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第8話 ノア ②ワイルドカード /KRUMP -6/6-

アンダーに入って、五ヶ月が経とうとしている。


今、世間は二月中旬。

次のステージは五日後で。ベスは気がつけば妊娠六ヶ月半だ。


速水達はギリギリで何とか勝ちを拾っていた。

…ベスが抜けて、中々大変だ。


当然、引き分けもあるし、負ければ『ペナルティバトル』に出なければいけない。

過去二回喰らったが、それは絶対に嫌だ。


速水達は今日、朝からどこかのいつもの部屋を借りて、ショーケースのレッスンに励んでいた。

この部屋には小さいが舞台がある。

今度の種目はブレイクダンス、そのショーだ。

ショーなら人数の不利は少ない。


ブレイクダンスのバトルと、ショーケースの披露は別の種目扱いになっている。


…ブレイクバトルの会場よりも、ショーケースの会場の方がやや大規模な感じだ。

順位が百を超えたからなのか、次のステージはけっこうな大舞台だった。


──少し前、速水と妊娠中のベスが、イチャイチャしつつ会場の下見に行ってきた。

ここがおそらく暖かい州だからなのか、不思議とそこまで寒くなかった。

もちろんベスに何かあってはいけないので、エリックも連れて行った。


ルームランナーともうすっかり親友になったらしいベスは、久しぶりに外へ出られて楽しそうだった。

速水は思う存分見せつけてきた。「外に出たら結婚しよう」とか。「名前は―」とかその辺りで。


レオンはクランパーなのでショーはあまり経験していないし、ノアはよく分からないらしい。

速水は舞台設備をすみまで確認し、スタッフと打ち合わせをした。

そのあたりはプロだと後でレオンに感心されたが、速水にしてみたら、舞台規模のわりに準備期間が短すぎて、ふざけるなと言いたい。

せめてリハーサルはやらせて欲しいと申し出たが却下された。

ネットワークのスタッフは確かにもう何十年もやっているベテラン揃いだが…。

まあ出たトコ勝負の舞台というのも、勉強になるし、良い経験かもしれない。


速水は今度また下見の機会があったら、ノアを連れて行くつもりでいたのだが…。

エリックに、「多分、大人数はベスに対する運営の気遣いです」と言われ…ノアはさらにむくれていた。

どうやら通常は一人限定らしい。


「じゃあ、合わせよう。ベスお願い」

練習室でノアが言った。


ベスは部屋の片隅で椅子に座って見学だ。

「ええ、かけるわね」

彼女はコーチ兼音楽係でもある。


ベスの声を聞き、速水は位置に立つ。

間隔は本番の舞台に合わせてあるので、やや離れて感じる。

この部屋あるステージでは狭すぎて大きさが合わないので、フロアにテープで印を付けた。立ち位置は、レオンがやや後方センター、ノアが右、速水が左。今度はコレで行くが、横一列になるときもある。


今回は六つの曲をつなげ使用する。合計八分五十七秒。

編曲を決めたのはノアと速水。速水はノアの音楽センスは相当な物だと思っているので、何か聞かれたら答えると言うスタンスだ。

レオンの音楽センスは多分いまいち。任せるとやたらハードでギャングっぽくなる。


曲が始まる。

まずはエントリーからだ。


冒頭からハイテンポな曲が来る。

ショーケースでは、皆がまずぴったりそろえた同じ動き、ステップを踏む。


リズムに乗って軽快にステップを踏む。右足、左足。クロス。ターン。リピートそして速水とノアが場所を入れ替わり。動きを変え踊る。


英語の歌詞の曲に切り替わり、合わせ技。

その後、ハイスピードのソロパート。

ノア、速水、レオン。それぞれが自分の技術と個性をアピールする。五月蠅い曲が鳴り響く。

ノアが華麗なフットワークから、重力を丸無視したフリーズ。

速水はパワームーブ。大技が主。

レオンは抜きんでた技術で締める。そしてまた三人は別れ今度は床中心の構成。

アクロバットな動きを取り入れる。


今回はバトルではないので、勝敗やペナルティはどうするのかと言うと、十二チーム中、上位四チームがセーフと言う事になるらしい。

もちろん審査員はいるし、観客の反応も重要──言ってしまえば、ただのショーで、興行だ。


ペナルティバトルより何倍かマシだ…、と速水は思う。

二度、経験したが、もう三度目はやりたくない。


ほの暗い地下で。酷いパーティ。


あれはダンスに対する冒涜だ──。


速水は全霊を込め踊る。



■ ■ ■



レオン、ノア、速水は、横一列になって…正座していた。


「うん、大分良くなったわね。けど──ハヤミあなた一分三十五秒でソロに入るタイミングが0.5秒も遅れたわね。前も言ったでしょう?技の終わりを引かないようにって。この癖を本番までに改善しなさい。あとレオンは動きが大きいのは良いけど、腕をもっとしめて。それにレオンあなたエアートラックスの中心点がぶれぶれよ。昨日の方がまだ良かったわ。ノアはヘッドスピンの回転がまだ遅い。亀じゃ無いんだから。頭と体幹もっと鍛えなさい」

ベスの穏やかだが本当に容赦無い講評が付く。彼女は指導になるとすこし人が変わる。


さらに細かい酷評が続き…。


「まあ、こんな所かしら…?あ、結構良いわ…この調子で。後は緊張しないようにね」

最後、甘い言葉で申し訳程度に言われる。


「「「はい…」」」

三人は意気消沈した。



〈おわり〉

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