第12羽 メッセージ ④殺人 /シカゴフットワーク -2/4-
ダンサー!?
パッと見てノアはそう思った。一人がラジカセを持っている。
「チッ。シカゴ連中か…!」
イアンが舌打ちする。通れないので、自然立ち止まる。
ノアは周囲を見た。こんな所になぜダンサーが?
もう三キロは走ったと思う。タウンハウスが並ぶ住宅街の終わり、右手は中層の灰色のビル。左手も。だがまだ都心ではなく、かなり辺鄙と言って良い。
総勢で十名ほど。
「よう?どうかしたのか」
一人目、黒人がノア達に声をかけてきた。明るいオレンジ色のウィンドブレーカー。カーキの綿パン。派手な緑と赤と青と白のスニーカー。都会的なファッションだ。
地元のダンスクルーの集まりかもしれない。皆、揃いの赤い帽子をかぶっている。
「おっ、スゲー煙が上がってるな」「火事か?」
他の男達は煙の上がっている方向、つまりベスの家の方向を興味津々と眺める。
その会話を聞いたノアは、歩調を押さえ安堵した。
良かった、普通の人達だ…!
「ハァ、はぁっ…」
ノアは立ち止まり汗だくのまま息を整え汗をぬぐう。イアンもそうした。
息を整えたイアンは、直ぐ顔を上げた。
「急いでいる。お前達と争う暇は無い。邪魔だから消え失せろ」
「―…」
イアンの物言いに男達は絶句した。
―もうちょっと、なんとかさ!!
急いでいるノアでさえそう思った。イアンはしまった、と言う顔をした。
サイレンの音が追ってくる。
拳銃を撃ちまくり逃げたノア達は、警察にも追われているのかもしれない。
戸惑うノアにイアンは『これは正当防衛だ!』と叫んで奴らを撃った。
――早く逃げなければ。あのイカレタ連中も来るかも!?ノアは早く走り出したかった。
遠くで聞こえた小さな爆発音に、嫌な汗が伝う。
「悪い。英語は苦手なんだ」
「―あンだと!??」
「気を悪くさせてゴメン!こいつ英語下手で馬鹿なんだ!」
ノアは間に入って必死に謝った。パトカーのサイレンが聞こえる。
レオンの話だと警官に捕まったら即、牢屋行きらしい。自分は殺人者…これからは逃亡生活?…この国の正当防衛はどこまでいけるのだろう?
「ねえ!…ここ、通ってもいい?」
ノアは無理そうだと思いつつ、一応はにかんで聞いた。
もしかしたら行けるかも?
「駄目だ」
「あ…やっぱり?」
ノアは肩を落とした。
「リーダー」
と一人が言って人垣が割れ…。十一人目、背の高い男が出てきた。
薄いブルーのジーパンに、緑の襟付きシャツ。
ウエーブのかかった肩ほどの茶混じりの金髪の白人。キャップ。目がくぼみ、鋭い眼光…。
この人は腕っ節も強いかもしれない。ノアはそう思った。
「ポリスに追われてるのか?」
そのリーダーらしい男がそう言った。低く、落ち着いた声だった。
「いや、違う。俺達は危険指定教団『No.zero-one』から逃げている」
イアンが舌打ぎみに言った。
ノアはリーダーと対峙するイアンを見てハラハラした。
ゼロワン―それが奴らの名前?いや、番号?!
「!ほぉ。なるほど大変だな――じゃあ、通そう」
リーダーは知っているようだ。有名なのだろうか。
「そう!サンキュー!」
とにかくホッとしてノアは通ろうとした。しかし、別の者が三人、ニヤニヤしながらノアの行く手を塞ぐ。イアンの前にも同じく余名が詰め寄る。
「と、それはやはり出来ないな。上からの命令だ」
「上だと?」
イアンが言った。
「…ここらも今じゃ、ネットワークが幅ってるんだよ」
イアンの前の男が忌々しげに言った。
「…俺達はBIGの言うことしか聞かないんだが、まあ、こっちにも色々あるのさ」
リーダーはそいつを一別し黙らせ、そう続けた。
ネットワークの言うことを聞きたくなる理由…。
「あ、人質?」
ノアは言ってみた。
「―ゲホン!ゴッホ!…まあ、金髪坊やは通すな、捕まえて連れて来い、って話だ」
だいたい当たったらしい。リーダーが咳き込んだ。
「ええっ!だから俺達は今―」
ノアは近づくサイレンの音に後ろを振り返った。
いや、まだ大丈夫だ。かなり裏道だし…、けどあのイカレタやつらから、今すぐ逃げたい。…群がられた時は殺される!と思った。
「もう、そこどいて!」
ノアは実力行使でいこうかと考え始めた。ジーンズの、後ろポケットの自動拳銃で威嚇して通れば簡単だ。
「BIG―つまり、お前達の『JACK』か。ここを通せばいずれ救出してやる」
焦るノアを余所にイアンが言った。
男達の一人がイアンを鼻で笑った。
「―ふん、サロンのお遊びはもうお終いだ――。いや…このシカゴも、アメリカもな…」
「畜生っ、やつらジュニアを…まだガキなのに!」「くそ…JACKも重傷なんだ…!」
厳つい男達の表情は冴えない。
「あーはいはいはい!事情は良く分かったから!早くどいて!」
ノアは足踏みしながら焦った。
リーダーは笑った。
「嫌々だが、俺たちも一応、頑張りましたって報告しなきゃならない。――そこで、俺たちのダンス『FOOT WORKING』で勝負だ。勝ったら通してやる。異存は認めない!!」
――フットワークキング!?
「え。何ソレ!?イアン出来る?知ってる!?」
ノアはイアンに聞いた。
「これは自慢だが、俺はブレイク意外は全くやらない」
イアンは胸を張った。
「―この役立たず!」
ノアは天を仰いだ。
「ええと、フットワーキング?…シカゴ??…あれ、んん、あ、ベスが――、そうだ。レオンも何か言って…?…ちょっと思い出すからストップ!」
ノアは額に手を当て、敵を手のひらで押しとどめ、だいぶ前の記憶を思い出した。




