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第11羽 速水 ②レシピエント -5/6-

イアンが外し、ノアとレオンだけになった。


「…チッ…クソっ…おい!!レオン、不味すぎだろ。って言うか、勝手に人を売るなよ!!」

ノアはレオンを睨んで言った。

「悪い…。ノア、…イアンのエンペラーは、お前を推しても良いって言ってるらしいが。…お前は、どうなんだ?」

「どうって…!」

ノアは頭を抱えた。

「どうもこうも。…俺が行くしかないだろ…!ベスの仇だし、気安めなのがイタいけど…」

ノアは嘆息した。


「って言うか、レオン。もしかしてずっとその気だったのか?」

ノアがレオンを睨んだ。

「まあ、そうだな」

レオンは言った。

「ハヤミが何とかなりそうなら、エリック、イアン、医者連中を殺してここに連れて帰る気だった。…が、もうどうにもならない」

「……そんなに悪いの?」

ノアは心配そうな顔をした。


レオンは低く何度も唸った。

「悪いと言うか…。…薬漬けなんだ。エリックは『この薬はハヤミに害はありません』とか言ってた。…むしろ途中で管理が無くなる方がヤバイんだとよ…。くそっ、…エスパー云々の噂は親父から聞いたんだが…その親父もまさか、って言ってた」


レオンはエリックに詰め寄り、襟首を掴んで問いただした。

人体に害は無い。ただし途中でやめるのは不味い。私が一任されています。

そんな返答をされたのでぶん殴っておいた。

例え人体に害が無かったとしても、精神的な害は大ありだろう。


「…薬漬け…」

その単語にノアは顔色を無くした。


「でもっ!ハヤミは…レオンに、何も言わなかったの?ホントに一言も?」

ノアはそれが不思議だった。

ずっと一緒だったなら、助けを求める位は出来ただろうに。


レオンは項垂れた。

「ああ…。くそ…あの馬鹿…エリックを信じ切って、いや、あえて騙されやがった!!」

レオンはばかやろう!と言った。


「いや、騙したのはエリックだ!ハヤミは悪く無い!だが馬鹿野郎だ!!!くっそ…」

レオンは頭を押さえている。

「…エリックが?騙す?」

ノアは腑に落ちないようだった。


少し考え、ノアは光を見たような顔をした。

「…あ!レオン、もしかしてハヤミは『アンダー』で全部知らされてたんじゃ無いの?自分が超能力者だって知ってたなら!!エリックは味方かも…!」


レオンはすげなく首を振った。


「いや…イアンの話だと、催眠状態かナンカで、本人は覚えて無い可能性が高いんだとよ。…全く、エリックも、あの医者も怪しかったなんてレベルじゃ無い。真っ黒だったんだ…」


レオンがまた唸り、ノアも肩を落とした。

そしてお互いに無言になってしまった。


治療の名目で、一体何をしていたのか…。

レオンもノアも、妊娠中のベスでさえ、常にあの部屋に居たわけでは無い。

思い返せば…不自然かつ自然な理由で外に出された日もあった。


「…それって、…超酷い…」

ノアは呟いた。涙ぐむ。

気づかなかった自分達も酷いが、速水の置かれた状況はいつも最悪だ。


「――っ、そうだイギリスは…!?ケイならなんとか出来ないの?」

ノアは、はっと顔を上げて、身を乗り出した。


「確認したが、向こうにもプロジェクトの薬は無いってよ。プロジェクトの医者は完全強制派遣制で…しかも、その超能力者予備軍って言うのは、いやに女子供が多いらしくて、――まさかハヤミがそれかもしれないって、全く思ってなかったんだと。…ただ、もしそれらしい情報があれば、事態の予測は出来たはずだって、ケイは憤ってた」

