ぼく達の防衛ライン
はじめての投稿です。
あまり得意なジャンルではないのですが、チャレンジしてみました。
不馴れな点もあり、読みにくい箇所があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
-ドサッ!
「うぐっ!?…んぁ…」
それは唐突な目覚めだった。突然胸を小突かれたような衝撃を感じ、ベッドの弾みで体が浮いた。
ぼくは、寝起きのふわっとした頭と、さっきの衝撃の余韻に浸りながら、そっとベッド脇のボタンに触れた。
-ピッ。『ジコクハ ゴゼン ロクジデス オハヨウゴザイマス』
電子音と共にデジタル表示の画面が表れ、ぼくに時間を教えてくれた。
ぼくは、まだ寝起きで力が入らない右手を延ばして、虚空に現れた画面に触れる。
「今日は…12月17日…か。あれ、18じゃなかったっけ?…いや…17日でいいのか…」
段々と意識がはっきりしてきた。そう、今日は12月の17日。ぼく達の世界の短くて長い3日間の始まり。
ぼく 2016年 12月17日 天気晴れ
その日、ぼくは学校に遅刻しそうになっていた。変な目覚めかたをしたせいか、中々体が起きてくれなかった。そのせいで10分いつもより時間が推していた。朝ごはんのいい匂いを嗅ぎながら、そそくさと寝癖を直し、制服に着替え、ベッドの上で斜めになっているぼくの友達のエール(ぬいぐるみAIペット)と朝の挨拶…まではよかったんだ。
「今日はデンパ状況がワルいみたいで、AIのデータ更新がしにくいみたい。シュドウでアップデートしてよ。」
「え!?よりによって今なの!?エール、それ帰ってからじゃだめ??」
「ダメだよ。今がいい。アップデートが遅れたらホカノAIペットにすぐばかにされちゃうよ。それはいやだからね。あいつら、すぐチョウシニのるからさ。」
「わかったよ。やれるだけやってみるけど、時間がないから8分間で終わらなかったら諦めてね!」
「リョウカイ!…L256m25シュドウアップデートモードに切り替わります」
L256m25、それがエールの人工知能識別番号。識別番号のまま名前登録する事も可能なんだけど、それは味気ないし呼びにくい。AIペットって言うくらいだし、大半の人達は愛着のわく名前をつけると思う。
デジタル社会科活動が活発になり、学校でも仮想空間を使った職場見学や、職務体験、デジタル技術実践授業などなど…ここ数年で様々な教育プログラムが編成されていった。その反面、デジタル社会反対派クラスとかもできちゃって、学校崩壊してる所もあるとか。
そうやって色々あって、急速に進んだ教育によって生まれた、AI技術者達に開発されたAI…人工知能は様々な試験的取り組みをして成長していった。その1つが、このAIペット。人間の感情を覚える『ココロ回路』が内蔵されている最新型の人工知能だ。
「バカにされるなんて言ってるけど、エールはぬいぐるみを媒体にしてるから自分で動けないじゃないか。他のAIペットにバカにされようがないよ。」
「……アップデート中ですので、シツモンには答えられません。」
「確信犯だな。まあ、もう終わるからいいけど。」
ピピー ピピー
「アップデート完了しました!ココロ回路正常運転中!問題有りません!」
「ふう。これで学校には間に合いそうだ。朝ごはんは食べられないけど。」
ぼくが朝ごはんに未練を残しつつ立ち上がり、鞄の中身を確認して部屋から出ようとした時だった。
「異常周波を確認!異常周波を確認!ハカセ気を付けて!」
「えっ?」
-----ピカッ----ドサドサドサッ
何があった?ぼくがエールの方向に振り向くと同時に、目の前がブラックアウトして、前にぼくが貧血で具合が悪なった時のような、ぐにゃっとした視界の中に一瞬光が差し込んだ。
ぼくは思わず額に左手を当てて、ふらつく体を右手で支えた。
「いてててて。あ~…酔い止めを飲んどいて正解だったよ。でも少し胃が気持ち悪いや…」
聞き覚えのあるような、無いような、でも何だか違和感を感じる声のする方向へ、そっと目を開くと…目の前には、『ぼく』がいた。
「これはどういう事でしょう。ハカセが二人います。顔、身長、体重、血液型、指紋まで一致しています。ねぇハカセ。えっと、寝癖が無い方のハカセ。…大丈夫?」
ぼくは混乱していた。こんな事象、学校でも習ったことがない。研究員の両親からだって、こんな話、こんな、こんな事って…
「あ、あの~まあ、びっくりするよね。最初は僕も驚きすぎて気絶しちゃって。あはは~」
そう言いながら、ぼくに似た存在は、寝癖の残った頭をぽりぽりして…ぽりぽりしてる。なんだ?なんだか妙に気持ち悪い。
「見た目こそハカセだけど、寝癖のハカセは性格が違うみたいだね。しゃべり方もこんなになよっとしてないし。」
「うわぁ~!この世界はぬっぴーがしゃべるんだ!すごいね!!僕の世界のぬっぴーとは色が違うけど、姿は一緒だ!」
『寝癖の僕』がきらきらした目でそう言うと、エールを抱き上げた。まるで、はじめておもちゃを買ってもらった時の子どものようだ。やってる事が幼い。幼いぞ!それにぬっぴーって、名前のセンスがダサイ!もう15歳の行動とは思えない!ましてや姿がぼくなんだから!
