第11羽 速水 ①ジョーカー -4/4-
むかつくサイケ女と最低なジョーカーが去った後、速水は床に座りこんでいた。
ジョーカーは最後に『サラを解放しろ』と俳優のアランに電話していた。
どいつもコイツも、よってたかって。
「エリック…俺、何かしたか…?」
呆然と、速水はつぶやいた。
俺が何をしたって言うんだ。
俺はただ、ダンスが好きで、すきで、すきで、すきで、気が狂うほど好きで。
ただすきで踊ってただけだ。
もう全てに腹が立った。
馬鹿みたいな理由で、ジャックが死んだ。
――違う。俺のせいで、ジャックが死んだだと!!
■ ■ ■
三月四日。…ここは日本。
休日の夕方だ。
「あ、これジェスターの新曲だ。買ってくか」
若い男性が、CDショップで一枚のCDを手に取った。
裏返す。
ジャケットには、空と境界の無い、青い海を眺める黒髪の人物。
ほとんど背を向けているのでどんな人物かは分からない。
「ファンなの?」
若い女性が聞いた。
問われた男性はCDを裏返す。
モノクロ、暗い街の中に佇む青年。
「ああ。誰だコレ。――お。ああ。日本人は初めてだな。サク・ハヤミ…二代目JACK?知らないな」
「あ、私!その人知ってる。ブレイクダンスの人!」
「えっ、何で?お前、ダンスとか?」
「だって、ええと、あれ?ジャックって、ヤフーで見たような…。何か事故の――」
「ああ、あったな。そう言えば…って、こっちのコーナーの人か」
――如月隼人は、その会話を聞いていた。
当然、速水が出たCDとDVDを買いに来たのだ。
本人からの連絡は無かった。
ネットの告知もギリギリまで無かったらしく、少し前にテレビで大々的に宣伝され初めて知った。
言ってくれればいいのに…。
「JACKベア?買おうかなー。でも不細工」「レジ行って来る。…ついでに買うか?」
恋人達が去った後、隼人はCDを手に取った。
店員に『ついに出た!!今年のアイコンは悲劇を乗り越えた、あの『JACK』の後継者!!曲もダンスも最高の出来!!』と説明書きで大プッシュされ、小型のディスプレイでテレビで見たPVが流れている。
隣にしっかりジャックコーナーが出来ていて、そこに並んでいるのは速水がジャケットの『DVDブレイクカルチャーvol.3』…先代ジャックが出演したのはvol.1だったか。
その横には『ブレイクバトルトーナメント 2010 』『ブレイクバトルトーナメント 2011』
コーナーにはちゃっかり人相悪いクマと、もちろん先代ジャックのDVDも並んでいる。
…こんなにプッシュされてるとは思わなかった。
ここに来る途中も駅の柱にずらりとポスターがあって、隼人はたまには街に出ないと、と思って苦笑したのだ。
――隼人は知るよしも無いが、速水がPVとDVD撮影したのは、一月八日から一月すえにかけての事だった。
(サク、…いや、ジャック。頑張ってるみたいだな)
隼人は微笑んだ。彼はようやくジャックになったのだ。
画面の中で踊る速水を見ていると、誰かがさっとvol.3だけを手にとって買って行った。ごく普通の男性だった。ダンス好きなのだろうか。
休日なので店内は賑わっている。
…中高生、どう見てもダンスやってそうな若者達がいる。
「あー、サイン会とか…。やっぱり無いのか?」「去年ユーディやったよな」
「クランプって入ってるのか?」「さすがにないっしょ。まあ買ってこ!」
良かった。ちゃんと男性にも売れてる…。
隼人は変なところでホッとした。
やたら女性人気の高い速水は、ステージ時代から良くカミソリレターを貰ったりしていた。
ジャックが死んだ後はしつこい殺害予告状とか、海外からの怪しいプレゼントとか、果てはちょっとした爆発物までもらっていたりしたっけ…。
隼人は苦笑する。
最近、彼から連絡が無いけど、この分なら相当忙しいのだろう。
いい加減、僕も子離れ?しないとな。
頑張っているならそれでいい。
隼人はそう思っていた。
■ ■ ■
隼人がCDショップを出て、街中を歩いていると、携帯が鳴った。
カラスが一羽、街を歩いていた。
この着信音は…。
「もしもし?」
『隼人さん、あの…今、大丈夫ですか…』
もちろんいとこの小雪だ。
「うん。外に出てるけど大丈夫」
隼人は周囲を見て、道の端で立ち止まった。
『実は、相談が…』
〈おわり〉




