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第10羽 追徴 ②ダンスパーティ /全員美形 -5/5-

もちろんその後にクリフは笑い転げ、キースもアビーも笑った。

ベイジルまで苦笑していた。唯一、イアンは思考が追いついていない様子で呆然としていた。


そして今。場所をテーブルに移し、速水がアビーの提案で新しいサインを考えている。

レオンはその端で溜息をついた。

「そうだよ…。コイツ、サインに『サク・ハヤミ』って…」

レオンの向かいではイアンがなぜかどっぷり落ち込んでいる。


そう言えば速水は、サロンでファンらしい女性達にサインを求められた時、名前をローマ字でそのまま書いていた。

その女性達は喜んではいたが、多少あっけにとられていた。

それでも営業スマイルで、…対応だけは華麗だった。

そこでレオンは気が付くべきだった。

だがレオンも流れて来た女性達のサイン攻撃に遭っていて、それどころでは無かったのだ。


速水はサインペンを握って、途方に暮れている。

「サインとか…どうすれば良いんだ…」

ウィルにどっさり貰った色紙の余り、その下書き練習用の適当な紙も白紙のままだ。

「JACK2って大きく書いて、トレードマーク、そうね、ウサギとか書けば良いわ!」

アビーは言った。

「ウサギはアビーのだろう。失礼…っ」

ベイジルが苦笑している。彼的には爆笑らしい。

「他に何か無いのか?好きなものとか。字下手クソだしJACKだとサインが短いからな…」

クリフが聞いた。


「歌は好きだけど。音符描くか?」

速水は言った。

「何言ってんだ。おまえダンサーだろ」

キースが呆れて言った。

「あ!スマイル―、ジャックベアってあったじゃない」

アビーが言った。

『スマイルジャックベア』は先代ジャックのマスコットだ。

「ああ…」

速水は思いだした。そう言えばそんなのあったな…。

悪魔の羽が生えた、フォーク?を持ったクマ。舌を出して牙を剥いた人相の悪い…。


「けど、ジャック、君は絵心ある?無いなら悲惨だし止めとけよ」

クリフが言った。

「少しは。ラテアート用に練習した。えっと確か…」

速水はサラサラと色紙に描いた。羽を大きめに描けば、バランス取れるだろう。

その中にJACK2ndと入れて、端っこに名前?


「おっ、上手いな」

キースが言った。

「…うーん…、今ひとつだな」

速水は無駄に凝り出した。紙に練習する。

しかしなぜか描く度に熊の相が凶悪になっていく。

「もうこれで決まりだ。全く」

レオンは適当に一枚取り、ほら、コレと同じの人数分描け。日付も入れろ。

で、ここに居る皆様にお配りしろ。そう言った。


「分かった…」

速水はせっせと色紙に描き出した。

ふとペンを止め。


「レオンって、やっぱり頼りになるな」

なんて事をほざいたので、もちろんレオンにどつかれた。



■ ■ ■



その後連絡先を交換し、一足先にアビー達は帰って行った。

アビーはまだ居たいと言っていたが、やはり予定があるらしい。


意外にもウルフレッドが名残惜しそうにしていた。

「愛って大切よね…」

なんてまともに呟いていたので、速水は一応同意した。



「じゃあ、明日踊りに来いよ」

「ああ」

軽い感じのキースが言って、無口なイアンと共に帰って行った。


「さて、お次はパーティか…。もう良いって気もするが、一応準備して行くか…」

速水とレオンは準備することにして、三階に上がった。

速水はウィルも行くかと尋ねたが、今日は忙しいらしい。

ルークに捕まっていたウィルに出来上がったサインを見せたら、『このクマ、二、三十人は人喰ってそうだな!』と言われ余計笑われた。



「なあ、レオン。エンペラーって、ちゃんとサロンを監視してるのか?」

レオンの客室で速水は聞いた。


「そりゃ、してるって噂だ。ミスターの言葉じゃ一応、七日までにつなぎ役が来なきゃ、今回は空振りだろうってさ。お前がサボった日に聞いた。キースとかイアンとかいかにもそれっぽいのがそれだと助かるんだが」

レオンは答えた。


Mr.ジミー曰く、今はサロン期間中にコンタクトが取れなければ脈なし、と言うシステムらしい。

「ああ、あの日か…」

速水は一度行った場所だったので、その日は海へ夜景を見に行ってサボっていた。

レオンと、海へ行った速水はジミーのお眼鏡には適ったらしい…。レオンは対人交渉が上手いので速水としてはとても助かっている。


「そう言えば…レオン、お前なんて言って回ってるんだ?」

そんな感じで、速水は全て丸投げしていたのでレオンがどう言ってエンペラーに会おうとしているのかさえ知らない。

「お前な…。まあ、大した事じゃ無い。これから反ネットワーク活動をするからエンペラーに挨拶したい、後は『二代目になりたてのジャック』がいれば大分違うとかだな」

レオンは『二代目』の辺りはやや棘のある口調で言った。


「なんにせよ、まずはエンペラーに会ってみないとな…、と。そうだ。お前に一つ言っとくんだった」

ベッドに腰掛けてレオンが言った。

「何だ?」

また説教か?速水は座ろうとした。

「…そのままで良い。俺もお前も、正直、好き勝手にそれぞれやってた訳だが…いい加減この辺りで、方針のすりあわせをしとこう」

「今更な気もするけどな」

速水は言った。


だが、そう言えばそんな事を一度たりともしてない。

地下から出て以来のレオンと速水の関係は『適当につるんでいた』…まさしくそれだ。


「レオンはエンペラーに会えたらどうする気だ?」

速水は聞いた。


レオンが珍しい表情をした。

「実はな。…今更言いにくいんだが」

「何だ?」


「実は俺はサロンを説得はするつもりだが、その力を借りる気は毛頭無い。どうにも、このネットワークっぽい、お堅い、お高い感じが性に合わなくてな…」


レオンは頭を掻いて言った。

そして笑う。いつもの不敵な笑みだ。

「俺はエンペラーに会ったら、俺たちの活動に手を出すなって言う気でいる。…条件を向こうが呑むかは知らないが…。要は、ワルツなんかやってふんぞり返ってる金持ちはすっこんでろって話だ。別にワルツが悪いわけじゃ無いが、俺はKRUMP派なんだよ」