「おい!寝癖のやつ!!どうやら君はこの事象について、何か心当たりがあるようだけど、いい加減説明してくれないか?!あと、その全体的に『なよ』っとした雰囲気をどうにかしてくれ!!ぼくの姿なんだから、もう少しシャキッとしろよ!」
ぼくにしては珍しく、感情的になって話している。自覚はあるよ。イライラしているんだ。
「あわっ!ご、ごめんなさい!そっかぁ~この世界のぼくはすごく大人なんだね。羨ましいよ。それに頭も良さそうだね。いいなぁ~」
話が、進まない。頭がピキピキしてきた。こんな感覚生まれてはじめてだ。
「ハカセ。通常モードに切り替えをおすすめするよ。」
ぼくの様子を察したエールがそっと話しかけてくれた。
そうだ、冷静にならなきゃ。どんな事象が起きても、洞察力だけは見失うなって、父さんから言われててた。
-でも、でも、、、
「ぬっぴー、なんでこっちの世界の僕の名前は『ハカセ』なの??成績がいいのかなぁ?というか、僕の部屋の雰囲気も全然違うね!色んな所にボタンがあるよ!ベッドの形もかっこいいね!」
無理だ。どうしても許せない。見てられない。あぁ、父さんごめんなさい。ぼくは冷静沈着な方だと思っていたけど、どうやら違っていたらしい。今のぼくでは、この感情を処理できない。
「どうやらハカセは容量不足に陥ってしまったようだね。仕方ないので、ここからはワタクシがお話を進めていこうと思います。」
「あ、そうなの?あっ!?そうだった!!僕には制限時間があったんだった!あ~失敗しちゃったよ~」
「落ちついて『寝癖のハカセ』!では、時間はあとどれぐらいありますか?」
「1分。」
「「1分!?」」
ぼくとエールの声がぴったり重なった。1分でこの重大な事象をどう説明するつもりなんだ!?
「『寝癖のハカセ』。これだけ答えてください。あなたはどこからやって来たのですか?」
「僕は、、あっ!並行世界からやって来ました!同じ並行世界のボクに頼まれて3日後にくる大気圏、、、世界線がめちゃ、、なんと、、なくなる
------ピカッ-----
またあの感覚がして、空間がぐにゃっとすると、寝癖のあいつはぼくの部屋から居なくなっていた。
「ハカセ。『寝癖のハカセ』が答えていた事、覚えていますか?」
「うん、覚えているよ。それぐらいの冷静さは残っていたみたい。3日後、それまでにこの事象を徹底的に調べあげよう。並行世界…寝癖のあいつは確かにそう言っていた。」
ぼくはその日から、仮病を使って学校を休む事にした。
僕 2016年 12月18日 天気 曇
-ドスッ!バサバサっ
「…いってててぇ~」
我ながらひどい寝相の悪さだ。ベッドから転げ落ちたあげく、近くに積んでおいた本が無惨な姿になっていた。
僕は、ベッドから落ちた痛みに耐えながらゆっくり起き上がる。
「なんか、胃の辺りが気持ち悪いなぁ。昨日菓子パン食べ過ぎちゃったかなぁ?あっ!ぬっぴー!ごめんごめん」
僕と一緒に落ちてしまったのか、散らばった本に埋もれていた僕の友達を慌てて助けた。
少し埃が付いたその顔は、どことなく不機嫌そうに見えた。
「ごめんね、ぬっぴー。あ~あ、また部屋が散らかったよ~。いてて、まだ肘がじんじんする。はぁ~あ、、、、よし!今日1日は掃除しよ。」
今日は土曜日なので明後日まで学校はない。とは言ってもすぐに冬休みだけど。
僕はそんな事を考えながら、埃を払ったぬっぴーをベッドの上に置いた。心なしか満足げだ。
お母さんは…もうとっくに家を出てる時間か。
「また見送りできなかったなぁ。…そうだね、明日こそは早起きしてちゃんと見送ってあげよう!朝ごはんも準備できたらいいな。メニューは…そうだね!ハムエッグにしよう!」
と、ぬっぴーに向かって誓いをたてる僕。もし他の人がこの光景を見ていたら…と思うと少し心がざわつくのでやめておこう。
僕の家は、僕とお母さんの2人暮らし。お父さんとは離婚してるけど、仲が悪いわけてはないらしい。その証拠に、今でも3人で会って食事をしたりする。だから、兄弟もいないし、家ではひとりで居ることが多い。
「そう、あ」
ほらね。また一人で話し出しちゃう。
だけど、ぬいぐるみのぬっぴーとの会話も僕の日課だし、日常だ。全然おかし事じゃない。
僕が幼稚園の時からずっと一緒にいる、大事な友達だ。もちろん、人間の友達もいるけど、僕はあまり話すことが得意じゃないから、友達は少ない方だね。僕にはちょうどいいよ。
「天気が良ければ日向ぼっこできたよね。明日は晴れるかな?晴れたら外にでようか!」
(そうだね。あ、でも洗濯ハサミで挟まないでよね。型崩れしちゃうから)
「そんな事はしないよ~。ちゃんと台の上に乗せてあげるから。」
…僕は決して不思議ちゃんキャラではないよ。これは日常だから。
あれやこれやと、会話をしつつ(ひとりだけど)散らばった本を分類しながら棚に入れている時だった。
ピピピピピッ
「ん?電話だ。誰からだろう?」
机に置いてある携帯の表示を見ると、お母さんからだった。
「どうしたんだろう?忘れ物でもしたのかな?」
ピッ
「お母さん?どうかした?」
「ザザッ-電波が……ザザッだから…ザッ-」
僕が部屋にいる位地が悪いのか、お母さんのいる場所が悪いのかはわからないけど、あまりの雑音の多さに僕は顔をしかめた。
「もしもし!お母さん?聞こえてる?」
「ザーーもし…………もしもし」
微かに声が聞こえはじめた。けど、これはお母さんの声じゃ…ない?誰だ??
「もしもし。聞こえていますか?」
「えっ!?」
やっと聞こえた声は、もう僕の知っている声ではなかった。男の人の声。お父さんでもない、はじめて聞く声。低めで、少し固そうな…大人の人の声だ。お母さんは、お母さんはどうしたんだろう?急に不安になってきた。
「あ、あの、この電話、お母さんのですよね?あの、お母さんは、どこにいるんですか?」
胸が詰まってうまく声が出せない。この男の人は誰?早くお母さんの無事を確かめたい。僕がしっかりしなきゃ。
「なるほど。母上様とお話中でしたか。それは失礼いたしました。私は決して怪しいものではございません。ただ、どうしても『あなた』に伝えなければならない事があり、こちらの電波をお借りしました。」
えっと…話が全く通じない。どういうこと??怪しいものではないって、そのセリフは怪しい人のセリフじゃないの??そもそも、電波を借りるって?電話のことじゃなくて?
