二度目の出会い
あの日のことを思い出していると、いつの間にやら放課後になっていた。
時が、僕を置いていっている感じがして、焦った。
「なんであの時出会ってしまったんだろう」
「ポ、ポエミーだね、、、」
目の前に引きつった顔で僕に笑いかける彼女は、席が僕の前の櫻木朋美。
僕はまた、気づかぬうちに思っていることが声に出てしまっていたらしい。
恥ずかしい。穴を掘ってでも隠れたい気分だ。
「あ、えと、、ごめん。」
「え、菅田くんが謝ることじゃないよ!!むしろごめんなさい。盗み聞きみたいなこと、、」
盗み聞きは無理があるだろう。もし君の隣の席に人がいたならば、その人も確実に聞こえていた。そのくらいの声量だったのだ。
「彼女のことなの?」
僕に対しての『彼女』に当てはまるものは1人しかいない。
「うーん。そう、、だね。」
「そんなに好きなんだ。羨ましいな。」
好き?
僕が彼女に抱いている感情はそんなものではない。一言でまとめられるようなものではない。
僕は出会ったあの日から、あの目を見つめた時から、心にどっと何かが流れ込んだんだ。それは全身を流れ、血流のように僕の体の隅々まで行き渡った。
その何かが僕は未だに気づけていない。しかしそんなものを説明できるはずもなく、僕はその何かを周りには好きだと表すようにしている。
「琉!よかったまだいた!帰ろうっ!」
来るはずもない彼女が来た。僕の元へ。
「宏光くんと帰るんじゃ、、、」
「なんか早退しちゃってたみたい。」
じゃあねと櫻木さんに手を振る。彼女もじゃあねと聞こえたが、目線はこっちになかった。
帰り道、彼女は今日の数学の授業で先生に当てられただの、寝てたら移動教室で半分授業終わっててサボっただの今日あった出来事をすべて教えてくれた。
僕はただ、うんうんと聞いていた。
いつだって彼女はそうだった。彼女はとっかえひっかえ彼氏を入れ替えていた。彼氏の穴埋めは僕の役目で、僕はその間、ひたすらに彼女の話を聞く。それが周りの女子達から厭われる原因だった。美しさ故の僻みもあると思う。そのことを気にしている様子はなかった。
家に着き、彼女はじゃあまた!っと言って僕の返事も待たずに言ってしまった。
僕は母が出ていった一軒家で一人暮らし、彼女は近くのアパートに一人暮らし。
おじさんが結婚したのと高校入学を理由に、一人暮らしを始めたらしい。
逃げたかった、と彼女は言っていた。
高校の入学式のとき、家の前が、彼女との二度目の出会いだった。二度と会うことはないと思っていた。だから、この出会いを、運命だと思うようにしたんだ。
初めてあった日から彼女の目を、忘れた日などなかった。再会した時、目の前が真っ暗闇に包まれ、彼女だけがその闇の中で凛と佇んでいた。その闇は、彼女の目のように、美しく、恐ろしかった。
それから毎朝お互いそれとなしに一緒に登校するようになっていった。
そうだ、彼女と僕は運命なのだ。出会った理由など今更考えることではないのだと言い聞かせ、誰もいない家に、ただいまとつぶやいた。