表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
螢の小夜曲 *奏姫*  作者: 如月 宙(そら)
◇◆◇飛んで火に入る姫蛍◇◆◇
32/34

【第十三夜】華苑の姉妹

螢の投影と変化。







一晩華苑に帰らなかった事は、調理師や詩乃(しの)さんに心配されていたようで。

戻って早々、呉服屋:萌葱(もよぎ)に身を寄せていた事を包み隠さず伝えた。

少し複雑そうな表情をされたのは、楼主と恋仲か、それ以上だと思われていたのかもしれない。



詩乃さんからは、"頑張ったわね"と何故か涙ぐみながら励まされ。

調理師達からは、夕餉の膳に紅白の梅を模した華菓子が添えられていた。



ーー身請けの話までは、まだしていないのだけれど、なんだか励まされてしまったよう。







****






そして、二人共稽古が無い日だと教えてもらった今日。望美と美月の部屋を訪ねている。

舞手と奏手として、それぞれ稽古が佳境に入っている時期で、貴重な休みの日だから少し申し訳なく思う。




囲んだ座卓には三人分の(こう)ばしい香りがする玄米茶と、紅白の梅の華菓子。

喉を(いた)わる為か、美月の側には水差しも用意されていた。



二人には改めて、枝垂れ桜の着物の贈り主が呉服屋の若旦那であること。

数ヶ月もの間、渡しそびれていた御礼の(ふみ)を届けに、志津音さんと萌葱(もよぎ)に行った事を明かした。




ーー流石に朝から楼主に唇を奪われたのがきっかけで、華苑から逃げ出したとは……妹のような双子には言えない。



それから、八重咲きの椿に可憐な蝶が止まるつまみ細工の髪飾りを、二人への土産だとそれぞれに手渡した。




「 これなら、私達でも簡単に髪に留められますし…普段使いにも、花飾りと一緒に付けても華やかで可愛いですね」


「 螢様からのお土産、大切にします♪」



すぐに気に入ってもらえたようで、にこにこと二人は嬉しそうに髪飾りを留めてくれた。

まだ華苑では楼主しか知らない事だけれど、土産を喜んでくれた二人には今話しておきたくて、なるべく簡潔に、少しだけ先の話を口にする。




「それで……ね、急な話なのだけれど。手筈が整い次第、私は(はじめ)様の元に、嫁ぎます」




望美が口に運ぼうとしていた華菓子が、目の前でぽろりと手元の皿の上に落ちた。美月は長い睫毛を数度瞬かせて、青玉の瞳を丸くしている。




「 螢様?

え、あの、着物のお礼の文を渡しに、呉服屋に(おもむ)いて……その場で若旦那に求婚でもされた、のです…か?」


「 呉服屋にいる若旦那の仕事ぶりに惚れた、なんて事は……無い、ですよね?この髪飾りは、螢様が選んでくださったものですよね!?」




ーー二人共良い勘をしているというか。どちらも当たらずとも遠からじ、な意見が面白い。




「 ……美月には以前、少し話したのだけれど。

体調を崩して華姫を辞めて、髪まで短く切り落としたでしょう?きっとそのせいで、楼主様の信用を失ったのね……

それから構われる日々に、辟易(へきえき)していたのよ。

萌葱(もよぎ)に一晩だけ御厄介になって、こんな暮らしもあるのだな、と思ったわ。何より、(ふみ)も返せず半年ぶりに会ったというのに、(はじめ)様は変わられてなくて。とても、穏やかに過ごさせてもらったの。」


「 それはもう嫁体験、では。

螢様の事だから、若旦那のご両親にもすぐに気に入られたんだろうなぁ…」


「 あの楼主様に"色々、大変に"迫られ続けたら、若旦那に守ってもらいたくもなります、よね。

螢様が"唯一のひと"だと感じた決め手は、それですか?」


「 華苑ではない処での事だったから、自分の想いに気付いたのかしら?