「あの、とにかく、お母さんに代わってもらえませんか?代わってもらえないのであれば、あ、警察、警察に連絡しますよ!いいんですか!?」
「…こちらでまだ話ができると言うことは…あなたの母上様は、今も電波状況が悪いなかであなたと話をしているはずです。大丈夫、心配はありません。ただ、この状況が不安定な事に変わりはないので、今の電波を伝って、『こちらの世界』と『あなたの世界』を繋げてしまいます。」
「えっと、、あの、何を言っているんですか?」
本気で何を言っているのだろう?いや、僕もこういう空想めいた設定を作って、色んな話を考えたり、作ったりするのは好きだけど、この人の言っていることはそうではない。
本気だ。本気だからこそ、僕はこの人の事が心配になってきた。だって、こいうのは現実と混じって考えてしまったら、その、人としてダメになってしまうから。ちゃんと、区別して考えないといけないって、僕なりにルールがあるんだ。
「何を言っても、今のあなたには信憑性に欠けてしまうでしょうから。はぁ、やはり、初めからそうしていればよかったんだ。なのに『マスター』ときたら。」
「マスター?」
「今から世界線を繋げます。空間のねじれがあるため、どうかお気をつけて。-プツン」
「えっ!?もしもし!?もしもし!?」
電話が切れてしまった。
「結局お母さんの無事が確かめられなかった。どうしよう…どうしたらいい?僕は…」
途方もない不安で僕は押し潰されそうだった。僕がしっかりしなきゃいけないのに。いつだってそうだ。肝心なときに動けない。自分に自信がなくて、不安で、怖くて、僕一人じゃ何もできない。苦しい…胸が詰まって泣きそうだ。
「あっ、警察に、、電話」
僕は震えながら、声を振り絞って出せる事を確認し、電話のボタンを押そうとした。
-----ピカッ
一瞬、雷のような青白い光に包まれて、僕の部屋がぐにゃぐにゃと…えっ、これは僕の視界がぐにゃぐにゃしてる??なんだ、これ、気持ち悪い。
「うぐっっ」
僕は思わずうめき声を出した。ダメだ、目を閉じよう。見てられない。
思いっきり、力を込めて瞼を閉じた。それでも頭はぐるぐる回転しているような感覚から抜け出せなかった。
「もう…だめ…かも…………」
僕は意識を失った。
「………彼、大丈夫かな?まだ目が覚めないみたいだけど…」
「これは……仕方がない事です。空間のねじれを…直接受けてしまって…」
なんだろう。話し声がする?遠くの…ううん、結構近い気がする。
「ところで、今日は12月の…18日?あー、1日ずれてたかー。」
「不安定な媒体を通じてワープしたので、仕方がないですね。」
だれ?えっと…僕は…
「う、うーん、うぁ…」
僕はゆっくり、もやもやした意識をはっきりさせたくて、体の動かせる部分から力を入れていった。指先が動く。その後は肘、肩、そして、瞼を動かした。
部屋の明かりがすぅっと目に入ってきた。
まだ視界がはっきりしない。早くすっきりさせたくて、動く事が確認できた手で目をこすってみた。
「あっ。ぬっぴー?」
目の前には、僕の心の友、ぬっぴーがいた。どうやら僕はベッドの上にいるらしい。
安心と共に、さっきまでの不安がぶり返した。
「そうだ、警察に…!!」
さっきまでの事を思いだし、全身に力を込めて起き上がると…
「おはよう。『こちらの世界のボク』」
見知らぬ…『ボク』がいた。
「……………………。あ、あの?」
「はい?」
「……………。」
「……………?」
会話が続かない。聞きたいことは山ほどあるはずなのに、言葉が全く出てこない。
冷静に会話しようとしている自分にも驚きだけど、『驚く』事に慣れ始めていた僕は、なぜかこの場の空気が気まずくなってきていた。
「…マスター。このままでは何もできないまま、帰ることになりますが、どうするおつもりで?」
「うーん、そうだねー。何から話を切り出すべきか考えてなかったよ。それに、『彼』も何か話したそうだし。」
「はぁ。だから何度も言ったでしょう!話すことはある程度まとめておいてくださいと!我々が『こちら』に滞在できる時間は限られているんです!」
「まあ、時間が無くなったらウランの力でなんとかなるでしょ?」
「すぐ私の力に頼るのはやめてください。これも無限ではないのですから。」
一連の会話の流れを眺めていた僕は、ある事に気がついて、思わず『彼ら』の会話を遮った。
「あの!」
「……お!質問かい?」
待ってましたと言わんばかりに、こちらを向いている『ボク』。こうしてよく見ると、ドッペルゲンガーなんじゃないかってくらい似てるけど、違う部分もある。なんというかー、雰囲気?こっちの『ボク』の方が少し大人に見えた。お兄ちゃん?みたいな。
「あ、はい。あの、『あなた』は、さっきから誰とお話しているのでしょうか?僕にも声は聞こえるんですけど、そのー、姿が…」
「あー、『これ』だよ。」
『これ』と言って見せてくれたのは、青白い少し濁った光りを放った石?
「マスター!『これ』とはなんですか!こう見えて私にも意志があるんですよ!」
「『い・し』だけに?」
「マスター!!!」
石が強く光った。僕はまじまじと石を見た。握り拳くらいの大きさで、表面がボコボコしている。石というより、岩っぽい?中心部は青白い光がぼぅっと光っていて、小さくなったり、大きくなったりしている。
「あはは!ごめんごめん。うんとね、『彼』はウラン。ボクの相棒だよ。ウランは『隕石流星群』の産物で、生命と同じエネルギー、つまり命を宿した隕石なんだ。しかも、特殊な強い力を持ってる。」
「いんせきりゅうせい??って???」
僕は自分で質問をしておきながら、少し後悔した。とっっても難しい話になりそうな予感がしたから。同時に、質問の内容をもっと考えればよかったとも思った。この人達の世界観に全くついていけない。この人達は僕の知っている環境とは違った所にいたらしい…事までは、なんとなくわかったけど。
「ここからは私が説明しましょう。マスターの話は大雑把すぎるんで。」
「えー。だって色々説明するの面倒だろ?細かいことは後で補足していけば、、」
「それでは我々がここまで来た意味がないでしょう!」
…なんだか夫婦漫才みたい。僕がぼけっと二人のやり取りを見ていると、ウランがぼぅっと光った。
「…失礼しました。話を進めます。まず、我々はこちらとは違う世界からやってきました。
まあ、その辺は薄々は感じているでしょうけど。並行世界とういう言葉は知っていますか?」
並行世界…
「えーと、もしもの世界、、、だったよね?例えば、僕がお腹を空かせてリンゴを食べると、その時点で、『僕がリンゴを食べなかった世界』が発生する…みたいな?」
「そうですね。大まかに言えばそういう事です。同じ時間軸で無数に広がる別の世界。我々はそこから、あなたの世界に、あなたに会いに来ました。」
やっぱり難しい話だった。でもこれはすごい事だ。僕は無意識の内に笑顔になっていたらしく、違う世界の『ボク』がそれを見てにやっとしている。
「どうやら、君はこういう話が好きみたいだね。ボクと一緒。」
嫌いなわけがない。むしろ憧れてた。
なんの変鉄もないただの日常の中に、見方を変えれば不思議な世界があるかもしれない。明日目が覚めたら、超能力が使えるようになって、ぬっぴーと話せるかもしれない。そう考えるだけで、心が踊って、何の色の無い世界に見たことの無い色を塗ることができる。すごくわくわくしない?そういうの!
