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君の足音
「ねえ!ねえってば!」
彼女の声にハッとする。ええと、何の話だったか。
「ごめん聞いてなかった…。」
「分かってるわよ。今日は宏光くんと帰るから待たなくていいよって言ったの。」
宏光君は、学年一のモテ男。サッカー部で、副キャプテンをしていて、いつもミンティアを持ち歩いている。クラスの半分は必ず好きになるとかなんとか。そして極度の、マザコン。これはおそらく、僕しか知らない。
「付き合うことにしたんだ。」
「そうみたい〜。」
「…あの先輩は?」
あの人とは付き合ってたわけじゃないから〜と上履きに履き変えながら僕に聞かせる気もないように言う。付き合ってなかったのか。
おはようと同じ時間に靴箱についた女子3人組に言われ、僕は返事をするが、彼女に挨拶をする子はいない。挨拶の代わりに女子特有の、ヒソヒソ話が聞こえる。
「じゃあ、また!琉!」
彼女には、聞こえてないのか、気にしてないのか、いつものように教室へと向かった。僕の中には、彼女の足音だけがまるで歌のように、僕の耳に、入ってきた。