"お早うや、お休みを一番に言いたい"と言われて嬉しかったり……

呉服屋の若旦那としての勤めは分かっているのに、優しげな眼差しで接客しているのかと思うと、寂しく感じて……

それでも、とても淡い感情だったけれど。」


「 ……"おはよう"や"おやすみ"の挨拶だけ(・・・・)で済まないような気が。」


「 望美、螢様が"嫁いでもいい"と決めた"想い人"なんだから。野暮なことは言わないの。」




ーー望美が言外に仄めかした事までは、私の考えが至らなかったけれど、それはまぁ……別にしておきましょう。




「 私も、この先ずっと華苑で箏を弾いていると思っていたの。でも、きっと華苑での五年は大きいわ。

望美や美月なら、十年と待たずに"唯一の想い人"を見つけて嫁ぐでしょうし。勿論今の花娘達も皆、ね。

華苑での繋がりを本当の姉妹のように思っているけれど、よく考えたら……

幼い頃に失くした、"家族"に憧れていたみたいなのよ。自分で温かい家庭を持つのも素敵だな、と思って。」


「 子供は螢様に似て欲しい。絶っっ対、可愛いから。」


「 だから、望美?ほんのり恋心自覚したての螢様に、そういう事言わないっ」


「 そんな事言ったって、嫁げばすぐ新婚初夜を迎えるのに?若旦那と螢様次第だろうけど、家族が欲しいなら……」


「……そう、ね。

そうなの。そこなの、よ………。」







二人で苺大福を食べながら語った時のように、言い(よど)んだ螢様は、黒文字(くろもじ)で紅い方の華菓子をつんつん、と(つつ)き出した。




「……螢、様?」

(もしかして、悩んで、いらした?)


螢様次第(・・・・)ですから!きっと大丈夫です!成り行きに任せれば心配要りません、自然体で頑張りましょう!?」




ーーああ、なんだか望美の前向きな励まし癖が刺激されちゃったみたい。

螢様に何を頑張らせようと考えているのか、私でも聞くのが怖い。



まぁ、男は惚れた女に弱いらしいし?

二人きりの夜の茶会を和やかに続けてきた若旦那であれば、螢様が怖気付く様な急な展開も無い、とは思う。



望美は望美で、螢様の助けになれそうだと思ったから、励まして(?)いるのだろうし。

私だって、しつこい楼主様から螢様を救うよりも、若旦那との適度な距離の詰め方を三人で模索する方が、力になれそうな気がする。



ーーその話で盛り上がる前に、聞いておきたいのは、嫁いだ後のこと。


呉服屋での暮らしを体験して、螢様の価値観がこれまでと変わっているかもしれないから。




「 …ちなみに、螢様は箏の師範代を続けるのですか?"呉服屋の若奥様"になったら、花街にはもう、来ません、か?」


「 箏に関しては、私にとってかけがえのないもの、だと伝えてきたの。

(はじめ)様が呉服屋を継いでも、親類縁者の冠婚葬祭くらいしか、表に出るような事はほとんど無いらしくて。

"せっかく師範代なのだから"と私の一存に任せてもらえたわ。……だから、続けるつもりよ?」




"自由にさせてもらえるのが嬉しい"と言って。螢様は澄んだ翡翠色の瞳に喜びの色をのせ、穏やかに微笑んだ。

決まりごとに縛られた花街から、格式のある他家へ嫁ぐ女性(ひと)とは思えない程、晴れやかな表情(かお)だった。



華苑の者になった経緯(いきさつ)も、華姫としても大変な思いをしてきた螢様が、自分の新しい可能性と幸せな未来を見つけられたのだと。


ーーなんとなく、そう感じた。








****


自分の【在り方】を守る為の無意識的な自己防衛の【投影】。

独自の価値観や思い込みで、物事や身近な人を見ていて、強い感情が治ると【投影の引き戻し】で、自分の【洞察】ができる。



○・螢の価値観の変化・○


・離れ離れの千鶴一家×楼主 = 花一匁の親×人買い→離れても絆のある家族


・華姫らしくいなければ < 箏の奏手で在りたい


・今の華苑の人間関係が大事 < 自分の家族が欲しい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