レオンは拳を握りしめた。


なんとか出来ないかと、イギリスだけでなく他のツテも当たったが…どこにもその薬は無い。

そもそも『プロジェクト』が開発した怪しい薬だ。もちろん流出はしていない。


圭二郎は、速水に会いに来るべきだった、と言っていた。

彼も気が付いたかは分からないが、…速水のデリケートな病気の事を、レオンも、速水も、隼人も、当然ながらエリックも。圭二郎に話していなかった。


「…俺が気付けば良かったんだ!!くそ!!」

レオンはガン!!と机を叩いた。

超能力…。ささやかな幻聴…。これがつながるとか、そんな馬鹿な。

だが、レオンは気付かなければいけなかったのだ。


「…それは俺でも無理。…だって超能力とか、オカルトがほんとにあるなんて…絶対考えないよ…」

ノアが言って、しょんぼりと項垂れた。


「…イアンは『こんな、夢のような力があったなんて、未だに信じられない。親父も母さんも、奇跡が起きたんだって!…本当に、この事はもっと世界に発信するべきだ!その為に、ノアが次世代のジョーカーになるべきだ!!』ってベキベキ言ってたが。もしお前がトップになったら、真っ先に中止しろよ」


そんな力、人間が手に入れても、ロクな事にならないに決まってる。

レオンは吐き捨てた。


「うん、分かった。…超能力ってあったら凄いけど…。……レオンの言う通りだ」

ノアは頷いた後、少し考えたが、顔を上げてキッパリと言った。


「ハヤミには会えないの…?」

ノアが言った。

レオンは頭をかきむしった。

「エリックがな…。あいつ、マジで最悪野郎かも知れない。権限とかで、以後面会は許可できません。お別れを、とか抜かしやがった…!」


速水を連れ去られてはたまらない。キレながらそう言うレオンに、エリックは『では自宅入院という形で』とあっさり頷き、プロジェクトの手下共にてきぱきと指示を出していた。


…その時、散々暴れていた速水は自分のベッドにうち捨てられぐったりと寝ていたが、それを見下ろすエリックは涼しい顔をしていた。


『アンダー』で見た、パンストを取った素顔。


彼は地上へ出てからもずっと素顔で通していた。

エリックはネットワークから抜けたのだと、レオンと同じように、速水も思っていただろう。

――だが、そのにこやかな仮面を剥いだ後に出て来たのは、狂った科学者の顔だった――。


レオンは、はかりかねていた。

エリックのことは、ジャックの世話役をしていた頃から知っている。

…悪い奴では無いと思っていた。

エリックはアンダーにいたときから、相当、速水に入れ込んでいたように思う。

だが、それは『極上のモルモット』への感情だったのでは無いか?


「スクール越しの、もっと言えば、下手したら、速水がガキの頃からの計画だ…。ハヤミはエリックが助けてくれるって信じるしか無い、って言ってたが…エリック個人としてはさほどあいつに思い入れが無いんじゃ無いか?」


つまり。この状況ならエリックは喜々として研究を優先する…?


レオンの懸念を聞いたノアは、嫌そうな顔をした。

「そう言いたいの?…さすがに狂いすぎだろそれ!もしサラが人質になってるんなら…それで嫌々従ってるとか、きっと。きっとそんな風だよ!…レオン、お前もうちょっと他人を信用しろって、ジャックにも注意されただろ?」

