第10羽 追徴 ①サロン /12月24日 -3/4-
仲間の運転で、レオンと速水は大陸を縦断していた。
黒い車が二台続く。後続車にはボディーガードが二名。
コーディネートは犬に頼んだ。おかげで早く出発が出来た。今はまだ普段着。
周囲はまだ市街だが、道は大変空いている。
この調子なら、余裕を持って宿泊先に着くだろう。その後着替えて再出発だ。
招待状にはブラックタイ、つまりタキシードで来お越しくださいと書いてあった。
犬が速水に選んだのは黒いシャツに、赤いタイ、同じ色のチーフとか…。もう何も言うまい。
ピンクじゃ無いだけ良しとしよう。
「…ったく、お前のせいで、俺の株がまた下がる。後で絶対言われる…って言うか、下ごしらえまで」
レオンはまだぶつくさ言っている。
…立ち去った後、部屋から笑い声が聞こえた。
「…少し置いた方が味が馴染むし…」
速水は言いながら後悔していた。あの七面鳥は…出来れば自分で食べたかった。
せめて皆に喜んで貰えるだろうか。
「食いたかったな…お前、料理は馬鹿に上手いからな…。まあ、パーティか…。そっちはどうだろうな…」
レオンもやや未練があるようだ。
「そうだ、レオン、俺、年開けたら引っ越すから。最近体調も悪く無いし。審査の要らない物件、幾つか紹介してくれ」
速水は言った。
「何だ?いきなり。…いくつかって選ぶのか?」
「一応。あと犬小屋…」
ウルフレッドに関しては、速水は少し罪悪感を抱いていた。
…やり過ぎたかも知れない。
「それは良いが、もう少しあそこにいた方が良いんじゃ無いか?」
レオンは気づかわしげだ。
あの部屋は、元々、組員の為の部屋らしい。
蜘蛛の巣が張っていたが最低限の家具はそろっていた。
「…お前な。俺に掃除させる気だろ」
スクール、アンダー共に、レッスン中にハウスキーパーが入っていた。…それに慣れきったレオンには『日常生活には掃除が必要』という概念が無かった。
レオンの家は無いのかと聞いたら、クランプの師匠の所にいたり、ホームに泊まったり。路上だったり…。うらぶれた答えが返ってきた。
「まあ、近くならいくつかあるから見繕っとく」
車はようやく市街を離れ、何も無い荒野を進んでいる。まだかかる。
速水はジャケットを脱いだ。
「お前、今何歳だった?そういやちょっと背が伸びたよな」
唐突に言われた。
「?この前十九になった」
十二月二日。丁度ベスが死んだ日に。速水はそれを言わなかった。
「じゃ、アルコールはやめとけ。あそこはそう言うのに五月蠅い連中の集まりだ。問題は起こさないで、大人しくしててくれよ」
レオンはそう言った。
■ ■ ■
ここは豪華な建物…どうやら市庁舎らしい。
中心にドームがあって、両翼に建物が広がる、つまりホワイトハウス様の造りで、良くある鉄柵、白を基調とした外観。
速水は車から降りた。
ワルツは出来るかと聞かれ、できると答えた。アンダーでレッスンがあった。
が…あまり好きではないし、面倒なので誘われないように気を付けよう。
移動だけでかなり疲れた。
…この街は海が近いからか、カモメが鳴いている。
これはもちろん速水にしか聞こえない。
後続車からレオンの仲間が二人降りて来る。
中に入ってすぐは広い、真っ白なエントランス。…見事な丸天井。綺麗な建物だ。
長い正面の階段の先には白と金、少しピンクのクリスマスツリー。
階段の手前に男がいて、ハッピーホリデー、と歓迎の言葉を述べる。
大人しくしろと言われたので、速水はずっと黙っている事にした。
別に今日は何かしろと言われた訳でも無いし、ただの付き添いだ。
レオンの後に続く。
レオンは招待状を見せ、代わりにバッジを受け取り階段を上がる。
速水や仲間に一つずつ渡す。
ここからはレッドカーペット。
シャンデリアが無駄に多い。
部屋まで人が一人付き、フロアの説明をする。
マフィア『キング』が呼ばれるパーティとは、どんな物かと思ったが…普通のパーティらしい。
中々、大勢の人で賑わっている。
広間の奥に演奏家達がいて、ピアニストがいて。曲を奏でている。
複数の男女がフロア…装飾の入った絨毯の上…で優雅に踊る。
長テーブルの飾り付けは白と金のクリスマス仕様だ。片隅にまた銀のツリー。
無駄に大きいシャンデリア。
テーブルの上には、軽食が置かれている。
レオンは、給仕からシャンパンを受け取った。コイツには水をと言って速水を差した。
「かしこまりました」
ワルツが続いている…。
「…?」
踊っている顔ぶれを見て、速水は目線でレオンに問いかけた。
かなり有名な俳優。パートナーは女性歌手だ。名前は…。
「ああ。有名どころが来てるな。アランと、ルイーズ」
アランが燕尾服の男で、ルイーズは褐色ぎみの肌にブロンドの女性。イブニングドレスを着ている。水色の裾がたなびく。
「…」
速水は車内での説明を思い出す。
一応これは、打倒ネットワークを掲げたパーティらしい。
お堅い、お高い連中、ようするに政府筋が主催している…。
音楽が止み、拍手が起きる。フロアに人が交差する。
「さ、行くか。奥の部屋だ」
奥へと続く、やたら縦に長く黒い扉は開け放たれていて、手前にタキシードのお高いガードマンが二名。
レオンは名乗り、ボス達に挨拶をしに来たと伝える。
部屋の大きさは先程の広間の半分くらいだろうか。
こちらはダンスフロアは無く、向こうよりもテーブルが多い。
つまり立食形式のパーティ。そしてやはりクリスマス仕様。今度は色がある。
そしてレオンは壮年の男性に近づいた。六十くらいか?
