第12羽 メッセージ ②偽装 -1/2-
二月二十七日。
「ふぁ…」
起きがけのレオンは、あくびをしながら新聞を取り、適当な朝食をテーブルに置いた。
簡単なブレッド。
その後湯を沸かし、インスタント珈琲を煎れる。
適当にテレビを付け、珈琲を手に持ち、椅子に座り、バサリと新聞を開いた。
そう言えばここ数日、レオンはまともに寝ていなかった。
だがレオンは存外まともな時刻に目が覚めて、よかったと思った。
…ノアとイアンはもう、サンフランシスコに向け出発しただろうか?
この部屋は、速水がいた頃は綺麗に片づいていたのだが…、その速水は出て行って久しい。
おかげで今この部屋は、程々以下と言った様子になっている。
以前は速水が作っていた朝、昼、晩メシも、今はレトルトや冷凍食品、ピザが主。
宅配はこのアパートまでならギリギリ持って来てくれるが、ホームに。と言うと即電話を切られる。
速水は現在、自宅で療養中。
もとい、監禁されヤク中。
「ハァ…」
レオンは溜息を付いた。もちろん良い状況な訳が無い。最悪だ。
こうなったのはレオンの打つ手が遅れたからだ。
色々な懸念を優先し、仲間である速水の安全確保を怠った。
というか全く、ノーフォローだった。
レオンは、セット前の髪を忌々しげにかき上げた。
(超能力だと!?…あのクソ親父。クソっ!!俺も気づけっての。だからアイツは普通じゃ無いんだって!!)
速水に関してレオンは幻聴・超能力以外も、思う事が色々あった。
おかしいと思ったのは主に外に出てから。
いや、スクールでも、アンダーでも…ずっとそんな気はしていたのだ。
もしかしたら?コイツ?――。まさか。すごく?…という。
…本人が何気ない風を装っていたので、あえて尋ねなかったのだ。
上手く言えないがレオンは今、速水に裏切られた気分だった。
俺はそんなに信用されていなかったのか?
俺はまだ昔のままなのか?だから、あいつは俺を信じなかった?
本当に、もう少しな…。
「っとに。くそ。はァ…」
…色々面倒みてやったのに、あの『野生のカラス』はレオンに懐かない。
戻ってきたらあらいざらい全部聞いてやる…。
レオンはそう決意し、ブツブツ言いながら適当なブレッドを千切った。
そして、ふと眼光を鋭くする。
一月後の三月二十四日…。
その日、エリック及びプロジェクトチームが速水のアパートから引き上げる予定だ。
レオンはその日までに、やるべき事がある。
約束通り、レオンの親父は退いた。
『キング』は今はレオン。…一応は。
…ダンスファミリーは絶対的な存在『BIG』を頂点とするピラミッド型社会。
踊りの実力などからファミリーネームが与えられ、その人物の家族内の役割=ポジションが決まり、役割を果たしながら、お互いにダンスを高め合う。
名前は衝突により、奪われたり、また引き継がれたりする事もある。
亡き祖父の代わりにBIGとなったのは、レオンの父。
通常、BIGはリーダーだが、レオンのファミリーではBIGは不可侵名誉職という扱い。つまり隠居。
男性幹部『Micro』は、BIG以下、十三名からなる。
BIGを入れると十四名。その下に構成員が付く。
BIG…アルバート・マクギニス(レオンの父)
KING…レオナルド・マクギニス(レオン)
KING・Jr…ロナルド・マクギニス(レオンの兄/行方不明)
Young・KING…現在空席。元はレオン。
Boy…ヤン
Kid…ジェイラス・カラズ
Baby…ディー(D)
Soulja…チャーリー・テート
Prince…アルヴァ(Princessの恋人)
Genral…オズワルド・ビィティー
Monster…ジョニー・マッキャン
Rowdy…バット・アルマンド
Infinity…マット・グルーヴス(サンフランシスコへ同行・腕っ節が強い)
Child…ダリル・ファルコナー(サンフランシスコへ同行・腕っ節が強い)
特別枠
JACK…サク・ハヤミ
『JACK』
――元々、レオンのファミリーにはその客分用のネームが存在した。
だが客分も適当な人物も居なかったため、空席だった。
速水は知るよしも無いが、レオンの父が速水にその名を与えていた。
これはレオンも了承している。だから速水は自由にこの街を歩けて、ホームに出入りができて、BIGやKINGと対等に話せたのだ。速水は確かにJACKだし、自然な流れとも言える。
そして、女性幹部『Mini』これは日本で言う所のレディースのような物。
彼女達もファミリーには欠かせない。
…『Micro』と『Mini』半四角錐が二つ合わさり、ピラミッド形作っている。
もちろんBIG、KINGの下。KINGと並ぶQUEENは現在空席。
JACKは特別枠、つまり客分なので序列は関係無し。ピラミッドの外で適当に遊んでいる。
QUEEN…メアリー(レオンの母。離婚空席・名前のみ残る)
Lady…ジャンナ(レオンの祖母。先代BIGの妻)
Sister…オリヴィア(レオンの叔母。レオンの父の妹、メアリーは嫁入りした)
Miss…リーズ
Princess…キティ(オリヴィアの娘。レオンのいとこ・別名、我が儘プリンセス)
…以下、『Mini』も実力ある、個性派揃い。こちらも『Micro』と同じく十三名。
下っ端を全員合わせても二百名ほど。規模としては片田舎マフィア、という風だが、レオンの父は祖父の代からの大戦争を終結させた為、この一帯での影響力はかなり強い。
――、とにかく本当に癖のある連中で、Micro、Mini、下っ端問わず、未だに兄の帰りを待っている者も多い。
