第2話 レオン -1/3-
-登場人物-
サク・ハヤミ(17)…主人公。二代目JACKと呼ばれる若き天才ブレイクダンサー。
黒髪ショート、キツイ目つき。服装は全て黒。キャップ愛用。漢字だと速水朔。
そこはビジネスホテルのような部屋だった。
入ってすぐに簡易キッチン、冷蔵庫。向かいにシャワールーム。
ベッドは二つ。窓は無い。
そのベッドの入り口から遠い方に、誰かが横たわっていて、それを二人の男女が見下ろしている。
「…まだ起きないわね」
「量、間違えたんじゃ無いかな?っていうか東洋人だろ?遠かったんだよきっと。どうする?見てても仕方無いし、レオンはまだ来ないだろうし、どうせなら―」
金髪の青年が、ベリーショートの女の赤い髪に手を伸ばす。
彼女はおそらく成人。ベリーショートと言っても、耳の横だけ髪を伸ばしている。
この二人は恋人同士のようだ。
金髪の青年は水色のTシャツ。ブルー系の迷彩のチノパン。
女はジーンズに真っ赤なTシャツ。
金髪の青年は巻き毛を少し伸ばし、白い紐でひとつに結んでいる。
青年の額に掛かった、ややうっとうしそうな髪を、女性が払う。
「…何いってるの。途中で目覚まされたら、何て言うのよ?それにここ、レオンの部屋」
女は金色の目で金髪の青年を睨んだ。
ドアが開き、背の高い、茶色い髪色の男が入って来た。
「ノア、ベス。お前等暇だな…多分、まだ起きないだろ」
この男は、金髪の青年よりは年上のようだ。掘りの深い顔立ちで、髪は短い。
服装はジーンズに白い襟付きシャツ。着崩して、ラフな印象だ。
「そりゃ俺はいつも暇だよ。…レオン。トレーナーは何て言ってた?」
ノアと言われた青年が返す。
「全くいつも通り。起きたら適当に説明して、俺が面倒見ろってさ」
レオンは頭をかきながら答えた。
「なら、やっぱりジャックになるのね?大丈夫なの?」
ベスという女性が聞いた。
「まあ、それなりの奴だとは思う。上じゃ有名なのかもな。しかし若いのに、馬鹿だよな」
レオンが向かいのベッドに腰掛ける。
「お前が言うなよ」
ノアは呆れた様子だ。
…彼等が話しているのは、英語だった。
「幾つくらいかしら。だってこの子凄い子供じゃない?十五?」
「さあ?あー、暇!早く起きないかな。カードで遊ぶ?」
「お前等、暇だな…」
「レオンもどう?ベス配って」「ポーカーで良い?」
しばらく三人は、空いているベッドの上でカードゲームをした。
――頭を右手で押さえた。ガンガンする。
「…ん…」
眉をしかめて、目を開ける。
「おっ!起きた!」
ノアが目を輝かせる。
「…?」
ぱち、とベッドの上の少年の目が開かれる。
「おはよう、ジャック。いや、まだ分からないか」
レオンがほぼ真上から、少年を見下ろして言った。
「…?」
少年は、「は?」と言う顔をした。誰だコイツ。
「君、起きられそう?具合は?」
ノアが身を乗り出して聞く。
少年は顔を少し横に向け、「え?」と言う表情をした。
…目を開けると、少年は余計幼く見えた。
彼は布団にくるまったまま、黒く大きな目を見ひらき、時折まぶしそうに目を細めながら、周りの三人を見ている。
どうひいき目に見ても、状況を理解しているようには見えない。
まだ薬が効いているのか、目をこするしぐさも緩慢だ。
「…?…ねえあなた。英語話せる?」
ベスがしゃがみ、首を傾げて言った。
もしかすると、言葉が通じていないのかもしれない。
「…??いや。え?…、イエス、宇野宮は?」
少年は日本語でそう言った。辺りを見回す。
「?ウノ?」
ベスは眉を潜めた。少年はyesと言ったが、他は日本語で分からない。
「どうする?」
ノアはレオンを見た。
「…、英語は分かるか?今から英語で話せるか?自力で身体を起こせるか?」
レオンは注意深く言って、ベスの隣にしゃがみ、少年に目線を合わせた。
少年は頭を左手でおさえ、ベッドに右手を突きゆっくりと身体を起こす。
…理解は出来ているようだ。
ノアが手伝った。
「…アンタは誰だ?」
起き上がった少年が英語で喋った。三人に十分伝わる発音だった。
「なんだ話せるじゃないか。良かった。俺はレオン、これから同室になるから、よろしく。仲良くやろう。ああ、君の名前は?」
言葉が通じるなら面倒が無い。レオンは手を差し出した。
しかし少年は、差し出された手をじっと睨んだまま、動かない。
「…ここ、どこだ?」
そしてキツイ目つきで言った。
「ドコって、それは俺たちにも分からない。けど来る前に説明あっただろ?」
「…説明?」
少年が全く分からない、と言う顔をした。
三人は顔を見合わせた。
「…ねえ、あなたの名前を、とりあえず教えて」
ベスが代表で口を開く。
「ハヤミ、サク」
速水は混乱していたので、日本語の順番で姓名を名乗った。
「ハヤミね。私はエリザベス。ベスって呼んで。あなた、契約書、ちゃんと読んだ?」
「契約書?何言ってるか分からない…いきなり…」
速水は戸惑ったように髪をつかんだ。
必死に頭を落ち着かせ、記憶をたどる。
確か―。
宇野宮という警官が訪ねてきて、ライブハウスに行って―、奈美とか―。
いきなり、気が遠くなって。
そして、目を覚ましたらここにいた。見知らぬ場所、見知らぬ外人。
つまり。
――あの警官が、俺をハメた!?
