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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
144/151

第14羽 MD ⑥ラストステージ(後編) -7/8-


通されたのは白を基調した格調高い部屋だった。

装飾は金だが、ロココ調では無い。

白いテーブルクロスに、赤いセンタークロス。

白、紺色、赤色の花がシャンデリアに照らされている。

蝋燭も飾られ、人数分の食器やグラスが並んでいた。

そのほか、壁にもいくらかの照明がある。カーテンは開いて、日は落ちかけている。


ガスマスクの執事達が席順を説明した。

クイーンは最上座。つまりテーブルの短い辺に案内された。

出入り口はクイーンの真向かいのみ。白いカーテンの閉まった細長い部屋だ。


促され、クイーンの右手側、窓を背に寿圭二郎、速水出雲、レオン、イアン、ルノフ氏が着席した。

左手側にアビー、レーバー氏、クレジオ氏、ワン氏、マルシオ氏の順に着席する。


「さて。クイーンおよび皆様」

速水出雲はメニューをざっと見て、食事が運ばれる前に口火を切った。

クイーン、エンペラー達がさっと出雲の方を見る。


「本日は、良いニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に?」

出雲が真剣な表情で言った。

ちょうど給仕のガスマスク達が入って来た。


「……そうですねぇ……飲み物も来た事ですし。良いニュースを」

クイーンが開いた扉を見て言った。

それぞれのグラスにワインまたは水が注がれ、ゆったりとした空気が流れる。


出雲も微笑んだ。

「では良いニュースからにしましょう。――四月に連絡いたしました通り、日本警察において、異能犯罪に対する組織が正式に発足いたしました」


出雲が言うと、エンペラー達がおお、と声を上げた。

「ああ……ようやく、念願が叶いましたね」

クイーンが代表で喜びのコメントした。表情は明るい。

「はい。長い道のりでしたが。これで戦えます」

出雲が微笑みに合わない物騒な事を言った。


「戦うのか?」

レオンが思わず言うと、出雲が首を振った。

「いいえ。我々も平和的に解決したいと思っていますよ。その為には色々と、準備が必要なものですから」

すっかり見慣れた微笑だ。


「ミスターイズモ。――横からすまない。この集まりでは日本がリーダーシップを取っているのか?」

レオンの左隣から、イアンが出雲に言った。


「いいえ。この集まりはクイーンによって召集された、なんと言えばいいんでしょう。……我々は総じてクイーンの補佐、と言った所でしょうか?色々議題はありますが、この件に関しては私が一応、まとめ役を任されているんです。もちろんクイーンの決定ですが」

「なるほど」

イアンが頷いた。


「私はもう何の力もない老いぼれですから。皆様をあつめて、協力して頂いているのですよ」

クイーンが苦笑する。

「ばあちゃん?何にも出来ないって嘘だろ?」

寿が苦笑する。

「ええ。建前です」

「ほらな。全く」

孫との会話にエンペラー達も苦笑する。


ちょうど前菜が運ばれてきた。

「では、皆さん、頂きましょうか」

クイーンが言った。


「――そう言えば、スカウトは進んでいるのかしら?」

食器を置いて、クイーンが微笑む。

「ええ。これも良いニュースの一つです。先程、こちらのプリンセス・アビーにお話しして、快諾して頂きました」

出雲は微笑み、そこでエンペラー達を見た。組織のあらましをざっと説明する。


「実働部隊のメンバーはこちらのアビー嬢含めて、現在六名で、管理室は五十名ほど。僕は相談役という形になります。今のところ、実働部隊の確定能力者は一名のみです。――エンペラーの皆様方は引き続き人材確保に当たって下さい」

