表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/151

第8羽 ノア ④百億 /日本円換算 -4/7-

十日。今日はKRUMP(クランプ)のバトルだ。

今日の出来如何で、速水の命運が決まる。


勝って、金を稼ぐ。最低八億。

…速水のスポンサーは、ブレイクを見に来る事が多い。クランプにはあまり来ない。

――何としても勝たなければ。


いけないのに。


明け方、小さなうめき声が聞こえた。


「おい…ハヤミ?入るぞ!」

さすがにレオンはカーテンを開けようとした。


が、開かない。速水が合わせ目を押さえているのだ。


「…エリックを呼べ!!!!」

速水が大声で叫んだ。


まだ寝ていたノアが、ベットから飛び起きた。

ベスも出てきた。…それくらいの大声だった。


「…大丈夫だ」

そしてそう言う。

「お前―っ、…っ」

レオンは自分を抑え、振り向き、どんどん、と扉を叩いた。


エリックは、来てすぐ速水のスペースに滑り込んだ。


「――ハヤミ…」

「エリック。何か、効くやつ頼む。頭が痛い」

…カーテンの中で、そんな会話がされている。会話と言うより命令だ。

「分かりました…」


エリックは程なく出て来た。

「…では」

そう言って素早く去って行った。


レオンは勢いよくカーテンを開けた。

速水は左腕を押さえ、ベッドの上で体を起こしていた。


「おい。お前いい加減にしろ。一体何なんだ!!」

「―、だから、偏頭痛。ちょっと黙ってくれ。注射したから」


「偏頭痛で注射だと?」

レオンが言った。

「頭痛に効くやつらしい。よく知らない。クランプには出る。寝かせろ」

速水は言った。さっさと横になる。


「~~っ」「おい!」

レオンが、速水に殴りかかろうとして、ノアに止められた。

ベスがカーテンを閉める。ノアはレオンを引っ張った。



■ ■ ■



「ぜったい嘘だろ!」

おなじみの個室で、レオンは怒っていた。

「そうね。…多分…違うと思う…。けど、分からないわ…。私も、めまいがして、起き上がれない時はあるから…何なのかしら…」

ベスが溜息をついた。


「今日は負けられないんだ…」

レオンは頭を掻いた。

今日は四月十日。負けたら十三日までに詫び金が足りず、最近やたら具合の悪い速水が呼び出しをくらう。

そうなったら、その後…速水の調子がどうなるか分からない。

速水が倒れればこのチームは終わる。


「二人じゃ、絶対勝てないもんね…」

ノアがベスのベッドに座り、しょんぼりと言った。


「ごめんなさい、私がこうだから…」

ベスが大きくなった腹を撫で、申し訳無さそうにした。

「それは…言っても仕方無い」

レオンが言う。

「エリックは、口止めされてるのよね。きっと」「間違い無くそうだろ」

ベスとレオンが話す。


「…レオン、前は部屋一緒だったんだ。心当たりとか無い?」

ノアがレオンを見ずに呟いた。


「…お前こそ、練習とかずっと一緒だろ」

レオンはベッドの縁にすわる。ノアと反対側だ。お互いに背を向ける。


「…。ハヤミ見て来る」

ノアは立ち上がった。



■ ■ ■



「…ハヤミ、大丈夫?」

カーテン越しに、ノアが聞いた。

「ねえ、俺、あのこと皆に言ってないけど、それと関係あるの?」

ノアはつぶやく。


「…一時間前に起こしてくれ」

速水はそう答えた。



その夜、クランプで速水は踊った。

そして三人は勝った。

不思議だが、速水の踊りはますます冴えているように感じる。



「…」

そして速水は部屋に戻るなりベッドに倒れ込んだ。


「よし!セーフだな…、ゆっくり休め」

すぐ端末を見て、レオンは言った。返事は無かった。


ベスがエリックを呼んだ。

「すみませんが…」

エリックに言われた。


すっかり待合室と化した個室で、レオンは嘆息した。


「…スクールで初めて倒れた時、俺が聞いておけば良かったんだ」

「心当たりあるの?やっぱり…病気なの?」

ベスが聞いた。


「知るかよ…」

レオンは頭を抱えた。

それきり、レオンは黙り込んだ。


そして立ち上がる。

「とにかく、運営に支払うって、エリックに言わなきゃな」



その前に。一応、カーテン越しにレオンは聞いた。

「…お前、どこが悪いんだ?」

「どこも悪くない…。ちょっと最近疲れてて。大分良くなったから。部屋から…出て来るなよ」

速水はお決まりのセリフを、いよいよ大丈夫ではなさそうな声で言った。


しばらく後、エリックが出て来た。

「睡眠薬飲んで、寝てますから…。明日また来ます。何かあったら呼んで下さい」


「エリック、十三日の速水のお誘いだが―、貯金で払う」

レオンは言った。


「…それが良いでしょう。伝えておきます」

エリックは出て行った。


「ハヤミ…」

レオンは話し掛けたが、返事は無い。

少しのぞいたが、ぐっすり寝ているようだった。


レオンはまた個室に入った。


「レオン、俺、…」

レオンが入ると、ノアが個室のベットに腰掛けてうつむいていた。