「む…」

指摘されたレオンは唸った。


付き合いの長いノアは昔のレオンをよく知っている。


スクールに来た当初から、淡々と踊り、誰よりダンスが凄くて。あっと言う間に順位を上げた。

…彼はジャックに負けるまで、ずっと誰とも打ち解けなかった。

レオンのネックレスを馬鹿にしたノアは――あれはノアも悪かったが、…アバラを折られた。


自分以外、誰だって信じない。信じられない。仲間だと?チームだと?下らない。


根は悪人では無いし、ジャックのおかげで大分丸くなったが…レオンはそんなヤツだった。


「あ。そっか、無理もないか…。ハヤミ…馬鹿だから」

ノアはふと思い至って呟いた。

速水は態度こそ無愛想だが、レオンと違って人を信じている。そんな気がする。

――だが、それで自分がボロボロに傷ついては元も子もない。

馬鹿すぎるとノアでも思う。

日本人だから?それとも速水が特別なのか?ノアには分からなかった。


「…レオンはハヤミを信じられなかったんだろ?初めは見下して、苛ついていた。でもまあ、途中から、面白いとは思ってた。…当たりだろ?俺見てて分かった」

ノアはそう言って、レオンを指さし、クスクスと少し意地悪げに笑った。

「む…」

ノアに指摘され、レオンは自分の行動を省みた。

レオンは『外に出てからは、ハヤミをまた見直して一目置くようになった』と言いたかったが、確かに、それだとずっと見下していた事になる。

未だにレオンは速水がよく分からない。


頭が回るくせに、不安定で、やけっぱちで、感情的。

クレイジーで、キレていてもどこか冷静で冷淡。

スクールで、アンダーでレオンから見た速水はそんな印象だった。


頭は悪くないと思っていた。むしろ相当良いと、そこは感心していた。良くやっているとも思っていた。大した奴だと思って頼りにもしていたし、誘拐という事情があるだけに、仲間として最低限は守らなければいけないと思っていた。


…変だと思ったのは、外に出てからだった。

日本で普通に育ったはずなのに、ウルフレッドをさらって、容赦無い洗脳拷問をした。

その癖に、サロンでもずっとベスの事を引きずって。いつもどこかを眺め、死んだような目をしていた…。


レオンは舌打ちした。

ベスが死んで精神的にやばかった事を差し引いても…キレてるなんてレベルじゃ無い。

そもそも関わるのはヤバイ奴だったんだ。

そうかあいつ、だから友達少ないんだ――、日本人の対人感覚センサーは凄いな。彼はそんな事も考えた。


レオンは本当に速水の為になるであろう行動を取れなかった。

異邦人、あるいは異質な人間をもてあまし、あと一歩を踏み込めなかったのだ。


もしかしたら、持病でもあるのかとは思っていた。


何の薬か聞くべきだった?

――いや、アイツが言うまで待とう。プライバシーは大切だ。

エリックは知っているようだし…それに自分の事だ。よほど何とか出来るだろう。

レオンはそう思った。


アンダーを出た後、すぐに日本へ帰すべきだった?

――いや、残りたいと言ったのはアイツだ。

それに残れと言ったのは俺だ。

レオンはそう思った。


…どうすれば本当に速水の為になったのか。

レオンはパソコンに目を落とした。


ネットワークを潰したい、目的は同じだったはずなのに。

同じ方向を向いていたはずなのに。――俺は。


「…習い性ってやつか……」

レオンは後悔も露わに呟いた。


ノアはレオンを気遣わしげに見ていた。

そして考える。


「レオン…エリックは大丈夫だと思う…根拠は無いけど。助けてくれるかは分からないけど…」

ノアは言ってみたが、本当に根拠は無い。


本当にエリックはネットワークの、ジョーカーの手下なのだろうか?

速水の事をどう思っているのだろうか?――実験動物?モルモット?まさか金づる?

…あんなに、仲が良さそうだったのに…。


「ああもう!俺、エリックに会いに行く!!ハヤミと話を――、ってレオン…、さっきから何いじってるの?」

立ち上がったノアは、不思議に思ってレオンに聞いた。

レオンは先程からノートパソコンで、ディスクを入れたり出したりしている。

「…ノア、ちょっと待ってろ。俺も行く」

レオンは呟いた。どうやらディスクのデータをコピーしているようだ。


「はぁ?お前も行くならさっさとしろよ!何それ?」

ノアは椅子に乱暴に座って肘をつく。


「…ああ…」

レオンはそう呟いたきり返事は無い。レオンは酷く真剣だし、何か重要な物なのかも知れない。

メカオンチのノアが見ても分かるとは思えないので、待つ間、ノアは自分のこれからを考える事にした。


…本当、二人ともどっか抜けてるって言うか。馬鹿だって言うか。

俺がいたら多分まだマシだった。――かも知れない。


ノアは、速水の為にイアンについていくしか無い。だが、それでどうなる?