「あなた達はどんな世界から来たんですか?」
「我々の世界は…あまり時間が無いので簡単にまとめると、文明が退化した世界です。」
「えっ!?今よりも!?」
「ええ。先程言っていた、『隕石流星群』の影響です。昔、シベリアやメキシコ等で相次いだ隕石の衝突…それと同等の影響力を持った隕石が、日本だけではなく、世界的に降り注ぎ、大きな被害をもたらしました。」
ウランによると、その隕石には未知のエネルギーがあり、世界規模で隕石の研究が進められたそうだ。
その結果、隕石のエネルギーを生活に活用できるまでになったらしく、最終的には隕石との共存社会を目指しているとか。
もっと詳しく聞きたかったけど、これ以上は時間が無くて話せないと言われてしまった。
「さて、我々の世界の事はこの辺までとして、ここからが本題です。実は、もうすぐこの『並行世界の秩序』が乱れ、それぞれの世界線に影響してしまうのです。」
「えっ?えーと、そ、それはどういうこと??」
「うーん、例えば、今ボク達がこの部屋から外に出るためにそこの扉を開くとする。すると、その先がいきなり崖になっていたり、滝に繋がっていたりするんだよ。時空の歪みが大きくなれば、そうだねー、布団から足を出した先がブラックホールになっていて、片足突っ込んだ状態で寝てる事になるかもしれないね。そんなのが毎日続いたら生きた心地がしないよ。」
ぼんやりと、どんな事態になるのかはわかったけれど、現実感は全く無い。
そんな世界も楽しそうだと、心のどこかで思ってしまうくらいだ。
というか、例えが全部物騒なものすぎるような……
でも、今目の前で起きていることは現実だ。たぶん、現実だよね?
「我々はなんとかしてこの事態を食い止めたいと思い、他の世界線に存在しているもう一人の自分達に会い、協力して世界線を守ろうと考えたのです。」
「そもそもボク達にこの事を教えてくれたのも、他の世界線の子だったからねぇ。」
他の世界線…そうか、無数に世界が存在するなら、他にも『僕』はいるんだ。
「そして次は、、、君の番だよ。」
「えっ??」
「先ほども言いましたが、我々の目的は『他の世界線の自分達』と協力して、自分達の世界線を守ることです。まずは、どんな些細な事でもいいので、情報を集めたいのです。最終的には、あなたにも他の世界に行ってもらう事になります。」
僕が、他の世界に??ものすごく、これまで以上に現実味がない言葉だけど…なんだろう?すごく胸がざわざわしている。
僕がずっと憧れていた、小説やアニメにしか無いような設定が、現実に現れた。
鳥肌って言うのかな?体の内側からぞわぞわと、何かが這い出るような感覚。
次の瞬間には僕は興奮ぎみに返事をしていた。
「やる!!僕やるよ!!!」
ボク 2016年 12月19日 天気 雨
激しい雨音でボクは目を覚ました。
「んんー、ふぁ~。今日も、、雨か。」
簡易ベッドの上で思い切り伸びをして、ちらっと窓の外を見た。
大粒の雨が止めどなく降り注いでいる。ゆっくり体を起こして、外の景色を確認すると、地面が沼のようになっていて、ボクの家の真向かいにある自慢の畑が、見るも無惨な状態になっていた。
「あ~あ、大根植えたばっかりだったのに。困ったな。」
「マスター、言葉にあまり危機感を感じ取れません。事態はマスターが考えてるよりも、かなり深刻ですよ。」
「え?危機感は感じてるよ?この地区で唯一の生命線は『自給自足』だからねぇ。まぁ、畑がダメなら何か別の手段を考えればいいだけさね。」
「…本当に大丈夫ですか?別の手段と言っても、そんなに簡単にはいかないと思いますよ?」
隕石の落下で、それまで発展していた文明が一気に失われて数年。人間の底力はすごいもので、早く世界を復興されるために、それぞれの国で新しい文明がぽんぽん発達していった。
そんな時でも、日本が世界から少し遅れているのは変わらないみたいで、世界が隕石のエネルギーに注目する中、ボクが今住んでいる地区のように、まずは人間の基本に戻り、『自給自足』を根付かせようとしている所はまだまだ多い。これ自体が悪いわけじゃないけど、もう少し頭をやわらかくして、頼れる物には頼っといた方がいいんじゃない?っていうのがボクの意見だ。
「雨が降って今日で3日目です。しかも、今日の降り具合が一番激しい。家の中まで浸水する可能性もあります。必要な物はまとめておいた方がよろしいかと。」
ぼぅっと、青白く発光しながらお堅い口調でしゃべっているこの『石』、名前はウラン。ボクの相棒だ。
ウランは隕石流星群の1つで、生命エネルギーを宿した特異隕石と呼ばれている。
この『災害』で家族を失ったボクにとって、敵でもあるし、最大の味方でもある。何とも言いがたい関係性だけど、それなりにお互いを認めている。だから一緒に暮らせてるのかな?
