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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
シカゴ編(2月24日~)
94/151

第12羽 メッセージ ④殺人 /シカゴフットワーク -4/4-


ベスがクスクスと笑った。


『ジャックってそんな感じよね。あ、そうだわ。聞きたかったんだけど、シカゴのJUKEジュークは今どうなってるの?知ってる?』

ベスが言った。

JUKE(ジューク)?…ああ、フットワーキングか?盛り上がってるな』

その後、レオンとベスが音楽の話を始めたが、ノアにはサッパリだった。あくびをしつつ聞いていた。


ベスが外にいた頃、シカゴではフットワークダンスと音楽の大ムーブメントが始まっていたらしい。

ベスはネットワークに入ってしまったため、その後が知りたかったのだと語った。


シカゴ/JUKEというのは、シカゴフットワークダンスに向いたEDM(イーディーエム)

…EDMというのは、楽器を使わずにシンセサイザーなどで奏でるエレクトロニック・ダンス・ミュージックの頭文字を取った略称。シカゴ/JUKEはBPM、つまりテンポが1分=160くらい。


つまりそのJUKEという早い音楽に合わせ、フリースタイルで踊るフットワークダンス。それがフットワーキング、又は『シカゴフットワーク』と呼ばれるダンスだ。


もともとシカゴのクラブで流行っていたゲットーハウスという音楽が下敷きにあるらしい。

…ノアにはサッパリだったが、レオンとベスは楽しげに話していた。


ロスのKRUMP(クランプ)、シカゴのフットワーク。マフィア達のスタンダードもそちらに傾き始めている…。これはつまり、故郷のダンスを盛り上げよう、という訳らしい。


何度も面倒な事になりかけたが、条約のおかげで何とかなってる。

レオンがそう言った。


『だが…ダンスで物事を解決するのは、あまり良い方法じゃ無い。…俺はむしろ最悪の手段だと思っている』

レオンは苦々しげにそう言った。


当時のノアは目をしばたいた。

『何で?それって、つまり、ただのダンスバトルだよね…?』

それなら平和的だ。ノアがそう言うと。


『…チッ』

レオンは露骨にノアを睨んで舌打ちした。

ベスが顔を曇らせた。


『ノア。ダンスは戦いの道具じゃ無いのよ』『勝敗なんて感覚だしな』

そこはベス、レオン共に同意見らしい。

この二人は案外気が合うかもとノアはハラハラした。

焦ったノアは口を挟んだ。

『よくわかんないけど。ダンスは勝敗があやふやで、闘いとかジャッジには使えないってこと?』

ノアもそれは実感としてあった。実力伯仲の場合、絶対俺の方が勝った、と思ってもジャッジで負けになる場合がある。

そんな時はキレそうになる。


『そうね。ダンスバトルは…技術の差とか、優劣はあるけど、プレイングカードみたいに、勝ち負けがあっさり決まるものじゃない…、――もちろん勝敗は付くけど、ダンスの本質はもっと違う所にある…、私はそう思うわ』

