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螢の小夜曲 *奏姫*  作者: 如月 宙(そら)
・:*+.月下美人の奏姫.+*:・
4/34

4、贈り物

藍花にとって、思いがけない文でした。





(から)になった葛湯(くずゆ)(わん)を受け取った美月に、追い立てられる様にして望美も部屋を後にした。



双子のおかげで心も体も温まり、頭痛もほとんど(おさま)っている。



望美が持ってきてくれた(ふみ)の差出人に心当たりは無いが、上質の半紙で宛名も無い。

わざわざ家の使いの者が、直接届けに来たのだろう。



ハタハタと畳まれた文を広げると、そこには見覚えのある懐かしい文字。








****



ーーー拝啓、(ほたる)様。



まず、返事が遅れた言い訳を書かせて頂戴(ちょうだい)。先に千亀(かずき)様の手に渡ったせいなの。


遅くなって、本当にごめんなさい。



好奇心に負けたからといって、勝手に中を改めるのはどうかと思わない?



文の内容が娘達の事だったものだから、"千鶴が泣くかもしれない"と渡すのを躊躇(ためら)ったり。少しでも暇を見つけては、1人で何度も読み返したりしたそうよ。



螢が書いてくれた、私宛の文なのにね。




最近になって、"仕事中なのに(うわ)(そら)で困る"と店の子が教えてくれて。

問い詰めたら、半年以上も前に届いた私宛の文がある、って言うじゃない!



貴女への()びの品が出来るまでの七日間。初めて千亀(かずき)様と口を利かずに過ごしたら、だいぶ(こた)えていたの。


どうか、それで許してね。



螢の(そば)で娘達が(すこ)やかに成長していてくれた事、とても嬉しいわ。

望美と美月の事、教えてくれて有難(ありがと)う。




怪我や(やまい)(かか)ってないか、華苑(カエン)で上手くやっているのか、離れていても心配事は尽きなかった。




二人が花娘として表に出るまでの辛抱(しんぼう)だと、自分に言い聞かせて過ごしてきたけれど。

貴女のおかげで、今からでも親らしい事が出来ると気づく事ができたの。



娘達にも花街の外の生活や、私達の事を知ってもらいたいと思うのは、親の我儘(わがまま)かしら?




千亀(かずき)様は娘達に似合いそうな、意匠(いしょう)()った(かんざし)蒔絵櫛(まきえぐし)を山のように仕入れていたけれど、あれはもう職業病ね。



あの子達の年頃で、高価な装飾品はまだ早い。無くしたり、盗られる事もあるかもしれないでしょう?



だから匿名(とくめい)で、姉妹で(そろ)いの振袖を新調(しんちょう)する事にしたの。気に入ってもらえるといいのだけれど………






*****






夢中になって、柔らかな細文字を目で追っていた。

あの千鶴姉様が、千亀(かずき)様と夫婦喧嘩しただなんて信じられない。




ようやく娘達の晴れ着が一揃(ひとそろ)い仕上がり、華苑に贈り届けたとの(しら)せを受けこの文を使いの者に持たせた、とも記されていた。






ーーああ、早速2人が着ていた。


振袖に始まり、半衿(はんえり)に、重ね(えり)。帯、帯揚(おびあ)げ、帯締め…全て千鶴姉様の見立てを自分は堪能(たんのう)していたのか。





自己満足の懺悔(ざんげ)の文のように思っていたけれど。あの時、筆をとって良かったのだ。



千鶴姉様達に、喜んでもらえた。

二人の仲睦(なかむつ)まじさも、あの頃と変わっていないよう。






文には薄い二重(ふたえ)和紙(わし)に包まれた、黒漆塗(くろうるしぬ)りの(くし)が添えられていた。



流水紋(りゅうすいもん)白菊(しらぎく)螺鈿細工(らでんざいく)は、見る角度によって瑠璃(るり)翠玉(すいぎょく)のように輝く逸品(いっぴん)




本当に受け取っていいのかしら?



わざわざ贔屓(ひいき)の職人に頼んだにしろ、七日で仕上がる品ではないはず。

千亀(かずき)様の狼狽(ろうばい)ぶりに、職人達が工房で徹夜してくれたのかもしれない。




二人には、振袖の贈り主を明かそう。



"母の話を聞けた"と望美は嬉しそうにしていたから、両親の話をしてもきっと大丈夫。



私も髪結い師に頼んで、明日からこの櫛を身に付けてーー。



つい、ウトウトと船を漕いでしまった。今なら深く眠れそうだった。





美しい櫛は再び和紙に包み、小箪笥(こたんす)の引き出しへ。

文の続きは起きた時の楽しみにして、水仙(すいせん)の描かれた文箱(ふばこ)へ。





紫紺(しこん)の髪がふわりと(しとね)に広がる。

青みがかった翡翠色(ひすいいろ)の瞳をゆっくり閉じ、螢は久しぶりに穏やかな眠りについた。




****


瑠璃→ラピスラズリ

翠玉→エメラルド



《ちょこっと裏設定》


《水仙の文箱》は、以前の華姫の花紋の品。水仙柄は、"知性美"の意味があるそうです♪



《朝顔柄の振袖》は夏の柄である事と、"愛情、固い絆"の花言葉で選びました。両親の想いってやつです。(^^)



《蝶の帯留め》は、"長寿、変化、復活"の蝶柄の意味で。元:華姫の母の願いを。



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