ウランとの出会いは…ってなると長話になるからそこはカット。
「しかしよく降るよねぇ。梅雨でもないのにさ。隕石落下で温暖化が止まったと思ったら別の異常気象か?なんだかなぁ、悩みは尽きないね。」
「マスター、それについては私も疑問に思うことがあります。」
「ん?どんなこと?」
ボクは、避難用の鞄を用意しながら話を聞いた。
「雨が降り始めた3日前、あの日は確かに晴れていました。それなのに、何の前触れもまく、突如雨雲が現れたのです。あの時私は、雨になる前の気圧の変化を感じませんでした。その瞬間までは、ずっと一定の気圧を保っていたのです。」
「うーん、なるほどね。ウランの言う通り、あの日の天気の変化は確かにおかしかったね。ボクもあの時は…そうそう、毛布を干そうと思って、物干し竿を探しに倉庫に行ってたんだ。そしたら外から雨音がして…」
時間にしてほんの数分程度。晴天に近い天気だったのに、次に外に出た時には、すっかり雨雲に覆われてパラパラと雨が降りだしていた。
狐につままれた…って昔の言葉を思い出したよ。
「これを異常気象と呼ぶには…これは正に、『異常』です。異常な事態ですよ。説明がつかない。」
「ふーん、ウランにしては珍しく狼狽えてる様子だね。」
「……私もこういった感じを受ける事がはじめてなので、何とも表現しがたいのですが、この世界は不安定な状態であると、思われます。」
つまり、ウランは不安に感じていると言うことか。
科学的に説明がつかない存在(研究中)が、科学的に説明がつかない現象に不安を感じている…ちょっとおもしろいな。
そう考えてたら、頭の中がウズウズしてきた。久しぶりの感覚だ。ボクは思わずニヤリとした。
「ねぇウラン、ちょっとこの異常気象、調べてみたらおもしろそうじゃない?」
ボクのこの一言で、ウランは全てを悟ってくれた。
「やはり…この話をすればそうなると思っていました。その探求心は尊敬しますが、あまり無茶はしないでくださいね。それと、途中で『飽きた』なんて言うのも無しですよ?」
熱しやすくて冷めやすい、ボクの本質をよくわかってるね、さすが。
熱中してしまうと、寝ることも忘れて、興味がある事に没頭してしてしまう。ただし、思ったような結果にならなかったり、同じことの繰り返しになると途端に飽きてしまうんだ。
「善は急げと言うことで!まずはこの雨を採取して、成分を分析しよう!」
「私の力を使って、でしょう?」
「しょうがないだろう?研究キッドはこの前の『化石っぽい石』の研究で使いきっちゃったんだから。今回はつまらないけど、ウランに任せるしかないんだ。」
「つまらないって。マスター、少しは…」
またウランの小言が始まろうとしていた時だった。
「マスター!時空に歪みをかんじ…」
---ピカッ----
「!?」
ウランが全て言い終わる前に、今まで感じたことの無い光が目に入った。ボクは思わず強く目を閉じた。
「マスター!!!」
ウランの光が強く、そして大きくなり、ボクを包み込んだ。防御壁を張ってくれたのだ。
ボクはそれを肌で感じとり、ゆっくり目を開いてみた。
「えーと、これはまた、おもしろい事になったね、ウラン。」
そういえば、朝起きた時のままだったと、唐突に思い出しながら頭をポリポリとかいて、目の前で起きていることを、ボクは整理しようとした。
「マスターが、増えた?」
そう、もう一人のボクがいたんだ。
「うぅ…もう少し空間酔いが抑えられれば最高のタイムマシンだったのに。さすがに製作期間が短すぎたか。」
「でもハカセ、なんとか無事にたどり着きましたよ。見てください!目の前に別のハカセがいますよ!」
しゃべる妙な人形を引き連れた、自分にそっくりの人間…なのか?が、話している。ボクの目の前で。今、ボクの感情は『無』だ。何も感じない、感じている余裕が無い。だからこそ、変に冷静だ。
ボクはその異質な存在達に話しかけようとしているのだから。
「まず、君達?ボクの言葉は通じるかな?」
とりあえず、言語の確認はしたかった。もし言葉が通じないとなると色々とやる事は増える。紙とペンを用意するか?あ、そもそもウランに頼めば…ウランも謎が多いからな。どこまでの言語を知っているのか確かめる必要がある。
「日本語だよね?大丈夫、ぼく達の世界も同じだよ。同じ日本…ではないかもしれないけど、言語はとりあえず同じだ。」
うん、わかった。この子頭いいね。そしてちょっとプライドが高そうだ。
友達少ないだろうなぁ、その辺もボクと似てる。
「うん、コミュニケーションがとれる相手で安心した。えーと、いくら空気が読めるボクでも、さすがにこの状況は察することが難しいよね。ってことで、簡単に説明してくれないかな?」
「…どちらかと言うと、マスターは空気を読まずに壊していくタイプだと思っていました。」
ウランが何かぽほっと言ったみたいだけど、今回は流そう。そっちに突っ込んでいる場合じゃないからね。
「ワタクシ達は別の世界線からやってきました。別の世界線、つまり、並行世界で生きる『あなた達』です。協力してほしい事があり、この世界線のあなた達に会いに来ました。」
別の世界線の『あなた達』って…もしかして、別の世界でのウランって、この間抜けな人形なのか?
やばい…それはかなりおもしろい。ボクは必死に込み上げる笑いを堪えた。
「……………。」
やめろウラン!その沈黙はやめてくれ!心中察するけど、おもしろすぎるって!
