉経路が見えない俺達には意味不明の言葉にしか聞こえない。何で今、敵の家族構成を暴く必要がある。


「人を罵倒するときってね、自分が言われて一番嫌なことを言うんだ。「ガキ」だって馬鹿にされてきたんだね」


 ああ、長髪の口癖「ガキ」からそこまで推理したのか。そういや最初に俺が「ガキっぽい」って言ったとき反応してたな。


「秘密基地でのんびりしてたのにいきなり乗り込まれたからビックリしたんだろ。ごめんな」


 乾いた言葉が吐き出される。冷たい空気を纏って敵にジリジリと圧力をかけている。誰だよあれ。誰なんだよ。

〈最速〉で間合いを詰めた敵に、マトモは最少限の動きで、最短距離で目潰しを繰り出した。マトモが止めたのか敵が止まったのか、目潰しは紙一重で未遂に終わる。


「遅い」


 マトモは最速に対してそう言い放った。


「動き出しが遅いよ。間合いは左利き用のソレなのに、右構えでやるからそうなるんだよ」

 

 誰の追随(マネ)?とマトモは子どもにするように〈最速〉に尋ねた。

 なあマトモ、左利きの間合いなんていつ知った?俺が喧嘩してる後ろで見て覚えたんだろ。いつも俺の背中に引っ付いてた奴が、俺の前に立って、俺より強い奴とタイマン張ってる。何だよこれ。何なんだよ。


「聞くまでもないか。そのジャケット、お兄さんの?憧れからくる模倣は思春期にありがちなことだけど、袖余ってるよ」


 もうやめて差し上げろ!かわいそうだろ!


「露出狂の撃退法って知ってる?『あ、どこかでお会いしましたね』って言うんだよ。相手が自分のことを少しでも知っていると人は途端に弱くなる。自分のことを全く知らないと思っているから人は相手に優位性を感じる」


 マトモが畳みかける。露出狂と並べてやるなとも思ったがまあイイ例えだ。たじろぐ長髪は心なしかさっきより小さく見える。


「音速で体当たり、しないって言ってたけど()()()()んだろ。きみが出来るのは、最速の攻撃じゃなくて最速の移動。スタートとストップしか称号の力は働かない」

 

 ようやくつかめてきた。〈最短〉の真骨頂は説得だ。身体能力は一切変わらないが、「お前には見えないものが見えている」と宣言することで相手を戦意喪失させることができる。称号というより、印籠だ。誰もが殴り合いを想定している称号剥奪戦で、マトモの〈最短〉こそが正解なんじゃないかと思った。


「音速の体当たりなんかしたら粉々になるのは、きみだ」


 マトモが俺以外の人間の目を見たのなんかいつ以来だ。マトモのあんな強い言葉、初めて聞いたぞ。


「プラム、さすがバトル好きを公言するだけあってパワーバランスはちゃんと考えてるね。最速の()()ならオレもミズトも殺されてたけど、移動だけなら何とでもなる」


 わざと外される視線、小馬鹿にした口調。「余裕」なんて言葉からほど遠い奴だったはずなのに、〈最短〉距離で近づきやがった。

 敵は〈最速〉で飛び退ったあと、恐怖を孕んだ目でマトモを見た。息が上がっている。アッパーが脳を揺らすように、ボディが足にくるように、マトモの言葉は心にクる。


「次、飛び込んできたらミズトと一緒に捕まえる。いくら足が速くても、足の爪剥がせば終わりなんだよ」


 何か怖い事言い出したぞ。俺はそんなことに加担しねえからな。言葉責めも爪剥ぎもヒーローがやってイイことじゃねえよ!


「決着付けたいなら付き合うよ。勝っても負けても身体の五割以上の機能は失うと思ってね」


 これは最早勝利宣言だ。痛い目に遭いたくないなら失せろ、を分かりやすく言っている。分かりやすく震えてらっしゃるじゃねーか!