出雲の言葉にエンペラー達が頷く。


「どなたか質問はありますか?」

出雲は微笑んだ。

レオンが手を上げた。

「すまない、一つだけだ。……日本にはレシピエントがいるのか?」

驚きを隠さずレオンは尋ねた。


「ええ。宇野宮さんの甥に当たる、ハナビシという少年です。彼はステージ5の能力者です」

「……日本で研究が進んでいるって言う話は、本当だったんだな」

レオンは言った。


「まあネットワークよりは若干。ただ、やはりレシピエントは多くは無いです。今の所、ハナビシ君と、能力者見込みのサク・ハヤミと――。もう一人。ミズミヤという旧家の当主がいますが……彼は滅多に表に出ないですから、今の所、無関係ですね。……かれの事はパンピーのクソニートだと思って、どうぞ気にしないで下さい」

出雲がいつも通りに微笑んだ。


レオンはニュアンスに悪意を感じた。

「そうか。間に入って悪かった。話を続けてくれ」

試しにレオンが言うと、出雲は首を傾げて微笑んだ。

「いいえ。お気になさらず」


今までの会話で、レオンは速水出雲はあまり感情を表に出さない人物だと思っていたが……。


エンペラー達が急に咳払いやちょっとした雑談を始めた。

「ゴホン。まあレシピエントは珍しいからなぁ」

「ええ、ウチも探していますが、中々見つかる物でもないですねぇ」

……明らかに話題を変えたい様子だ。

その人物は、速水出雲またはエンペラー達の心象がよほど悪いのだろう。


「彼はお元気ですか?」

そんな事は気にせず、クイーンが言った。

からかっているようでもあった。

「……ええ、まあ」

出雲が言った。

「また彼とお茶でも飲みたいものです」

「……僕は遠慮したいですね」

出雲は忌々しげに言った。

初めて年相応の――年齢は分からないが――感情を見せた。


出雲はその人物を嫌っているようだが、クイーンはそれほどでも無いらしい。

レオンは出雲の個人的な好みか、私怨だろうと思い深入りはしないことにした。


しばらくして前菜の皿が下げられ、次は皿に入った料理が運ばれてくる。

先ほどメニューを見たが理解はできなかった。

運ばれてきたのは、蛸のようなものが固められた個性的な料理だった。

皿の四隅には四角くカットされた海老や筍が盛り付けられている。

――見た目も良いが、味も良い。おかげで空気も変わった。

「まあ、とても美味しいわ……!」

アビーが目を丸くした。クイーンも微笑んでいる。

レオンも純粋に美味いと思った。


出雲はアビーの方を見て、その後クイーンとエンペラー達を見た。

「……続きをお話してもよろしいですか?後は悪いニュースですが」

「ええ」

出雲の言葉に、クイーンが頷く。


出雲がうなずき、話し始めた。


「では。アメリカ国内で、また。三名。ゼロワンの被害が出ました。被害者はこれで四十七名。添えられていたメッセージはいつもの通り。『ジャックを殺せ』」


出雲が言うと、一斉に、はぁ。というような溜息が聞こえた。

レオンの隣でイアンが息を呑む。アビーも表情を変えた。


「今回の被害者はやはりニーク氏のサロンから外れた方と、そのご家族です。……少し待って頂きましょうか?メインディッシュが済むまで?」

給仕がワゴンを押し、のろのろと入って来た。

メインディッシュの鴨肉までは、まだあと一品ある。


「いや、もう構わん。だがその件の仔細は、食事の後で聞きたい。レディもいる事だし。今は手短に頼むよ」

クレジオ氏が言って、そのほか数人が溜息を漏らした。

「彼等は?まあ、そうだな……いいのか」

ワン氏がレオン達を見た。

出雲が頷く。

「ええ。僕はこれから彼等とも協力して行きたいと考えていますが……クイーン。よろしいでしょうか?」

