第2話 レオン -2/3-
-登場人物-
サク・ハヤミ(17)…主人公。二代目JACKと呼ばれる天才ブレイクダンサー。黒髪ショート、キツイ目つき。服装は全て黒。キャップ愛用。漢字だと速水朔。日本人。
レオン(24)…茶に近い髪色。背が高い。イケメン。
ノア(16)…金髪碧眼の美少年。肩くらいの巻き毛。首の後ろで髪を結んでいる。ハヤミとほぼ同じ身長。ベスとは恋人同士。
ベス(20)…紅一点。赤髪、金に近い目。髪型はつまり新妻エイジ。背も高めでスタイルも良い。
「俺は、確かにダンサーだけど。何で分かったんだ?」
水を飲み干し、速水は聞いた。
「それは、俺たちも踊りをやるからだ。ここはそういう人間しか来ない」
レオンが答えた。
「!?踊るのか…?―彼女も?」
「ええ」
ぎょろりと速水に見られ、ベスは少しムッとしたようだ。
「でも何で、その…推薦されたんだろうね?日本人攫うとか、結構リスク高いんじゃないか。ハヤミさん今何歳?」
ノアが速水のカードを弄びながら聞いて来た。
「十七だけど」
速水はそれだけ言った。
「何か、大きな大会とか出たりしたの?プロ?アマ?」
そうノアに聞かれたので、速水は経歴を適当に話した。
六歳くらいからブレイクダンスを始めて、一年半ほど前、タッグ…二人組で世界大会優勝。
その直後、相方は事故死。
「…で、この前はソロで出て準優勝だった」
ジャックの事はあえて省いたが、速水は何だか予感のような物を感じていた。
シーツを除け、ベッドから出てその端に座る。
「…聞いて良いか?」
「多分、そうなんだろうけど。ジャック―、ジョン・ホーキングってここの出身か?あのクマの好きな。俺、あいつと組んでたんだ」
速水の言葉に、皆がポカンとした。
「ジャックだって!?」
レオンが驚く。
「―!!?ちょっと待て!?じゃあ死んだって、ジャックのこと!!?」
「うそっ!?まさかそんな!信じられないわ!事故!!?」
ノアとベスが速水に詰め寄る。
「そうだ、彼が死んだだって!?」
レオンも気がついた。…乗っただけかもしれない。
とにかく三人が速水の近くで騒いだ。
「うるさい」
速水は黙らせた。三人は我に返った。
「…悪い。ハヤミ。ジャックと組んでたって…日本で会ったのか?」
レオンに聞かれるまま、速水は話す。
――バイト先でジャックと出会い、一年半ほどダンスを教わった事。
俺と組まないかと誘われ、ジャックにくっつく形で大会に出場した事…。
ジャックが死んで、代わりに踊り続けることにした事。
そのうちに、ジャックと呼ばれるようになった事――。
「…」
話を聞いた三人は、どんよりとしていた。
レオンが口を開いた。
「それなら仕方無い…、君は運が悪かったと思って、ここで頑張るしか無い」
ぽん、と肩を叩かれた。
速水は、レオンの態度に内心いらついた。
――運が悪かっただと?
レオンは、速水が攫われたのはジャックに関連した、いわば仕方の無いこと…と言いたいらしいが…。こんな、人攫いが許されて良いのか?
速水の親だって心配を…。
…彼は親とは、中学時代から絶縁状態だった。
隼人は速水が仕事でアメリカに行っていると思っているから、気がつかないかもしれない。
しかも電話するなと言ってしまった…。
しかし、速水が居なくなったら、仕事先に迷惑がかかるし違約金も発生する。
それは金があれば…ごまかせる?
…こんな手の込んだ誘拐をする組織だ。金はあるに違いない。
下手したら、速水が消えても、あっさり隠蔽されて終わり?
…やばい。
そこまで一気に考えて、速水は青ざめた。――全く笑えない。
「…ここのルールを説明してくれ」
速水はそれだけ言った。
「ああ…、今から教えてやるよ。ノア、カード貸せ」
「ん。どっち?」
「どっちもだ。ベスも貸せ」
「はいはい」
テーブルに置かれたのは、プレイングカード…いわゆるトランプと、速水の受け取った物と同じ硬質カードが三枚。
速水の物を合わせると四枚。硬質カードは全て絵柄が違う。
この三人が、これをそれぞれ持っていたと言う事は…。つまり。
「俺はダイヤのキングで、ベスはクイーン。ノアはエースだ。ええと…ハヤミだったか?『スート』って意味分かるか?」
「スート?…いや」
余り使わない単語だったので、速水は思い当たらなかった。
「『スート』って言うのは、トランプの絵柄のことで、ハート、ダイヤ、スペード、クラブのことなの」
「ああ。なるほど」
ベスの親切な説明に速水は頷いた。
レオンが続ける。
「俺たちはダイヤのグループ。ここでは同じ組のメンバーをファミリーって呼んでる。各スートに、絵札…ジャック、クイーン、キング、あとエースが居る。絵札の四人が最高ランクで、この四つに優劣は無い。もちろん各スートのメンバーは十三人ずつ。合計五十二人。一応皆ダンサーだ。それで、おおざっぱに言うと、各ファミリーで競い合うんだ」
「なるほど…」
と言う事は、ジャックは後三人…ダイヤ、ハート、スペードにもいると言うことになる。
確かにトランプを模しているならそうなるが、複数いるとは。
だがなぜ競うのか。