ボクが色々と必死になっているのを感じ取ったのか、ウランが少し、声を震わせながら話し出した。
「……この世界の我々に会いに来た、と言っていましたが、無数にあると言われている並行世界の中で、我々を選んだという事でしょうか?」
「そうだよ。ぼく達は、君達を選んで会いに来たんだ。もちろん、ちゃんと理由がある。ぼく達がこちらの世界に留まれる時間が限られてるから、少し急ぎ足で説明するけど、補足はしっかりと用意してあるから。後で確認して。」
そう言うと、目の前の自分が、鞄から巾着を取りだしボクに渡してきた。
「今、ワタクシ達の世界だけではなく、並行世界に生きる全ての人達にとって大変な事が起きようとしています。」
「大変な事?」
「はい。それは、時限が大きく歪み崩れる現象です。発生源、場所はまだ特定できていないのですが、発生時期は『2016年、12月 17・18・19日』この3日間の間で起こっていると特定できました。時限が歪めば、ワタクシ達のお互いの世界の秩序が保てたくなります。空間が切り替わる毎に別の世界へ飛ばされ、自分達の世界と切り離されてしまう可能性もあります。」
…話が急に壮大だな。
「うーん、それって…今の生活がまるっと奪われるって事だよね?それは困ったな。楽ではないけど、それなりにこの生活は楽しいのに。」
「あなた達の事情はわかりました。いや、この事実を知ったからには我々の問題でもあります。しかし、疑問なのは、なぜあなた達は我々の世界を選んだのですか?わざわざ選んで来たからには…それ相応の理由があるはずです。」
うん、確かに。ボクもその辺は引っ掛かってた。
行きたい並行世界を選べるって時点で、『この子達』がものすごく文明が発達している世界から来たことはわかった。けどなぜ、その逆を行くボク達の世界に来たのか。
そして、『石』としゃべってる事になんの疑問も抱かないのか。もうちょっとリアクション欲しかったよね。
「こっちの世界の相方は、なかなか賢そうでよかった。そう、理由がある。ぼく達の世界では並行世界の研究が進んでいてね、少しずつだけど、世界線を数値で観察できるまでにはなったんだ。それで、その装置を使って時限の歪みに繋がりそうな異変、異常数値を探してみると、ある2つの世界線で高い異常数値が確認されたんだ。」
「その世界が、我々の世界だった…わけですか?」
「そうだよ。ここ数日で何か変わったことが起こらなかった?」
変わった事と言えば、
「「雨」」
ウランと声が揃ってしまった。そう、この雨だ。間違いなく、この世界で今、異常な出来事だ。
「こちらでは、3日間、連続して雨が降っています。しかも、雨は日に日に強く降り続いています。振り出しかたも異常だった。突然、雨雲がその場に現れたような天気の変化で…」
「その場に現れる、、、ねぇウラン、今のって結構大事な証言じゃない?」
「そうです!そうですよ!もしかしたら、我々の世界ではもう異変が起きているかもしれない!この雨の原因である雨雲が、歪んだ時限から来たものだとしたら…」
そう、この雨雲は他の世界から来たとしたら、ボク達の世界線は、時限の歪みに他の世界線ともうくっついてる可能性がある。
「ハカセ!ゲートが閉じるまで後3分!」
突然、今まで冷静に話していた間抜けな人形の口調が変わった。
「本当に時間がないね。とりあえず、重大な情報を手に入れる事はできたよ。ありがとう。後は君達に任せる!君達は今すぐ、もう1つの世界に行ってもらいたいんだ。並行世界の秩序を保つために、世界線を渡るにはある程度のルールがある。それにより、ぼく達の行動は制限される。渡した巾着の中に、簡易タイムマシンとメモがあるから、それに従ってね!」
「ハカセ!そろそろ行かないと!」
「わかってる。それじゃ、任せたからね!これは『ぼく達』にしかできない事なんだ!」
-----ピカッ------
………これまでの出来事が嘘のように、しんと静まり返ったボクの部屋には、雨音だけが激しく鳴り響いていた。
「ねぇ、ウラン。これ、現実でいいんだよね?」
「マスター、今手にしている巾着の中身を確認しましょう。それで現実かどうか確かめられるはずです。」
ボクは巾着を開いて中身を確認した。
そこには、何枚かにまとめられたメモと、手のひらに収まるサイズの、見たことがない機械が2つ入っていた。
-ぼく達の世界線の異常について まとめメモ-
並行世界に生きる全てのぼくへ。
今、世界は大変な事になろうとしている。色んな世界線が自分達の世界と繋がり、時間軸、世界観、全てがごちゃ混ぜになった、混沌とした世界になってしまうかもしれない。
並行世界の自分に干渉しすぎると、何が起こるかわからない。下手したら自分の存在が消えてしまう恐れもある。
これは全世界を巻き込んだ戦いになる。こういうの、ぼくだったら好きでしょ?
追記
どうやら、失敗すると時間が戻されて、この事態を知らされる場面からやり直しみたいだ。記憶もリセットされるらしい。このメモ作戦はよかったね!さすがぼく。
同じ内容のメモを複数用意した。これを別世界の『ぼく』に渡せばいい補足になると思う。
まとめた情報は別のメモに記載。これも複数用意しておく。
新たにわかったこと
・時限の歪みがある場所は2つ
・1つは、世界線と別の世界線がすでに干渉しはじめていた(12月19日)
・もう1つの世界は…認めたくないけど、『ぼく』がポンコツすぎた
ハカセくん、そんな『ポンコツくん』について、少し気になる事があるんだ。
彼の強い、そう、強い想像力についてだよ。
ウランが彼の力に気がついたんだ。思念で空気を動かしてるって
ぼく 2016年 12月18日 天気 曇
ぼくは、前回のぼくが残したメモの最後の部分に頭を悩ませていた。
「恐らくこの部分のメモは、ぼく達がこれから行こうとしている世界の『ぼく』が残したものだ。ということは、ぼく達が今やろうとしている選択は間違ってないと言えるだろう。」
「この『ポンコツくん』っていうのが寝癖のハカセの事かな??だとすると、二人は無事に接触して、寝癖のハカセとハカセがうまく会えたってことになるよね??」
「若干、混乱する説明だけど、そういうことになるね。けど、ぼくが今重要視しているのはそこじゃないんだ。」
-ハカセくん、そんな『ポンコツくん』について、少し気になる事があるんだ。
彼の強い、そう、強い想像力についてだよ。
ウランが彼の力に気がついたんだ。思念で空気を動かしてるって-
………思念で空気を動かすってなんだよ。目に見えない力を具現化できるって事か?あいつが?そんなの科学的に可能なのか?可能だったとしても、あいつがそういう仕組みを理解してるとは思えない。理解して、、、ない?無意識的にやっている事、、、
「うーーーーんぁーーー!くそっ!なんだよ、なんなんだよーーー!」
ぼくは、この何かがつっかえている感じが嫌で、衝動的に頭をかきむしってみた。
「あー、ハカセ、そんなに頭皮を痛め付けたら髪に悪いよー。もう少しリラックスして。」
「余計なお世話だ!!!」
エールの軽めのボケに突っ込んでる余裕は今のぼくには無い。皆無だ。
もう少し、何かヒントがあればスッキリできそうなのに、これ以上の手がかりが残されていなかった。
「ハカセ、考えるのもいいけど、そろそろ世界線に飛ぶ準備をしないと。ゲートを開くタイミングは今日しかないんだから。」
そうだ。ぼく達はこれから、この悩ましいメモを残した『ボク』がいる世界へ行く計画だ。メモによると、今から行く世界ではもう異変が起きているらしいから、より慎重にならなければならない。
けど、ぼくはなんとなく感じていたんだ。このまま進めば今回も失敗する。
失敗しても、このメモがあるからヒントが増えるかもしれないけど、それはぼくのプライドが許せない。だって、そんなの最初から諦めているのと一緒だ。そんなの嫌だ。
「もう少し、もう少し考えたい。」
想像力、思念、強く念じる、、、強い想い、、、世界を想像する…
あ、きた。きたきたきたきた!そうか!やった!乗り越えた!ぼくはこの試練を乗り越えたぞ!
