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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
138/151

第14羽 MD ⑥ラストステージ(後編) -1/8-

四月十六日。日本。


何の変哲もない狭い会議室――窓際にテレビがあって、長机が二列かける四。窓はブラインドが閉まっている――にスーツ姿の男が二人いた。

一人は宇野宮大介。適当な茶髪。くたびれた表情。いつもの黒スーツに、ストライプのネクタイ。愛用のトレンチコートはカバンと一緒に、窓側の机に置いてある。置き方は雑だった。


もう一人の男は、年齢は六十代だろうか。

整えられた白髪の多い髪。やせ型で中背。定年が近いサラリーマンのような風貌で、口ひげを生やしている。ネクタイは緑地に紺色のストライプ。


「そう言うわけで。君が例の組織の責任者となった。正確には副室長だ。よろしく頼む」

一見して、頼りないという印象を与える男なのだが。印象と裏腹に口調はしっかりしている。


「はあ。それでこれが……」

宇野宮は分厚い封筒を四封受け取った。重さでずしりと肩が沈む。


「ああ。資料と、手帳に、任命状とパスポートと、とりあえずの腕章だ。無くすなよ。上も君達の働きにはそれなりに期待している。まあ……曲者ばかりだが、頑張ってくれ」


それで上司はまた「頑張れよ」と言って、宇野宮の肩を軽く叩いて去って行った。

「はぁ」

宇野宮は封筒を持ったまま溜息を付いた。

上司と言っても一応あの人の下にいる、という体なのでこういう時くらいしか会わない。


上司と入れ違いで扉がノックされた。

「入れ」

「失礼しまっす」

入って来たのは、黒髪に縁の赤い眼鏡をかけた宇野宮の部下――長尾だった。


「どうでした?」

「……」

宇野宮は分厚い封筒をまとめて長尾に渡した。

「うわ重っ。あ、戻って来たんですね、これ。せっかくコピー取ったのに。あっと、それより手帳、手帳見たいんですけど!?」

「この中だ」

宇野宮が言うと長尾は封筒を置いて、もう一つの封筒を開く。


中から出てきたのは、真新しい警察手帳が五冊と緑色のパスポートが五冊。

それに『警視庁』と分かりやすく書かれた腕章だった。

「おおっ!すげ!緑色!俺のは?」

長尾はパスポート表紙をぱらぱらとめくり、自分の顔写真をみつけた。

手帳も開き自分の物をみつけ、ついでに宇野宮と同僚の物をそれぞれよけた。


「いいか、絶対に無くすなよ。命より大事にしろ」

宇野宮は言った。

「勿論。わかってます。はいこれ宇野宮さんのです」

「ああ」

宇野宮は自分の新しい手帳とパスポートを受け取り、スーツの内ポケットに収めた。

「他はお前が管理しといてくれ。あと花菱にも渡しとけ」

「了解です」

長尾は封筒に手帳とパスポートを入れ直した。


机には『警視庁』と書かれた腕章が残っている。


「この嘘くさい腕章は?どうします?」

長尾が指をさす。

「しまっとけ。が、当面は手帳より役に立つ。忘れるなよ」

「了解です。それで――向こうさんと話付きましたか?」

「ああ。予定通り三人で現地に行く」

宇野宮が言うと、長尾が目を丸くした。

「えっ……まじで許可が取れたんですか?凄いですね」


宇野宮は頷いた。

「ああ。米政府が取引に応じた。で結果オーライ、初出動だ。後は無事に二人を連れて帰るだけだ」

「はぁあ。了解です。できたての『異能犯罪対策課』の初仕事が、いきなり海外ですか。聞いてましたけど、いざそうなると吃驚しますね。あ、この辺のやつ、また皆に読ませときます。宇野宮さんは――もう読みましたよね?」

長尾が封筒を見て言った。

「ああ。もういい」

宇野宮が適当に返す。

この封筒の中身――これからスカウトする予定の人物データは、既に飽きるほど読んで暗記している。というより、この資料をまとめたのが宇野宮と長尾なのだ。単に提出して戻って来た格好になる。おかげで宇野宮は眠かった。長尾はさっきまで寝ていたはずだ。


「そうだ。これから宇野宮さんの事、ボスって呼んで良いんですか?」

「いや。……副ボスだ」

「副ボス。ちょっとださいですね」

「正式には国際テロリズム対策課実働部隊、異能犯罪対策課・管理室、副室長――だとよ。めんどくせぇ」

思わず本音が漏れた。


「え?長くていいじゃないですか。略して異対課とか?あ、横文字の方がいいすかね。悪と戦う!正義の組織って感じで。まあどこに敵がいるのか分かりませんが――で、どこにいるんすかね?敵?」

「はぁ。知るか。もう行け」「はい」

宇野宮は手を振ると、長尾は資料を持って出て行った。


宇野宮はやれやれと椅子に座った。体が一気に重くなる。

ここ数日、お偉方にはさまれていた疲れがどっと出たのだ。


これでようやく、水宮家当主の念願が叶った。

宇野宮にとっては正直どうでも良いのだが、……うるさいので早めに叶えてやりたかったのだ。


宇野宮が十歳の時、いきなり本家当主から手紙が届いた。

その日から全てが変わった。宇野宮は警官になる為の猛勉強をさせられた。


宇野宮は当主の本当の目的を理解していた。しかし、理解していることが指名された理由ではない。

……どこにも属さず、野心も持たず。何を考える事も、何をする事もない。

そういう人間が欲しかった。それだけだ。

『やればできるように、なればなるように』しておくから任せた。というのが当主の言だ。


確かに主な仕事が隠蔽と規則無視と有り余る権力を振りかざす事では、下手に正義感のある人間には務まらない。無駄な野心があってもいけない。

だから自分は丁度良かったのだ。


テレビを付けると、ちょうどニュースが流れていた。


「多様化する国際社会の大規模なテロ行為に対応する為、内閣は警察庁警備局国際テロリズム対策課に初の実働部隊を設置しました。活動の内容は情報収集や諜報活動、海外でテロ犯罪に巻き込まれた邦人の救出など、多岐に渡るとみられます。次のニュースです。かわいい赤ちゃんが、ハイハイしていたと思ったら?」

ニュースキャスターが読み上げる。次のニュースは微笑ましい動画だ。


宇野宮はおお、やってた、と感心した。

このニュースは今日限りで、見られたのはラッキーだ。

明日の新聞の国際蘭に少し載る。以後は雑誌のすっぱ抜きも無し。それであっと言う間に忘れられる事だろう。

――何かがあって、思い出されるまでは。


「これからどうなるんだか」

彼はぼやいて、ひとまず寝る事にした。


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