第8羽 ノア ④百億 /日本円換算 -1/7-
今回はエロは無いですが、あまり話題が健全ではないです。
と言うか今回ダンスはカットしてます。てぬきで…。
※アメリカドルはもう意味不明なので、日本円で書きました。
レオン達のチーム『Fam No.238』は奇跡的に優秀なチームだった。
人気は上々で、固定客や、色々な噂や憶測も付いている注目株。
が、負けるときは負ける。ベスが居ないのも痛い。
ここに入って約半年。現在の順位は64。
現在34戦して、勝ちは25。負けは5回、引き分けが4。
順位が上がったせいか、対戦は五日間隔が少し増えた気がする…。
ノアはベスと一緒に個室に入り、静かに扉を閉めた。
「ねえ…ベス。ハヤミ…やっぱりどこか悪いのかな…」
そしてベスに話掛けた。
今日も速水は朝からカーテンを閉めてスペースに閉じこもりきりで、どうやら寝ているらしい。
朝、ノアとレオンはそこまで騒いだ覚えは無いが…一度、静かにしてくれと言ってきた。
そして今は返事が無い。
しばらくして、個室にレオンが入って来た。ドアをパタンと静かに閉める。
「この前負けて疲れてるのは、仕方無いが…、あいつやっぱ何処か悪いんじゃ無いか?」
そしてノアとほぼ同じ事を言った。
つい先日、四日前も負けたが…、それは久しぶりと言えるくらいの物だった。
相手は『Fam No.19』の、三十代が中心の古参チームだった。
基本、ナンバーはチームが増えたら後ろに足されていくので、ナンバーが新しいほど長くいる事になる。が、一応何年かに一度リセットするらしい…。
速水は組み合わせの運が良く、――つまり相手チームの中で、速水の相手が一番弱かった――おかげで何とかギリギリで勝ったが、ノアとレオンは落としてしまった。
レオンの勝率は8割以上とかなり高いが、それでもオールグリーンとは行かない。
せめて引き分けに―と、リピートは今回レオンが出たが、あと一歩及ばす。僅差。
そして負けた。
その後…そのまま、ペナルティバトルに出て、何とか勝ち。それで済んだ。
もちろんどっと疲れたが、もうそれから四日。次のバトルは明後日だ。
速水は大体、格上過ぎなければバトルは落とさない。それは恐ろしい程に。
彼はレオンに次ぐ勝率の高さをキープしている…、勝ちを落とすのはメンタルがやや不安定なノア。たまに速水。そしてレオンの順。…こうして見ると皆落としているが、勝負は水物だ。
だがノアは最近緊張しないコツを掴んだのか、単に慣れて来たのか、安定してきている。
その上、ノアは『これは勝てないだろ…』という格上相手に、あっと驚くようなダンスを見せ、勝って快哉を叫び上げ、笑顔を見せる、そう言う事もある。
しかし、以前のそのケースはその後二人が負けた。それは仕方無かった。
むしろレオンも速水も、後でノアの成長を褒めた。ペナルティバトルにも勝った。
そこで切り替え、また元通りになり、現在へ。
――と、ここに来て速水が少し崩れ始めた。
勝率は全く変わらないが、練習も減らしているし、勝った後も…少々しんどそうに見える。
もし速水が崩れると、…レオンとノアだけとなり。一気に勝ちが危うくなる…。
個室のドアがノックされた。
「レオン、時間だから行ってくる」
レオンが出ると、速水はいつも通りの表情。
そう言えば、速水は今からナイフの講座だ。
「お前、…」
レオンが何か言う前に速水は部屋を出た。ナイフ講座は休めないのだろうか。
速水はコレだけは休まない。
「…どう思う?」
レオンは椅子を持ち込み、ノアとベスに聞いた。
「分かんない。普段通りな気もするけど…」
「最近ナイフ、頑張ってるわよね…やっぱりそれで疲れてるのかしら…」
「ハァ…全く。世話の掛かる…」
レオンは溜息を付いた。
■ ■ ■
その夜、戻って来た速水は、いつになく上機嫌だった。
「―あ」
テーブルに用意されていた夕食を見て嬉しそうにする。
好きなメニューだったらしい。久しぶりに笑ったのを見た。
「―、それで、隼人が―」
話題は隼人と珈琲とダンスしかないが。
パソコンは速水の旧友の出現以来、禁止されてしまった。運営も大変だ。
「ハイハイ。ハヤトね」
さすがのノアも、若干呆れ気味で言った。
「おまえ本当に友達いないな」
レオンも苦笑する。
もう当たり前のやり取りだ。
「別に、そんなにいらないし」
速水も今日は良く喋る。シチューを口に入れ、飲み込む。スプーンを下ろす。
「家族も、もう会ってないから…兄弟みたいな感じなんだ」
そしてつぶやいた。
レオンは少し驚いた。
「なんだ、そうだったのか」
「勝手に…俺が思ってるだけなんだけど」
速水は困った様な顔をしている。
「なるほど、なら仕方無いな。何だ、早く言えよ」
レオンはあっさり言った。
「レオン、ブラコンだもんね」
ノアが笑う。
ベスもクスクスと笑った。
「ねえ、ハヤミ。聞いて良い?ハヤミのお父さん、ってどんな人?…レオンのは参考にならなくて」
ノアが笑って言った。
ノアは最近良い父親とは何かと考えているらしい。しかしノアは父親を知らないので途方に暮れる。
仕方なしにレオンに父親の事を尋ねて、『飲んだくれ・暴力・浮気、ついでにドラッグ―離婚』という予想通りの答えが返ってきて、がっくり落ち込んでいた。今日は速水の機嫌がとても良さそうなので、今の内に彼に聞こうと思ったのだろう。
「…父さんは、かなり性格歪んでる」
速水はそう言った。途端に、目つきがうろんになる。
「酷い性格で、母さんは出て行った…」
「げ…。速水のトコもそうなのー!?ハァ…」
机に頭をつける。
速水は声を上げて笑った。
「――、冗談だ。出てって無い。結局、別居しっぱなしだったけど。ずっと仲は良かったかな?」
レオンは首を傾げた。
速水が冗談を言って笑うのも珍しいが、その口ぶりだと。
「お前、親は…?生きてるのか?」
「―、あ、母さんはもう死んでる。かなり前だけど…」
「…そうか」
レオンはそれだけ言った。
「俺、良い父親になれるのかな…」
ノアはぶつくさ言いながら、ベスを見ている。
「ノアなら大丈夫だろ」「ああ」
速水は言った。レオンも同意した。
「なあ、ハヤミ…お前」
レオンは速水に話かけようとした。
速水は聞いていなかった。
入り口の方を向いている。
「――ああ。何だレオン?」
「…?ああ、えっとな」
レオンは戸惑った。直後、扉が開いた。
「―!」
皆が固まる。ガスマスクではなく。仮面の運営。今日は男だった。
速水の前に無言で封筒が置かれる。
レオンの前にも、ノアの前にも。
ベスには無い。
そして速水の前にもう一通。一通目と封筒の色が違う。
…やっかいな『仕事』の依頼だった。