第10羽 追徴 ①サロン /12月24日 -2/4-
窓を背に、けれど少しずれた位置に置かれた黒皮のソファーに座る白髪交じりの男。
側近が煙草に火を付けた。
歳は六十手前と聞いた。良くそろえられた口髭。
顔の骨格はレオンよりがっちりした感じか。
細身と言うほどでは無い、引き締まった体つき。ブラックスーツ。
精悍な顔立ちは、確かにレオンに似ている…。目元とか、青い瞳とか。眉毛の辺りとかもそっくりだ。
この窓が片面に四つ並ぶ、そこそこ広い部屋には、速水、レオン、この男。それ以外に側近らしい者が二名。
暇なのか、ボディーガードなのか、側でチェスをやっている男が二名。
チェスをやっている男の女なのか、何なのか…とにかく露出度の高い、無口そうな女が二名。
速水は初めてレオンに、この男――彼の父親を紹介された時の事を思い出した。
あの時は三人だけだった。…今日は大賑わいだ。
皆黒のスーツで、女性は黒いドレス。
まるでヤクザ映画だな。こんなのって本当にあるんだ…。
「キング、何か用か?」
速水は聞いた。今はレオンがキングだが、速水はレオンを名前で呼ぶ。
なので、レオンの親父はとりあえずキングと呼んでいる。
彼の親父をそう呼ぶのは、今では速水一人だけだ。
恐い物知らずだな、とレオンに言われた。
「ジャック。親父でいい」
有無を言わせぬ口調だった。
「…恥ずかしいだろ」
速水は溜息をついた。この人物に会うのはこれで二度目だが…。
何で他人に、ファーザーと呼びかけなければいけないのか。
「ボス」
側近の男が彼をそう呼んだ。ボス、それも良いかもしれない。しかし別に速水はこのファミリーに入った訳では無いし。どうした物か。
速水が考えている間に、側近からレオンの親父が手紙を受け取った。
「レオン。今朝、ようやく招待状が届いた」
「―ああ。相変わらず遅いな」
レオンがそれを受け取る。
「招待状?」
レオンが速水にそれを渡した。見ても良いらしい。速水は見る前に聞いた。
「今夜のパーティだ。サンフランシスコの、お堅い、いやお高い?コミュニティ」
「?」
「レオンとお前で行ってこい」
キングが言った。煙草をふかす。
「…」
行ってこい、と言われて速水は手紙を開いた。
確かに招待状だ。レオンの親父の名が書かれている。
あとは場所と日時だけ。
「どう言うパーティだ?」
「ちょっと込み入った話になる。まあ、説明は移動がてらでも出来る。親父宛だが、別に俺でも良い。さあ、行くぜ」
レオンが言った。早速準備に取りかかるらしい。
「?俺は行かない」
速水は言った。
「―そうか、って、おい!行く流れだろ!」
出口寸前でレオンが振り返った。誰かが笑った。
「いや。だってレオンが行けば良いだろ?」
速水は言った。
「お前な。人がせっっかく外に連れ出してやろうって思ってんのに。一応元キングであるクソ親父の命令って事なんだがな」
「命令って言われても。俺はレオンと違ってマフィアじゃないし」
速水は当然渋った。パーティとか正直そんな気分じゃ無い。それに。
「それに。お前が用意しろって言ったから、食材色々買ったのに…」
速水は舌打ちした。
もちろん買いに行ったのはレオンの仲間だが。
「…ん?食材?」
レオンが眉を上げた。
「お前、何かやれって言っただろ。…晩には色々出来る予定…」
だったのだが。
レオンのこの様子では、すっかり忘れていたのか。
「―だから、俺は行かない。…」
…よく考えたら、別に食事に力を入れろとは言われなかったかも知れない。
速水は少し後悔した。
だからと言って今更、パーティ?
「――あ。あー、そうか…」
理解したらしく、レオンが頭を掻いた。
「…」
速水はやや俯いて黙り込んだ。
…何だ、この微妙な感じ。周囲が無駄に沈黙している。
「悪かった。…そんな変な顔で睨むなよ。このパーティはどうしても外せないんだ」
レオンがなだめる様に言う。
「別に料理好きだし。でも食材がもったい無い。明日以降だと…鮮度が落ちる」
おそらく今から一式そろえないといけないのだろう。
パーティはPM8:00からだったが、ここからサンフランシスコだと、車で六時間はかかる。
帰りは…多分、泊まりになるだろう。
「キング。そう言うわけで俺は行けない。大体、俺がいなくても良いんじゃ無いか?」
速水はレオンの親父に言った。
親父は苦笑していた。
「いや、お前も行った方が良い。ネットワークを潰すなら、あそこで顔を売るのは必須だ。コイツだけじゃ心許ない。…女房役が必要なのさ」
「じゃあ行かない」
速水は即、嫌になって即答した。帰って料理だ。
「おい。親父。コイツ単純なんだからからかうな!」
レオンが言った。
周囲は笑っている。レオンのファミリーはかなり平和的だと思う。
「悪かった。食材は何とかするから、ついて行ってくれ」
「…」
やはり親父はまともな人だ。
「――分かった。じゃあ良かったらキングか、誰か食べてくれ。下ごしらえはしてあるから、七面鳥はオーブンで焼くだけ。冷蔵庫にも色々ある。えっと、出来るか?」
「ええ。それくらいなら…」
女性の一人が答えた。さすがアメリカの女性だ。出来て当然という感じか。
速水は一応、親父の机にあったメモとペンを借りて、幾つかの手順をサラサラと記入し渡す。
「一応この手順と時間で。キング、これ鍵。レオンじゃあ準備するぞ」
速水はキングに鍵を渡し部屋を出た。