「そうですね。ふさわしいと思います」

クイーンが頷いて、出雲が微笑んだ。

「ありがとうございます」

「頂きましょうか。……出雲さん、続けて下さい」

クイーンが言って、レオン、イアン、アビーを見る。


「レオンさん、イアンさん……食事時にふさわしい話では無くて申し訳ありません」

クイーンは頭を下げた。


「いや。お気になさらず」「クイーン」

レオンが言った後、隣でイアンが口を開いた。


「――やはり、サロンを裏切ったメンバーが、あちらと通じていたというのは……本当なのですか?」

イアンが言った。


サロンからの裏切りは、サロンが内部からゼロワンに切り崩された結果だと言う。


「お前も聞いたのか?」

レオンはイアンを見た。この件に関して、レオンは宇野宮から聞いていた。

……というのもあるが、ゼロワンに関してはレオン達の方が詳しい。

被害報告の中にはレオン達がした物もあるくらいだ。

「ああ。さっき船でな」

イアンが溜息を付いた。


「確かに、……『彼等』の事はニーク氏からも聞いていましたが。信じられません。……ハヤミ氏。個人的な事で申し訳無いのですが。死亡した中に、外部ダンサーのキース・ジンデルという男と、その家族はいましたか?サロンで知り合いだったのですが」

イアンが丁寧に言った。少し声が震えている。


出雲は思い出すそぶりをした。

「――いえ、報告の中にはありませんでした。この段階で無いと言うことは、生き残っている可能性があります。キース氏のご家族については消息不明です。ですがキース氏の恋人とそのご家族に関してはルノフ氏のサロンで保護しています」

微笑んではいなかった。


「ロシアはまだ安全だ。当分、または一生面倒を見る。安心してくれ」

ルノフ氏が頷いた。

「……そうですか……。感謝します」

イアンが言って、深く溜息を付いた。


「キースは……実力あるダンサーだったのに、………………残念です」

イアンは言った。

「ダンサーなら尚更、気に入られたのかもしれませんね」

出雲が目を伏せた。

「……」

イアンはそこで黙り込んだ。


「ミスター・イズモ。『ジャックを殺せ』……これは昔からあったメッセージだが。ハヤミとの関係は?」

レオンは言った。


……レオンの友人が殺された時もそうだった。

殺された友人の側に、血文字でそのメッセージ残されていた。


あの時はレオンの友人『ジギー』のあだ名『JACK』の事かと思ったが。今回の件で分かった。

あいつらは『ジャック』を探している。

――ジャックというあだ名を持つ人間はそれこそ全世界に。石を投げれば当たるくらい山ほどいるのだが。まさか速水に関係があるのか?


「そうですね……」

出雲は少し眉を潜め、クイーンを見た。

「……私達は彼等の行動には関与しませんが……その在りようは不憫に思います」

クイーンが答えた。


「弟との関わりは不明です」

出雲が言った。

「そうか。ではクイーンと、エンペラーの方々はやつらの掃討に積極的では無いんだな」

出雲の言う事が本当なら、速水との関わりは無いのかもしれない。ノーと言われないのが気持ち悪いが。

「はい」

出雲が肯定する。

「それが分かれば十分だ。あれには触らない方がいいからな……。失礼しました」

レオンは非礼を詫びた。


「――レオンさんは、彼等を排除したいと考えておられるのですか?」

クイーンが言った。

クイーンから話かけられたのは初めてだ。


「……いや。さっさといなくなればいいと思うが、俺達も師父もこちらから関わるつもりは無い。万が一、ハヤミが奴らの言うジャックであった場合は、どうなるか分からないがな……やつらと全面対決ってのは……、絶対にゴメンだ」