レオンはそいつらに勝たなければならない。いや、別に全員に勝つ必要は無いのだが――。
…あの我が儘プリンセスなど、どうやって説得出来るのか…。
レオンは頭を抱えた。
レオンは真に『キング』と認められ、そしてネットワークを潰すために旅立つ。
そのつもりだ。
もちろん全員連れて行く訳にはいかない。彼等にも家族や生活がある。
ついて来られる者だけ。
…だが、誰がわざわざついてくる?別にアメリカで生活していれば良い。
この先、速水を助けられるのはレオンしかいない。…少なくとも、レオンはそう思っている。…若干溜息を付きながら。
つまり『友人の為』『家族の為』『ダンスを守る為』。――苦笑し、出掛けるには十分な理由だ。
レオンは一人でもやると決めた。だがネットワークは馬鹿にでかい。
…レオンだけでは、さすがにどうにもならない。そしてずっとここにいてもネットワークは倒せない。
老舗ダンスマフィア『KING』を軸に、まずはアメリカ国内で、対抗する勢力をまとめ上げなければ。
根っからのクランパーである「レオン」は、レオンの兄ほど、ファミリー内の人気や人望がある訳では無い。
…現在、確実にレオンの味方なのは。
Boy…ヤン(レオンに負けた)
Kid…ジェイラス・カラズ(ハヤミに負けた。先代JACKのファン)
Infinity…マット・グルーヴス(サンフランシスコへ同行・腕っ節が強い・レオンに負けた。ハヤミにも負けた)
Child…ダリル・ファルコナー(サンフランシスコへ同行・腕っ節が強い・レオンに負けた。ハヤミにも負けた)
Soulja…チャーリー・テート(レオンの友人。レオンとはドロー)
Prince…アルヴァ(Princessの恋人・非常によく出来た人物。兄の親友)
そしてレオンの師匠の後継者、リッキーとトニー、情報屋のテリー。
これだけだ。
――他の連中は…だから癖者ぞろいなんだよ!!
レオンは残りのFamilyのメンバーを思い浮かべ、頭を抱えた。
皆、レオンの兄と、レオンをよく知るだけに――レオンを、面白がり試している節がある。
だが速水の為にも、死んだベスの為にも…。
ダンスの神の為にも。やらなければ。
ブレイク・クラウン時代を経て、いま時代は『ブレイク&KRUMP』全盛。
地下に対しての闇。
元々レオン達は、とても健全なマフィアだったが、紆余曲折の大戦争を経て、最後に銃を捨てた。
現在のシノギは、闇ダンスクラブ「など」の経営、闇ダンス大会などの主催。たまにギリギリ合法なドラッグ販売。そのほかストリップやらも色々。
…やっていることは、ネットワークとたいしてして変わらない。
変わらない、という事は平和的という事だが、レオンはネットワークより、自分達の方やや真っ当だと考えていた。…似たような物だが。
ダンスマフィアは、世界平和を掲げてはいない。だが、ダンスの力と神を信じている。
そのむちゃくちゃな方針に従わない模範マフィアは、暴力で潰された。多くの血が流れた。
ダンスマフィアは、純粋なKRUMP派とは言いがたい。絶対に言えない。
レオンと兄は憤り、そして家を、街を飛び出した。
師匠に出会い。兄弟で映画に出たり――。
―そして。突然兄は消えた。
ネットワーク。…そいつ等が攫った?
レオンは親父を締め上げたが。親父は相変わらずだった。
『じゃあ、やってみろ?探してみろよ。そうしたら『KING』の名前をくれてやる』
酔っ払った、イかれた父親の声がカンに触った。
『それまで、街がぶっ壊れないように見ててやる』
若いレオンは、親父の狂った笑い声にむかついた。
『――キングは、兄貴だ!!俺は必ず。兄貴を探し出す。兄貴と一緒に、このファミリーを、この街を立て直す!』
レオンは叫び、契約を交わしスクールへ。
そこでノアとベス。先代ジャック。
…そして、速水に出会った。
速水が見ている物は、兄が見ている物に似ているのでは無いだろうか?
レオンは、速水の理想とか、思想とか。そう言った物が、兄と似通っていると感じた。
不屈の精神、負けん気とでも言うか。だから、速水を仲間にしたかった。
コイツなら、俺が死ねば、やるだろう。――だから目をかけていた?
だが…レオンの代わりにベスが死に。
レオンが出てきてみれば。
――レオンにしたら、『出てきてみれば、いつの間にか…』という感じだったが。
現在、レオン達のファミリーが支配下する街には、割れていない窓ガラスがある。
子供の笑い声が聞こえる。それが信じられない。
…今もホームに宅配が来ないのは、酷い時代の名残だ。
二月はあと一日。
引き続き本日の合衆国。トップニュースはビル火災。強盗、殺人、レイプ。
『凄まじい勢いで燃えています――』
イかれたテロ集団。
…ああ。どこも、世界はいつも通りだな。
相変わらず、腐った世の中だ。
また銃の乱射か。
いっそ、銃がなければいいのにな。だがライフル協会が――。
そう思い、レオンは着替えながらチャンネルを変えた。
カリフォルニア州知事選挙。前知事の失脚理由。
選挙?ま、行かないな。俺はそれどころじゃ無い。急ぐか。
レオンは時計を確認し、冷めかけた珈琲を一気に飲む。
「―ん?」
と、そこでレオンは新聞のゴシップ記事に目を止めた。
『あの二代目ジャックが電撃婚約!!?』
なんだ下らない、スッパ抜きか。さっさと飲んで―。
二代目ジャックだと!?
レオンは思わず二度見した。
丁度、アナウンサーが高らかにニュースを告げる。
『お相手は若手人気歌手のアビゲイル・クイーン!!彼女の父親はなんとあのW・J・ヒルトンだったのです!!』
レオンは盛大に珈琲を吹いた。