(速水の安全はジョーカーの気分次第だってイアンは言った…)

ノアは舌打ちした。

サロンはネットワークとは多少は違うのだろうが、ハッキリ言って似たような物で、ほとんど一部で。もちろんノアの怨嗟の対象だ。

だが今、一番憎いのは。


「ジョーカー!…くっそ、もし会ったらぶん殴ってやる。ベスを何で殺したって…。ハヤミに謝れって…!!」

ノアは一人拳を握った。

ノアの覚悟はとうに決まっている。アイツをぶん殴るために、イアンと行く。

ジョーカー候補とか、絶対嫌だけど。


部屋の外ではイアンが待っている…さすがにそろそろ痺れを切らしているだろう。


「レオン。俺はハヤミに会ったらイアンと行くけど。お前はこれからどうするんだ?」


問われたレオンは顔を上げてノアを見た。

…レオンは懐から紙を取り出し、テーブルに広げて置いた。


「ノア…ハヤミが最後の力を振り絞って、ネットワークを潰す為の計画を立ててくれた。俺はお前に、絶対協力して欲しい。見て見ろ」


ノアはレオンが取り出した紙切れを見た。―速水が?

速水はぱっと見は無鉄砲そうだが、かなりの策略家だ。どんな凄い計画を――ノアは紙を手に取った。


そこに書かれていたのは、たった五行。


「は?…何コレ?」

ノアはあっけにとられた。


「これで行くんだとよ。大マジだったな。あいつ、馬鹿だろ」


ノアは紙を眺めた。

「…超シンプルだね。って言うか雑…馬鹿野郎だ」

舌打ちする。


「ああ。だがもうこれで良い気がしてきた。実は…まあ、言うが…それを貰った後。あいつと本気で喧嘩したんだ。殴り合いの」

「へえ?どっちが勝ったの?」

ノアは紙を見たまま言った。

レオンは相当強いが、速水もアンダーで腕を上げた。速水は技の吸収も早く、身体能力、センスもある。特殊兵にもなれる逸材かもしれない…。って、あれ?そうだ、俺たち…ダンサーだった。ノアはちょっとげんなりした。


げんなりしたノアが紙を置き、レオンは続ける。


「まあ、勝ったが。…全く。速水はマジでイかれた、馬鹿みたいなヤツだな。…そのくせ、アイツ地上に出てからずっと、うじうじうじうじ。知名度ならお前が適任だって言っててな。俺はハヤミに我が儘言うな覚悟決めて闘えって言ってキレて、そんなに嫌ならダンスやめちまえって言ったが…、もともと、あいつは無理だって思ってたんだろうな」


レオンは項垂れた。

ダンスをやめちまえと言われた速水は見事にキレて、『俺に何でも押しつけるな!!俺だって平気じゃ無い!!』と言ってレオンの襟首を掴んで殴りかかった。

その後は叫び合いながら乱闘だ。


「覚悟が無かったのは俺の方だ。この先アイツはどうなるか分からない。だが、俺はネットワークを潰す。…俺はこの馬鹿な計画の通りに、ダンスで世界を変えるんだ。――俺はそう言うつもりだが。お前はどうする?」


レオンはノアを見て、静かに笑っている。答えが分かっているからだ。


「もちろん。俺も協力する!――」

ノアは目を輝かせた。


レオンは急にうつむいた。

「…アイツはな。お前のダンスがかっこよくて、いつもあんな風に踊りたいって、思ってたんだとよ――ホントに、馬鹿な奴だ…」

涙声。


「畜生…。…何だろうって、見てみたらこれなんだよ……!!」

レオンが肩を震わせた。

「レオン…?」

ノアが立ち上がって、レオンの脇からノートパソコンを覗き込む。


「これ…!!」

ノアはパソコンを奪い取り、下手くそな操作で画像を見る。


「…あいつが、持って来やがった」



エリックの育児日記と、エリーの写真。



情報は全部USBに入っていた。

ただし、日本の…調べれば絶対分かる宇野宮の連絡先のみ。

あとは、渡されたディスクが全てこれだ。

レオンはそう言った。


賑やかそうな少年、優しそうな老婦人。


少し大きくなったエリー。元気そうで…。笑ってる。


ノアはベスがいなくなって、呆然として…でもエリザベスが居るから、と歯を食いしばって立ち上がった。


ずっとずっと、会いに行きたかった。


速水は、データを持ち出す事が出来なかった?

あるいは消された?これだけ、何とか持ち出した…。


…ノアはボロボロと泣き出した。



「ホント、あいつらしい…」

レオンが小さく呟いた。


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