レオンは奥歯を咬んだ。

そんなレオンを見てクイーンが微笑んだ。

「あら……?ですがレオンさん達は」


レオンのファミリーはかつて、進んでゼロワン狩りをした事がある。

その時はレオンの従兄妹キャサリンことキティが、ジギー殺害の実行犯にとどめを刺した。

組織にもかなりの痛手を負わせ、壊滅まで追い込み――警察にも感謝された。


それからしばらく大人しかったが。奴らはしぶとく復活した。


「運が良かったんだ。多分な。それに、あの頃の奴らは、今ほどデカくもなかった。ヤバいのは前からだが。触る気がないならいい」

レオンは言った。

変に介入されて、奴らが街で暴れるのが一番不味い。

出雲もサロンも、クイーンも、奴らの危険性を理解しているようだ。


「ジャパンは大丈夫だと思うが……ウノミヤにも良く言っといてくれ」

レオンは言った。

「ええ」

出雲が頷いた。

エンペラー達は一様に『全く、奴らには困った物だ』という表情をしている。

できれば触りたくないというのは共通しているようだ。


「そうですね。――重たい話は以上です。食事を楽しみましょう」

出雲が苦笑する。

それからレオンは少し冷めたメインディッシュをつついた。

アビーやイアンはもう食べ終えている。うまい鴨肉に少しは慰められた。

一皿目のデザートが運ばれて来て、寿が目を輝かせた。


「――ゴールディングだと?」

そこで出雲が持ち出した話題に、レオンは反応した。


「ええ。日本政府は米政府と取引をして、チャス・ゴールディングの身柄で手を打ちました」

「ほう?」

初耳だったので、レオンは興味深く聞いた。


日本政府は善良な国民である速水朔を誘拐され、やはり怒っていた。

だが日本はアメリカとは仲が良い。

日本は文句を言わない代わりにそいつの逮捕で手を打ったらしいのだが――。

……レオンにしてみれば、先程の『ゴールディングだと?』という言葉に尽きる。

隣でイアンも首を傾げている。


「緩い条件で恩を売ったのか?」

レオンは言った。

出雲は優雅にデザートを切り分けている。

「それも多少はありますが。今回は恩を売ったという訳では無くて――」


日本政府の交渉相手はルイーズ。

これはジョーカーにその気が無ければサク・ハヤミの身柄を取り戻すことはまず不可能と言う事。

そちらに関してはなる様にしかならない。あきらめていた。

ルイーズとの交渉に臨んだのは貧乏くじを引いた宇野宮だったのだが、宇野宮はその席で案外あっさりと速水を解放してもいいと言われた。

――つまり、元々そういう予定だったのだろう。

「地下の様子は聞いていましたが。特に問題も無いようでしたし。二代目JACKに地下での実績を作らせたかったんでしょうね」

それはいい。

――だが諸々の誘拐は事実。日本には、サク・ハヤミ意外にも攫われた日本人歌手がいる。

こんなことがこれ以上あっては困る。アメリカ政府もいい加減にしろ。


「ではどうするか?そこで日本警察が持ち出したのがチャス・ゴールディングの話です。今回は彼の身柄で手を打ちましょうと。彼は一応アメリカ国内のプロジェクトを総轄していましたし。ちょうど良かったんです。政府も『丁度捨て時』だと言ったそうです」


「はぁ??……それだけか?」

レオンは、速水の酷い時期を見ただけに呆れた。


――ここは怒るところか?

レオンはいまいちピンと来なかった。

まあ適当な人物に罪を着せてしまおうというのはわかる。

しかし……ゴールディング?

「大した情報も持って無さそうなヤツだったが……」

レオンは彼の事を思い出した。

「ええ。本当に――誰でも良かったんです。米国が喜んで切り捨てられる人物なら」


実際、それでいいなら是非どうぞ、という感じだったらしい。


速水もずいぶん安く見られた物だ。

レオンは速水とゴールディングなら、これはさすがに速水の方が価値がある……と思う。


日本側の速水の扱いは、レオンが思ったより、若干軽い。

出雲の語り口がそうというだけかもしれないが。

……速水が聞いたら何と言うだろう?


「実際にゴールディング氏はサク・ハヤミとノア・ヒルトンを誘拐していましたからね。冤罪では無いし、言い訳はできません。彼が正式に、サク・ハヤミ誘拐の犯人として逮捕される事になりました。――ところがこの人物、ちょっと変わった方でして」

出雲は相変わらず他人事、という風に話している。


「自分が米政府に売られたと知るや否や、ゼロワンに自分を逃がして欲しいと言ったようです。……良くも悪くも、彼のパイプは確かでしたから。……破れかぶれだったんでしょうが――下手に死なれては寝覚めが悪い。そこで身柄を拘束しておいたのですが。どうしても今日のステージが見たいと言いまして。そのくらいならと一般客と一緒に観覧予定です」


「はあ?」

レオンはあっけにとられた。


「ステージが楽しみですね」

出雲は微笑んだ。


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