男性はテーブルの側で、シャンパンを飲んでいる。
「おひさしぶりです。おじさん。レオナルドです」
「おお、レオンか?でかくなったな」
顔見知りらしい。おじさんはグラスを置いた。
この部屋にいるのは、政府高官とか、警察関係の引退した人物とか、著名なダンサーとか歌手とか、そのパトロンとか。
色々談笑している。…しかし話題は、ネットワーク関連が主。
毎年末の恒例行事らしい。
レオンは幼い頃、元キングと何度か来た事があると言っていた。
「今日は、ようやく親父が引退する気になったので、俺が代わりに…。親父は家で一人寂しくターキーを食べています」
「そうかそうか。まあ、ゆっくりして行ってくれ、キング」
「はい。あとこちらはサク・ハヤミです」
「ほお、彼が噂のジャックか…」
「ほら、挨拶」
レオンが小さく言った。
「サク・ハヤミです」
速水は名乗った。
「おい。お前、もうちょいな…。ミスター・ジミーは奥に?」
レオン言った。
「向こうで遊んでるよ」
レオンに聞いた通り、まだ続きがあるらしい…。
左手奥に、木で出来た扉がある。これは閉じていて、やはりガードマン付き。
「では。失礼します。お前、もう少し笑え。普段の顔で居るなよ。営業スマイル出せ。不機嫌に見えるぞ」
おじさんの所から立ち去る前に、レオンが速水に言った。
「…大人しくしてろって、お前が言ったんだろ」
速水は答えた。
「失礼でしたか?」
一応聞いた。
「いや。大丈夫だ。折角だ。私も遊ぶかな」
おじさんが苦笑した。
おじさんと、速水とレオンはそのまま進み、木の扉の向こうへ立ち入った。
そこは遊戯室で、ビリヤード台が二つ、カジノテーブルが幾つか。ダーツもある。
正方形の木製テーブルが二つあり、それぞれで男達がカードに興じている…。
「ジミー」
おじさんが、ビリヤードをしていた老人に声を掛けた。
老人と言っても、まだまだたくましい感じだ。白い髭、白い髪。
「―ん?」
「レオンと、ジャックが来てくれた。キングのトコは親父が引退したってさ」
「ほお。あのひねくれ者がなー…。良くやったな!」
厳つい老人が鷹揚に笑った。
「苦労しましたよ」
レオンも笑う。
「どうだ、二人とも。一緒にやるか?ん?」
どうやらビリヤードに誘われたようだ。キューを差す。
「俺はやったこと無いです」
速水は言った。
「何だそうか。また次はやろう。カードは好きか?」
ジミーが速水に聞いているようだ。
「別に、普通です」
速水は言った。
「…お前、もうちょい、笑えよ…。いつもの笑顔はどうした?」
レオンが額を押さえた。
速水はようやく苦笑した。
「だってお前、静かにしてろ、キレるな、騒ぐな人を殴るなって言っただろ。今のところ騒ぐ理由もキレる理由も殴る理由も無いし、静かにしてる。カードはした方が良いのか?」
「―お前って、馬鹿だよな」
レオンが呆れて言った。
「まあ、じゃあカードでもするか」
おじさんが微笑みながら言った。
「―あ。じゃあ俺達どきます。丁度上がり、俺の勝ち」
テーブルの男…おそらくダンサー…が言った。もう一人も立ち上がる。
「じゃあ、やるか。四人だしブリッジでいいか」
ジミーがそう言った。
「…これって勝った方が良いのか」
速水はレオンに聞いた。
「まあそうだな。適当に楽しく、良い勝負くらいがベターだ」
レオンは苦笑した。
「じゃあ、楽しみましょう」
速水は笑った。
このカードのシーンはいつか加筆します。