「エール!わかった!わかったよ!並行世界のルールだ!どこかの論文で書いてあった!『今はいない相手のことや、別の世界の自分を少し考えている時に、並行世界は現れる』って!」
「それがどう寝癖のハカセと繋がるの?」
「つまり、あいつは強く想いすぎてるんだ!もしも別の世界があったら…もしも自分にこんな能力があったら…とか、そういう『想像の世界』への憧れが強くて、いつの間にか時限を歪ませる力を手にしていて、いつの間にか他の世界線に干渉していたんだよ!」
自分で言っていて、なんて非科学的なんだろうかと思うけど、なぜだかぼくは、絶対の自信を持っていた。これしかない、答えはこれだ!
「ハカセにしては珍しい仮説だと思うけど、ハカセが言うならきっとそうなんだね。別の世界とはいえ、自分のことだしね。だから、今の仮説にも妙な説得力があったんだよ。」
そう、あの『ポンコツくん』は認めたくないけど自分自身だ。性格は全く違うけど、根本的な部分は繋がってる。ぼくの好きな科学技術だって、元をたどれば、憧れから始まってるんだ。
ぼくは、並行世界研究員の両親に憧れ、両親の仕事を手伝いたくて猛勉強している最中だ。勉強は難しいし、継続的な実験や研究を続けるための体力維持も重要だ。
憧れだけではやっていけない厳しい道。だけど、本当に強い憧れは人を行動に移させるんだ。
-あいつは、それを知っているのかな?-
-彼は、それを知っているのかな?-
「!?」
「どうしたの?ハカセ?」
「あ、いや、なんでもない。」
今、誰かと共感した…ような気がする。
けれど、不思議と不安はない。大丈夫、今回は大丈夫だ。
「教えてやろう。世界はこんなに楽しめるってこと。」
僕 2016年 12月17日 天気 晴れ
-ドスッ!バサバサっ
「…いってててぇ~」
我ながらひどい寝相の悪さだ。ベッドから転げ落ちたあげく、近くに積んでおいた本が無惨な姿になっていた。
僕は、ベッドから落ちた痛みに耐えながらゆっくり起き上がる。
あれ?なんか、前にも同じこと、なかったっけ??もしかして、同じ日をループしてるとか!
「……なぁんて、そんなわけないか。」
今何時だろう?時計の時刻を見て、唖然とした。
「は、8時20分!?」
いくら朝が弱い僕でも、平日で、しかも学校がある日に、こんな大寝坊した事なんてない!
夜更かしした訳でもないのにー!どうしよう、学校…
「…………遅れて行くの、嫌だな。」
絶対にみんなの注目の的になること間違いなし。僕はそんな注目のされ方は嫌だった。だから学校には必ず早めに着くようにしてるんだ。早めっていっても、一番とかじゃなくて、クラスの半分くらいが揃いはじめる時間帯に合わせてね。学校では極力存在を消していたいから。
僕は、目立ちたくないだけ。
「ぬっぴー、僕、学校休んでいい?」
いつものように、ぬっぴーとのやり取りを始めようとした時だった。
「あまりお勧めできませんが、今回はいいでしょう。我々としても、こちらに残ってもらった方が都合がいいので。」
………………。
「えっ!??ぬ、ぬっぴー!?」
「はい?」
しゃべっている。僕が腹話術をしているわけではないのに、ぬっぴーが勝手にしゃべっている。というか、想像していたぬっぴーよりかなり大人モードなんだけど!?
「正確には、私は『ぬっぴー』ではありません。事情があり、こちらの媒体をお借りしているだけであって、私の名前は、」
「はいはい、そこはあまり重要な事じゃないから、さらっと流していこうねぇ。」
ぬっぴーから、また別の声が聞こえた。
僕は、すごく典型的だけど、自分のほっぺたをつねった。……痛い。夢じゃない、夢じゃないぞ!
-----ピカッ------
「うっ!?!」
突然、まばゆい光に包まれたと思ったら、視界がぐにゃっと曲がってきた。
なにこれ、気持ち悪い。
僕は耐えきれなくて、尻餅をついた。
「やっぱり、もう少しタイムマシンの精度を上げないとダメだ。視覚的認識レベルをもう少し調整する必要があるな。」
「ハカセ、とりあえず『寝癖のハカセ』、じゃなくて、『寝坊のハカセ』に挨拶しないと。」
「うん、まぁ、こいつが目を覚ましたらね。」
僕は気を失っていた。
---「お母さん?どうかした?」
「ザザッ-電波が……ザザッだから…ザッ-」---
---「もしもし。聞こえていますか?」
「今から世界線を繋げます。空間のねじれがあるため、どうかお気をつけて。-プツン」--
---「いてててて。あ~…酔い止めを飲んどいて正解だったよ。でも少し胃が気持ち悪いや…」---
---「うわぁ~!この世界はぬっぴーがしゃべるんだ!すごいね!!僕の世界のぬっぴーとは色が違うけど、姿は一緒だ!」---
--「やる!!僕やるよ!!!」--
「………!?!」
僕は、はっとして目が覚めた。とても、とても長い夢を見ている気分だった。
壮大なストーリー、夢の世界。ずっと憧れてた、僕の、、、
「現実だ!」
「えっ!?」
反射的に声を出してしまった。
目の前にいるのはもう一人の『ぼく』。あれ?なんか、見覚えあるような気がする。
「これは現実だ。説明するのも面倒だ。思い出せ!自力で!」
「…マスター、『ハカセくん』はマスター以上に他人に厳しい人のようですね。」
「ただの他人だったらここまでしないよ。ここで言う『他人』はボク達のこと。自分自身のことだから、厳しくなれるんだろうねぇ。ボクも気持ちはよくわかるよ。できない子ほど、愛でたくなるもんだ。」
ぬっぴーを通じて、恐らく二人の会話が聞こえてくる。
「『寝坊のハカセ』がんばって思い出して!ワタクシ達は出会っているんですよ!しかも何度も!これは重要な事です!ルール上ぎりぎりのラインです!これ以上のヒントは与えられません!」
ぬっぴー?のような、ぬいぐるみも僕に話しかけ始めた。でもどういうわけか、微かに覚えがある。
うーん、なんだろう?うーーーーーん
「あっ!?」
思い出した!唐突に、本当に、思い出した!