ベスは少し不安げに言った。

同意を得られるか自信が無い、と言った様子でレオンを気にしていたが、当時からベスは何事にもハッキリした意見を持っていた。


十三歳にしてはかなりマセた子供だったと思う。

『だよね!』

…ノアはベスのそういう所が好きだった。笑って同意した。


『ダンスは互いに相手を尊敬する、コミュニケーションの手段だ』

レオンは静かにそう言った。


そして、胸元のネックレスに手を触れ。

『特に俺たちの教義では、私欲の為に踊ることはタブーだ。ダンスは神へ捧げる物だ』

…そう言った。


『この思想は、押しつける物では無いが―』

そう前置きして、レオンは自分の信じる宗教について語りだした。

懇々と。若干不愉快そうに。幼いノアとベスに言い聞かせる感じだった。


世間じゃキリストがはばってるが――、いや、俺達の宗教も元々は、―、今も表向きは、キリスト教で言うダンスの聖人がいて、それを信仰してるって事になってる。

だが、実際は全くの別物と言っていい。宗教の名は明かせない。


お前達は『ダンスの神』を見たことがあるか?俺はある。だから心底この教義を守りたいと思っているんだ。仲間の内でも「それ」を信じてる奴らは少ないが。


入信はいつでも歓迎する。

お前も乗り換えたくなったら、入るんだな。


『…はぁ。分かった。ごめんなさい』

よく分からなかったが、ノアは素直に謝った。

とにかくレオンのそこには触れない方が良いと、ちょっと思った。

ベスも無言でうなずき、レオンはふぅ、とため息をついた。



■ ■ ■



――そうだ、そんな事もあったっけ…。

それでその後、レオンと少し打ち解け――なかったな。


ノアがレオンとまともに話すようになったのは、ジャックが来てからだ。

後のレオン曰く、レオンはアバラ事件の時の事を『子供相手に大人げなかった』と反省していたらしい…。


「おい?まだか!当然、負けたらお前等二人とジュニアを交換だ!」

ノアは焦れる敵を前に、長い思い出に浸った。


「あ、ああゴメン!えっと」

ノアははっと顔を上げた。


シカゴフットワークの基本ステップは、

『GHOST-ゴースト-』『LEFT TO RIGHT-レフト トゥ ライト-』

『MIKES-マイク-』『DRIBBLES -ドリブル-』

など幾つもある。どのフットワークもアレンジは多彩で複雑。


ノアは運営にビデオを用意して貰いベスと一緒に少しやったが、その後はブレイクとKRUMPの時間が増え、そして今までスッカリ忘れていた。


「なるほど…うん。よし。いいや。俺、やってみる!相手はリーダー?」

ノアは前に進み出た。

「ほお?もちろんだ」

リーダーが頷く。

「あ、でも得意じゃ無いから、先攻やって?」

ノアはにこっりと笑った。

「ああ、良いだろう――曲を」


ふい、と頷いた男がスイッチを入れる。

流れて来たのはドラム缶を叩いたような、ぎしぎし鳴る早い音楽。同じ言葉をひたすら繰り返す男性ラップ。


ソレに合わせリーダーが早すぎるステップを踏み出す。

時折澄んだメロディーが入り、ドラムの軽快なリズム。テンポがほんの一瞬緩むがすぐにまたハイスピードになる。

足裁きに迷いは無く、乱れも無い。

曲に合わせ、即興のハズだが全くそうは見えない。フットワークのスピード感、上体の動きが一々(いちいち)格好いい。


タン!とラスト。リーダーのフットワークに、周囲の男が目を見張る。

ヒュゥ!とノアは口笛を吹いた。

「じゃあ、行くよ」


ノアがステップを踏む。

メンバーが「おい!?」と声を上げる。

「お前なんか相手じゃ無いね!」

ノアは笑顔で全く同じステップを踏んだ。

完全コピー。

「馬鹿!」

イアンは思わず言った。

これは全く駄目な方法――。

と、思ったらダンスのリズムが一瞬で変わった。

あっと言う間に目で追えなくなる。一気に高速ステップへ。


フレーズの切り替わりで一瞬停止した、それが目の錯覚に思える。


キレのある蹴り上げ、ランニング、上体の動き。

左右の脚を交互に蹴り上げ交差し、一瞬回り、再びスピードアップ、曲にピッタリの緩急を付けた脚捌き。脚を開き前後に飛び、高速ドリブル。複雑にアレンジされた動きがよどみなく繋がる。

一つも同じパターンを使っていない。平凡なフットワークでも無い。

そのことに気が付く頃には、ダンサー達は驚き、驚愕し、全ての感情をノアに向けている。

ショーさながらに個性を主張するフットワーク。


曲が終わり、ノアは止まった。

会心のフィニッシュ!――自分では、勝ちだと思ったが?

周囲の反応は。



「…っ」

リーダーの詰めた息が、勝敗を物語っていた。

どぉぉぉ!!?と男達が沸き立つ。それが歓声に変わった。

「NOAHァァ―――!やっぱすっげ!」「クール!!」


近くにパトカーが止まり警官が降りてきた。一斉に男達がそちらを見る。

「お前の勝ちだ――、止めるから早く行け!!」

俺の負けだ!と彼は笑い、率直に叫んだ。


「え――」「良いって事だ!ノア!行くぞ!!」

立ち止まったままのノアの手をイアンが引いた。

ノアは走り出す。一瞬手を振って。


「…良くやった!」

イアンが路地を走りながら、微笑んだ。


〈おわり〉

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