「ノア、お前やっぱり何か知ってるのか」

レオンが聞いた。ノアはこの前何か言いかけていた。

「―ノア、話して…」

ベスもノアの手を取って言う。


「だって、多分関係無いんだ。本当に…絶対、違うと思う」

ノアは言った。

レオンとベスが、ノアを見た。


「ハヤミ…多分だけど。耳が悪いよ」


ノアはぽつりと呟いた。


「!!?」「――えっ!?」

意外な言葉に、レオンとベスが驚いた。


「ちょっと…本当なの?それ…!」

ベスは声を潜めて聞いた。


ノアは自信なさげに首を振った。

「しっかり聞いたわけじゃ無い…、けど、スクールにいた頃、おかしいなって思う事があって――」


ある日、速水に付き合い居残り練習中、ノアは音楽係として曲をかけた。


『じゃあ、つぎは――でいい?』『ああ』

『じゃあ、かけるね』

速水も知っている曲名を言って、スイッチを入れる。

――が、中身が違うCDだった。


ノアはイントロであれ?と思った。しかし速水はそれに気づかず踊り始めた…。

十数秒ほど後、ノアが曲を止めるまで。


「その後指摘したら、…言うな、誰にも。って、ハヤミに睨まれて言われて…。それきり。けど、それって全然、関係無いだろ?実際ハヤミはムカツクくらい踊れてるんだし…。なら別に大した事ないのかなって…」

ノアの声の調子が、途中で変化する。ノアは言ってみたものの、確証が無いらしい。

その後うーん、と言ってノアはわしゃわしゃと頭を掻いた。


「確かに、踊れてはいるが…、と言うかあいつ――!それで俺たちの前で曲聞きたがらなかったのか…?くそ。隠し事の多い奴だな…」

レオンは舌打ちした。


「…難聴かしら?」

ベスが聞いた。

「いや。多分…違うと思う。だって会話は超普通だし…。絶対音感?とかじゃない?」

ノアが言った。

「…それなら悪いって事は無いだろ。むしろ良いくらいだ」

レオンは息を吐いた。…そして、首を傾げた。


「…ノア。あいつ、そう言えば、座学が駄目だったよな…音楽の」

「ああ、そう言えば…」

ノアも思い出す。


「向こうで…ハヤミの語学のノート見たが、結構キッチリかき込んであった…。こいつ頭は悪く無さそうなのに、何で音楽はさっぱり駄目なんだ?と思ってたんだが…耳?…寝る時、耳栓するのも…もしかして、そのせいか?」


「ねえ、レオン」

ベスが言った。


「私達、ちょっと…何て言うか、ハヤミに、頼りすぎてたんじゃ無いかしら…」

ベスは俯いた。

「―え?」

ノアが言って、レオンも、「ん?」と言う顔をした。



ベスは少し涙ぐむ。

「ここでこれだけ踊れてるって、ハッキリ言って、異常よ?…私達ずっと…、…彼なら大丈夫、勝手にやるだろう、彼は放っておいて―自分達の事を考えようって。彼の事を考えようとしなかった…。…それって、彼にしたら酷いって思うんじゃないかしら…。だって誘拐されて…いきなりここに来て、『こいつら』と今から踊れって…、彼、英語が出来たから良かったけど――もし言葉が話せなかったら、もっと大変だったわ」


「うーん…確かに。俺、ハヤミならついて来られるからいいや、って思ってたかも…」

ノアは唸った。


「ノアはハヤミをどう思うの?」

ベスが聞いてきた。

「え、俺?…ええと」


ノアは改めて考えた。自分は速水をどう思っていた?


――そう言えば、ノアは速水を友人とは思っていなかった。良くてライバル?

他には?

才能があって、うらやましいと思っていた。ズルイとも。

ベスとイチャイチャして、ウザイと思っていた。

けど、頼れるし、プロだし、外のことを教えてくれるし、優しいし、嫌いでは無い…。


「俺は…ハヤミをまだファミリーとは思って…、ないや。うん。フレンドでも無いし…せいぜい、むかつくライバルで偶然出会った新しいダンス仲間かな?けどベスの事で、ものすごく感謝してる!」

ノアはとても素直に言った。


「ノア…とっても素直な意見ありがとう…」

ベスは溜息を付いた。

レオンも呆れた。そして溜息。


ノアほど素直では無いが、三人とも…大体同じだった。


レオンでも六、七年。ノアとベスに至っては十年。

…三人で一緒にいた年数が多すぎて、速水はよそ者と言う感覚がまだ抜けないのかも知れない。


「……これじゃ、俺たち信用されないよな」「そうよね…」

ノアが肩を落とし、ベスと一緒にションボリした。


「向こうも少しずつ打ち解けて来たとは思うが…。もともとハヤミは極度のコミュ障だしな…」

レオンが溜息をついた。

速水は、性格もそこまで悪くは無いのに、なぜか友達は隼人くらいと言う筋金入りだ。


「…このまま、ずっと余所余所しいままなのかしら…。この子、『ハヤミ』かもしれないのに」

ベスがまた大きくなった腹を撫で、悲しそうにした。


「ベス…まだ間に合うよ!こうなったらもういっそ、フレンドから―」

ノアがベスの手を取り、腰を浮かせて、珍しいリーダーシップを取ろうとした時。


個室のドアがノックされた。―ドンドンと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