走馬灯のようにこれまでの出来事がひゅんひゅん頭を飛び交ってる。す、すごい、アドレナリンが沸き上がってるみたいだ。
「世界は!?今世界はどうなってるの!?」
「自力で記憶を呼び起こしましたね。これで、あの時の『ハカセくん』に我々は接触した事になります。」
「ひとつ、手間を省く事ができたねぇ。よかった。」
ぬっぴーから発せられている声の主、それは僕に並行世界の異変を教えてくれた『ボク』とウランだ。
そして、目の前にいるのは、僕が異変を伝えに行った『ぼく』とエール。すごい、3つの世界線の『僕』が揃い踏みだ。
「よく聞けよ、ポンコツ。世界線の異変の原因をぼく達はやっとつかんだ。それは、お前だよ、『ポンコツ』。」
「えっ………えっ!?ぼ、僕!?」
「『寝坊のハカセ』。あなたは自分でも知らないうちに、時空に影響するほどのエネルギーを溜め込む力を持ってしまったんです。恐らく、あなたの性格が強く影響して起きた現象だと思います。」
「ぼ、僕の性格?」
「『ポンコツくん』、君は自分に自信がなく、常に日陰の存在である事を望むようになった。本当は違うのに、自分の感情を閉じ込めて、自分の中だけで、本当は表現したい欲求を解消しようとしていたんだ。」
「ぼ、僕は、うん。そうだね。」
「………お前は、無意識のうちに望みはじめてたんだ。今の世界より楽しい、もしもの世界があれば、自分は変われるって。今よりもっと、自信に満ち溢れた自分になれるって。わかったような口を聞くなって顔してるけど、わかるに決まってるだろ?『ぼく』のことなんだから。」
………………。僕、今そんな顔してるんだ。気を付けなきゃ。
「その強い想いが、世界線がある宇宙空間に大規模な歪みを生じさせたんだ。他の世界を強く想い描く事で、それまで保っていた並行世界のバランスが崩れた。空間が変わる度に世界が変わる、正に混沌だよ。」
………………。
「『ポンコツくん』、これが本当に君が望んでいた結果なのかな?本当に?これでいいのかい??」
僕が、望むこと。
「『寝坊のハカセ』、ワタクシ達は『寝坊のハカセ』の事、好きですよ。あまり、深く関わったわけではないけど、ワタクシ達は世界を越えた友達です。」
ともだち。
「我々は、通常なら、並行世界の秩序には逆らえません。しかし、今回は異例でした。大事な使命がありました。自分達の世界を、自分達で守るとういう使命です。この使命が達成されれば、今回のような事は二度と起きないでしょう。ですが、悲観的にならないでください。あなたの世界にも、先の未来は無数にあります。」
使命………。
「どうする事が、使命達成になるの?僕が原因なんでしょう?どうしたら…」
「-はぁ。お前、自分の夢のために努力したことあるか?もしくは、自分を突き動かすほどの夢を持ったことはあるか?今の世界で。」
夢。僕の夢?
----「僕の夢はね、僕の夢は----
「うぅぅっ、うっ、、」
僕は気がつくと泣いていた。ずっと圧し殺していた感情が込み上げて、もう止まらなかった。いや、止めたくなかった。
「ぼ、僕、僕はっ、ひっ、、、ずっと、小説を…ひっ、僕の物語…書きたくて………ひっ、、、、う……でも、自信がなくて、僕には無理だって……笑われるのが、怖くて…」
我ながら情けない。小学生みたい嗚咽を漏らして泣いている。でももういいんだ。全部、全部、隠さなくていいんだ。
「嫌いなんだ!自分が!こんな弱くて、なよなよしてて、頼りない自分が!!!だから、だから夢なんて、叶いこないって」
「……………。やってみればいいだろ。やらなきゃわからないだろ。何もしないで、最初から捨てるなよ!そんな夢なら-」
「ハカセ!!!!」
「………っ、悪い。」
「うん、冷静にね。けど、もう時間がない。『ポンコツくん』、ボク達にできる事は全てやったよ。あとは、君次第だ。君がこの世界を捨てる選択をすれば、もう一回、ボク達はこの時間をループする。君がこの世界を望む選択をすれば、この世界線での戦いは終わりだ。みんなそれぞれの現実に帰って行くだけ。ボク達はどっちでもいいよ。どっちにいたとしても、強く生きる自信はあるからね。」
「………選択に正解はありません。だから人生はおもしろい、と誰かが言っていましたっけ。」
「ほーう、良いこと言うねぇ、その人。」
「『寝坊のハカセ』。ハカセはこう見えて、とっても優しいんだ。友人のためなら自分の身を削って戦える人なんだよ。少しひねくれてるけど、本当はさみしがりやで、努力家で。」
「やめろ、エール。」
「これまで、結構キツイ事を言ってきたけど、『寝坊のハカセ』のことを真剣に考えているからこそなんだよ。愛のムチだね。」
「やめろ!気持ち悪いな!…………、お前、動いてみろよ。このまま終わるの、悔しいだろ。」
みんな、矢継ぎ早に言いたいこと言い過ぎ。僕は聖徳太子じゃないから、そんなに一気に話聞けないよ。
-ねぇ、ぬっぴー、僕決めたよ。ぬっぴーは応援してくれる?
------ピカッ-------
-ドサッ!
「うぐっ!?…んぁ…」
-ドスッ!バサバサっ
「…いってててぇ~」
「んんー、ふぁ~。今日も、、雨、か?」
-ぼくたちのせかいがはじまる-
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また機会があれば、作品を投稿してみたいと思います。