速水も笑い返す。やはりレオンとは意外に気が合う。


だから代替策を考えてくれ、レオンは速水にそう言った。

「今までサボってたんだ。それくらいしろよ」


「…わかった。頑張る」

肩を叩かれ、速水はようやく二代目ジャックの自覚が出て来た。


「じゃあ、ここにいる奴らと組んで、反ネットワーク活動やってくのか?俺をダシに断ってるみたいだけど…誰か良さそうなのはいたか?」

速水はたずねてみた。

コミュ障気味の速水から見ると、組みたいと思うほどの相手は特にいない。

だが社交的なレオンの意見は違うかも知れない…?


「いや…個人で付き合うならって奴は居るが、本気でやるとなると、どれも危ない橋だ。向こうがそこまで本気かって見極めには時間がかかるし、所詮サロンはネットワークの一部だしな…金持ちのスポンサーも、下手に貰うと動きにくくなるだけだ」


ここのダンサー連中は地下で何処に繋がってるか分からないし、サロンに出入りするお高い金持ちの活動は、主に資金援助。

別に資金はあっても良いが、無くても同じだ。


「スパイとか普通に居そうだよな…」

速水は頷いた。レオンの言うことはもっともだ。


「ああ。と言うか…ダンスはそもそもが、それぞれマイナージャンルだから、歌手ほど目立ったのがいない。だから俺程度でも寄って来るんだ」

レオンは苦笑した。


「レオン…。映画三本出ててそう言うか?お前、ほとんどど俳優だろ…」

速水は呆れた。

レオンが出たのは有名なクランプダンスの映画、『ブラザー』一本だと思ったら、そんな事は無かった。

…レオンはかつて、泣く子も笑う美少年で通っていたらしい。

活動したのは十三歳から十七歳、スクールに来る前の短い間らしいが…。


「どれも端役だったし、『ジャック』程じゃ無い。大分容姿も変わったしな…」

レオンは言った。

レオンは今も美形だが、ぱっと見では彼がその子供と分からないだろう。

実際速水もホームに放置してあったDVDのパッケージをなんとなく見て、レオンの仲間に『その端っこの子供、若旦那だぜ』と言われて目を疑ったのだ。…思わずレオンを二度見した。


映画はひとまず置いておくとして、ダンスのジャンルの細分化、各々の知名度の無さ、それが活動しにくい理由にもなっている。

その点で行くと、速水はかなりアドバンテージがある。

ブレイクは世界四大ダンスと言われるほどメジャーだし、『ジャック』の名前は普段ダンスに興味の無い一般人にもかなり知られている。

「ジャックに感謝しないとな」

速水は言った。

「ああ。お前も、これから毎回名乗って、実績を積むんだな。っと時間か…お前も準備しろ」


話し込んでしまった。

「レオン、そうだ…結局、アビー達はどうする」

速水はふと呟いた。


「ん?ああ。どうするかな…曲はいいが…決め手に欠けるし、メンバー一人欠けてるし、向こう側じゃ無いとは言い切れない。お前は組みたいのか?」


アビーは今はボーカル&ギターだが、本来ギターはジャックがやっていたらしい。

昨日会ったばかりだし、その辺りの事はまだ詳しくは聞いていない。


「いや。あ。そうだ…レオン。ウルフレッドに任せてみようか」

思いついて速水は言った。

それなら仮にハズレでも、害はまだ少ない。


まだ完璧な飼い犬では無いが、いずれ飼い犬になったら色々世話をしないといけない。

…彼をあんな風にしてしまったのは速水なので、ちゃんと責任は取るつもりだった。


「なるほど。それが良いかもな」

速水の考えが伝わったらしく、レオンは苦笑する。

「メールくらいから許可しようか…あ。そうだ」




「あの野郎…」

レオンは忌々しげに呟いた。

結局、速水は『サロンの要らない策』を考えると言う理由で留守番を買って出た。


今夜のサロンでは特に収穫も無かった。

年が明けて五日目。

アビー達を初め、収穫済みまたは脈無しと判断した連中はさすがに引き上げ始めている。


「まあ、もう皆引き上げてるな…ふぁ…」

…金持ちは飽きるという事を知らないらしい。

レオンはさすがに飽きてきた。あくびをする。一応運転手兼ボディガードも連れて来たが、彼も退屈そうだ。


「ん?」

その時、携帯が揺れた。


「何だ?──」


相手は速水。

犬の散歩がてら海へ行きたい。早く帰ってこい、彼はそう言った。

…お前は何様だ。

「はぁ?今からか?ああ、はぁ…分かった。もう帰るとこだから拾ってやる」

『あまり早くてもな。別にレオン達が着替えてからで良い。十一時頃出かけよう』

速水に言われ、レオンは文句を言いながら会場を後にした。


…レオンが去った後も、煌びやかなパーティは続いていた。


〈おわり〉

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