「…くそ…っ!あいつ!!」
速水は舌打ちしシーツを握りしめた。ベッドを叩く。
うかつだった!
間違いない。
奈美と言う女性を人質に取られていた宇野宮は、ジャックをだしに速水をライブハウスへまんまと誘い出したのだ。
ホールで気が遠くなったのは、何か嗅がされたからだろう。殴られたりした訳ではないようだが…!
だが、一体だれが?
この三人は犯人とは無関係な気がする。速水と同じ、被害者という感じでも無い。
「おい!ここは?どこだ?」
ようやくまともに頭が動き始めた速水は、周囲をせわしげに見回す。
―ビジネスホテル?
「待て、ちょっとコレでも飲んで、落ち着け。君は、チャイニーズか?」
レオンが水を持って来た。
「違う。……日本人だ…」
速水は肩を落とした。
まだ混乱してはいるが、おおむね、自分の置かれた状況が理解出来てきたのだ。
三人とも、おそらくアメリカ人…となると…、まさかここは、日本では無い?
部屋の造りはビジネスホテルのようだが…、速水は様式の違いを感じ取っていた。
「ジャパニーズ?まためずらしいな。けど、まさか何も聞いて無いの?」
ノアが言った。
「ハァ…、おい、レオンってやつ」
「…」
速水にぶっきらぼうに言われ、レオンは少し眉を動かした。
「俺は、まだ混乱してるけど…、…多分、誘拐されてきた。説明とか一切無しだ。――犯罪だろこれ!日本に帰る方法はあるのか?」
誘拐。
その単語に、三人が驚き、顔を見合わせた。
「…推薦か…」
そして真ん中のレオンが天を仰いだ。
「って事は、君はやっぱり、ダンサーなんだな?」
レオンに言われ、速水は目を見開いた。
「…そうだけど、お前は俺を知ってるのか?」
「いや、俺たちはもうここに暫くいるから、上の事は知らない。君はメンバーの誰かに推薦されて、攫われたんだ」
レオンは同情を顔に表していた。可愛そうに…と言った感じだ。
「なっ!?…はぁ!!?………嘘だろ……」
速水はベッドの上で、頭を抱えた。
「ジャック」
ベスにそう言われて、速水はがばっと身を起こした。
「…!!」
至近距離で目が合い、ベスが驚く。
「このカード、あなたのだけど…」
そう言って見せられたのは、ダイヤのジャックだった。
「…!!それは――!!」
速水はそれをベスから奪った。
速水が封筒に戻し、PCデスクに置いたままだった硬質カード。
「…そうか、『ネットワーク』!!?あの手紙の!?」
意外な配線がつながり、速水は愕然とした。
「これが来たのは知ってるのか」
レオンが言った。
速水は悄然と項垂れた。
「ファンレターに混ざって、ダイレクトメールだと思って、気にもしなかった…家にあったはずだけど」
そして速水は、今の自分の持ち物を確認した。
ポケットにケータイと財布を持っていたはずだが…。
「…何も無いな」
「帽子があったよ。そこにある。靴も」
ノアがベッドの脇を指さした。確かにある。
「…」
この状況でそれは喜ぶべきなのか?
頭が別の意味でガンガンする…。しかし、ようやく手足にまともな感覚が戻ってきた。
「とりあえず、水をくれ…」
-登場人物-
レオン…外人。茶に近い髪色。背が高い。イケメン。
ノア…外人。金髪碧眼の美少年。巻き毛。首の後ろで髪を結んでいる。ハヤミとほぼ同じ身長。
ベス…外人。赤髪、金に近い目。髪型はつまり新妻エイジ。背も高めでスタイルも良い。美女。