「ハ」


 いや違う。

「ッハハ…………!」


 笑ってやがる。


「喋りすぎたな。今のは完全な短慮(ミス)だ」


 長髪が最初の顔に戻りやがった。マトモの言葉の、何に引っかかったのか分からないが、ヤツは勝利を確信したような顔をしている。マトモが何かボロを出したのか?


「お前、答えを出しただろう。〈最速〉と〈最短〉の勝負の行方を弾きだしたんだろう。負ける未来が見えたから必死に勝負を避けようとしている」


 マトモの表情は俺からは見えないが、「ぎくっ!」という擬音が見えるくらい肩が跳ねたのが分かった。


「気にすんな!やっちまえよ!」


 優勢なのはお前だ!そう発破をかけるも、マトモは動けないでいる。ウソつくの下手だなお前!!ハッタリ合戦仕掛けられてあっさり負けてんじゃねえよ!

 ダメだ、こりゃ。多分頭の中でたらたらし始めちまってる。〈最短〉をもってしても、命を賭けた戦闘の中でのたらたらは処理に時間がかかるらしい。


「〈最短〉も〈最長〉もおれには不要だ」


 〈最速〉の光が翳る。長髪の長い溜息とともに奴から殺気が抜けていった。


「お前たち程度では脅威にもならない。見逃してやるから、きょうは帰れ」

「オレは最後までやってもイイけど。潰された眼球がどれくらいの速度で治るのか見てみたいし」


 何怖いことおっしゃってやがんだマトモさん!


「もっと有用な戦法を思いついたら見せてくれ、そのときに奪ってやる」


 強がりには見えない〈最速〉と、チョキの構えを解かないマトモのにらみ合いは、きっかり一分間だった。


「ふーん。じゃ、そういうことにしといてあげる。明日は体育の実技もあるしね」


 長髪の要求を飲んでやったかのようなセリフを吐いて、マトモは奴に堂々と背を向けた。俺は子分のようにマトモのあとを追い、二人して倉庫の正規の出口から脱出した。外はすっかり日が暮れていた。


「おい、マトモさっき〈最速〉が言ってたことは」

「本当だよ。〈最短〉で答えは出てた。あの状況じゃ勝てないって」


 あのまま戦っていればマトモも俺も消されてた。あっさりとマトモが認めたことに俺は背筋を冷やした。「あいつがもう少し賢かったら負けてたね」と言うマトモの目を見て俺は直感した。

 もう戻らない。昨日まで確かにあった日常も、マトモも。


「どうなるんだ、俺たち」


 称号剥奪戦のデビューは苦いものとなった。今までの喧嘩とは違う命を懸けたバトル。俺は考えなしに戦場へ飛び込んだばかりか、マトモをも巻き込んでしまった。

 暗いことばかりを考えていると、一瞬目の前が明るくなった。


「ね、おなかすいたね」


 マトモが屈託のない笑みでスーパーを指した。そうだ、晩メシが食えるっつーことは今日一日を乗り切ったってことだよな。メシを食おう。食って寝て、細かいことは明日考えりゃいい。今までずっとそうやってきたはずだ。


「久しぶりにオムライス作ってくれよ!その辺のメイドカフェより美味いんだよな!」

「普通にレストランと比べてよ」


 さっきの光は〈最短〉のものだった。不安げなツラしてる俺を見て、マトモが慰め方を考えてくれたのだ。なんてできた親友だよ。俺が落ち込んでる場合じゃねえな。

 そういえばプラムとかいう女、いつの間にか消えてたな。聞きてえこと色々あったんだが。バトルの間しか姿を見せねえのか。

 いや、いいんだ細けえことは。〈最長〉を使って夕方のタイムセール会場に馳せ参じ、〈最短〉距離で地域最安の商品をかき集めていれば、不安の靄なんかどこかへ行ってしまうのだ。



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