君へ
絶対に君に届くはずのない言葉を僕は書き出しています。
文章を書くのは慣れないものでどうしても他人行儀な口調になってしまうようです。
なぜ今更なのかときっと君は眉をひそめて笑うでしょう。
僕は君のその困ったような笑顔を見る度にチクリと胸に針が刺さっていました。
今、どうしても言葉にしないわけにはいかなかったのです。
長い間溜め込まれた言葉たちはまるで海の底にあるヘドロのように長い間、時間をかけてたまっていきました。
あまりにゆっくりで僕は足が沈んでいっているのに気が付きませんでした。
気づいたときにはもう身動きひとつとれないほどにその言葉たちに埋もれ、縛られていたのです。
このままでいいと思っていました。
君に縛られ生きていくのが僕の運命であると、ずっとそう思っていたのです。
でもそこに、暗い海の底にぼんやりと月の明かりが照らされたのです。
月の明かりにしてはやけに暖かく優しい光は僕にこの文章を書く使命を与えました。
「君はここにいてはいけない。」
と、優しく僕を包んでくれました。
だから、僕は君にこの言葉を送ります。
そこから這い上がるために、僕のために、君に送ります。